職人技は、捨てるのではなく「使う場所」を絞る。社員3人・年商2,000万円から世界50カ国へ

勝手に企業診断

優れた技術を持っていれば、会社は成長する。

そんな単純な話ではありません。

どれだけ腕の良い職人がいても、その人にしか作れなければ生産量には限界があります。

どれだけ良い製品を作っても、顧客がその価値を知らなければ売れません。

つまり重要なのは、技術そのものではなく、「技術を顧客価値と利益に変える仕組み」を作れるかどうかです。

今回紹介する高山医療機械製作所は、その好例です。

かつては社員3人、年商2,000万円。

そこから社員32人、年商6億円、世界50カ国で製品が使われる医療機器メーカーへ成長しました。

その背景にあったのが、

「機械化×職人技」

そして、

「医師との共創」

という2つの仕組みでした。


国内シェア9割。「腕を助けてくれる」と言われる手術器具

高山医療機械製作所は1905年創業の手術器具メーカーです。

特に脳神経外科用のハサミは国内シェア9割。

世界50カ国で使用され、海外からも注文が入ります。

評価されているのは、そのなめらかな切れ味と使い勝手。

医師から、

「手術が上手くなった気がする」

「腕を助けてもらった」

と評価されるほどです。

吸引器ではアメリカで特許を取得した製品もあります。

しかし、最初から世界的なメーカーだったわけではありません。


社員3人、年商2,000万円からのスタート

4代目が会社を引き継いだころ、社員はわずか3人。

年商は2,000万円でした。

工作機械は一台もなく、製造はほぼ手作業。

職人の経験と勘に依存した世界です。

4代目は、このままでは成長できないと考えました。

そこで工作機械を導入します。

ところが、周囲からは歓迎されません。

「馬鹿息子が変なことを始めた」

そんな目で見られたそうです。

しかし、この判断が会社を大きく変えていきます。


職人を機械に置き換えたのではない

この会社の面白いところは、

「機械化=職人を不要にすること」

とは考えなかった点です。

現在では、日本に1台という最新鋭の工作機械も保有しています。

機械でできる工程は、機械に任せる。

一方で、切れ味を決定する最後の仕上げには、人の技術を残しました。

例えば「凹み磨き」と呼ばれる独自の仕上げ工程。

ここには職人技が使われています。

つまり、

機械にできる仕事まで職人にやらせない。

逆に、

品質を左右する仕事まで無理に機械化しない。

職人をなくしたのではありません。

職人にしかできない仕事へ、職人を集中させた。

この違いは非常に大きいと思います。


良い製品を作っても、世界では相手にされなかった

製造力を高めた高山医療機械製作所は、海外にも挑戦します。

世界各地の展示会へ出展しました。

ところが、ほとんど反応がありません。

いくら、

「このハサミはよく切れます」

「素晴らしい技術で作っています」

と説明しても、知らない日本企業の製品を簡単には使ってもらえない。

特に医療器具なら、なおさらでしょう。

ここで同社は、非常にシンプルな方法を取ります。

まず、無料で使ってもらったのです。


「説明する」のではなく「使ってもらう」

ワークショップなどに器具を無料で貸し出しました。

まず使ってもらう。

すると、

「これは使いやすい」

「切れ味が違う」

と製品の価値が伝わり始めます。

そこから利用が広がり、信用が生まれました。

これはマーケティングの観点でも興味深い事例です。

高山医療機械製作所が売っているものは、カタログだけでは価値が伝わりにくい。

だったら、

説明して納得させるのではなく、体験して納得してもらう。

その結果、現在では売上の約3割を海外が占めるまでになりました。


社長自身が手術現場へ入る

さらに重要なのが、顧客との距離です。

社長は世界中を飛び回り、実際の手術にも立ち会います。

年間の移動距離は世界3周分にもなるほど。

そこで医師の声を直接聞きます。

「もう少しここを変えてほしい」

「この形のほうが使いやすい」

「こんな器具があれば助かる」

そうした要望を持ち帰り、製品を改良する。

つまり、

製造 → 医師が使用 → 要望を収集 → 改良 → 再び使用

というサイクルが回っています。

ここまで来ると、単なる「医療器具メーカー」ではありません。

医師と一緒に、より良い手術器具を作る会社になっています。

この関係性こそ、同社の大きな競争優位だと思います。


高山医療機械製作所は何を変えたのか

構造の変化を整理すると、非常に分かりやすくなります。

視点以前現在
製造人手中心最新鋭設備+職人技
職人の役割幅広い工程を担当品質を左右する工程へ集中
製品一般的な手術器具切れ味・使いやすさで差別化
顧客との関係製造して販売医師の声を吸収し改良・共同開発
海外営業展示会で紹介体験→評価→信頼形成
規模3人・年商2,000万円32人・年商6億円
市場国内中心世界50カ国

単に「良いハサミを作ったから成長した」わけではありません。

製造方法、職人の役割、営業方法、顧客との関係まで変えた。

だから成長できたのだと思います。


私が考える、この会社の強み

第一は、当然ながら世界で評価される製造技術です。

ただし、私は「職人技」だけを強みとは考えません。

むしろ、

最新鋭設備と職人技を組み合わせ、品質と生産性を両立できる製造能力

そのものが強みでしょう。

第二は、世界の医師との信頼関係。

そして第三は、その医師の声を製品改良につなげられることです。

つまり同社の強さは、

「作れること」だけではなく、「顧客の声を聞いて、より良いものへ変え続けられること」

にあります。


それでも、次の成長には課題がある

一方、今後さらに成長すると考えた場合、ボトルネックも見えてきます。

一つは供給能力です。

世界50カ国へ販路が広がれば、生産量も増えます。

そこで職人にしかできない工程が増えれば、職人の人数がそのまま会社の成長上限になってしまいます。

もう一つが営業です。

社長自身が世界中を飛び回って医師との関係を作っていることは、現在の大きな強みです。

しかし逆に考えれば、

「社長が動かなければ顧客との関係が深まらない」

のであれば、そこも属人化しています。

次に必要なのは、製造だけでなく、営業・顧客関係まで組織能力に変えることでしょう。


短期:まず「どこで儲かっているか」を見よう

最初に取り組みたいのは、製品別・顧客別の採算性分析です。

世界中から注文が来るようになれば、すべての案件を同じように追うことが最適とは限りません。

どの製品が利益を生んでいるのか。

どの診療領域に強いのか。

どの顧客との共同開発が次の売上につながっているのか。

こうした情報を可視化し、高収益領域へ経営資源を集中させます。

同時に、

工程別工数・リードタイム・不良率・手直し率

などを把握する。

職人技だから管理できない、ではなく、職人技を守るためにこそ周辺工程を徹底的に効率化するのです。


中期:「医師との関係」を社長個人から会社の資産へ

次に重要なのが、世界中の医師との関係を会社の資産にすることです。

どの医師が、

どの製品を使い、

どんな課題を感じ、

どんな改良要望を出し、

その結果、製品がどう変わったのか。

これを蓄積する。

言ってみれば、「医師ニーズDB」です。

さらに定期的なワークショップやトレーニングなどを通じて、若手社員も医師との接点を持つ。

社長だけが顧客を知っている状態から、

会社として顧客を理解している状態へ変える。

ここまでできれば、営業の属人化はかなり減らせます。


長期:「器具を売る会社」から「医師と器具を開発する会社」へ

私は、高山医療機械製作所の将来像を単なる海外販路拡大だけには置きません。

同社の最大の資産は、

世界中の医師との信頼関係×高い製造技術

だからです。

脳神経外科で培った実績を基盤に、隣接する診療領域へ展開する。

ただ製品を持ち込むのではなく、

医師の課題を聞く → 試作品を作る → 使用してもらう → 改良する → 製品化する

という現在の成功パターンそのものを横展開する。

そうすれば、

「手術器具を販売するメーカー」から、

「世界の医師と、より良い手術器具を共創するメーカー」

へ進化できる可能性があります。


職人技を守りたければ、職人に何でもやらせてはいけない

この会社を分析して、特に印象に残ったのはここです。

日本の中小製造業には、優れた職人がたくさんいます。

しかし、

「職人技を大切にする」

ことと、

「昔ながらの作り方を全部残す」

ことは違います。

機械でできることは機械に任せる。

データで管理できることはデータで管理する。

そして、

人にしかできない最後の判断や技術に、人を集中させる。

高山医療機械製作所は、その考え方を100年以上の歴史を持つ会社で実践しました。

さらに、優れた技術を工場の中だけに閉じ込めず、社長自身が顧客の現場へ入り、医師との共創へつなげた。

だからこそ、

社員3人・年商2,000万円の会社が、

社員32人・年商6億円、世界50カ国で使われる企業へ変わったのでしょう。

技術を磨くだけでは、会社は成長しない。

技術を誰に使うのか。

どこを機械化し、どこに職人技を残すのか。

そして、顧客の声をどう次の製品へ戻すのか。

そこまで仕組みにして初めて、「優れた技術」が「強い会社」へ変わる。

高山医療機械製作所は、そのことを非常に分かりやすく教えてくれる企業だと思います。

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