「走ってなんぼ」。
長く運送業界を象徴してきた言葉です。
トラックを走らせる。
できるだけ多く運ぶ。
長く働いて売上をつくる。
しかし、この経営モデルは大きな転換点を迎えています。
ドライバーの労働時間には制約があり、人手不足も続いている。
つまり、これからの運送会社は、
「どれだけ走ったか」ではなく、「限られた時間で、どれだけ利益を残せたか」
を考えなければなりません。
そのためには、運送の現場で何が起きているのかを知る必要があります。
どの荷主で荷待ちが発生しているのか。
荷積み・荷卸しにどれくらい時間がかかっているのか。
その運行時間に見合った運賃を得られているのか。
ドライバーに無理な運行をさせていないか。
こうした実態をデータで捉え、利益と働きやすさの両方を改善する。
今回は、そんな経営への転換を進めるカホク運送について考えてみます。
日次決算からトラックの現在地まで「見える」
カホク運送は1957年創業、従業員34人の運送会社です。
特徴の一つが、積極的なデータ活用です。
日次決算を行い、顧客別の売上推移を把握。
さらにトラックの現在地や稼働状況もタイムリーに確認しています。
安全面でもデータを活用しています。
急ブレーキ、急加速、速度超過などをスコア化。
運行管理を徹底した結果、交通違反や事故の減少にもつながっています。
ただ、私がこの会社を見て面白いと思ったのは、
「DXを進めていること」そのものではありません。
データを何のために使っているかです。
データを「社員を締め付ける道具」にしない
運行状況が細かく見えるようになると、使い方によっては社員を監視する道具にもなります。
「なぜここで止まっていたんだ」
「もっと効率よく走れないのか」
「このドライバーは成績が悪い」
そんな使い方もできてしまいます。
ところが、カホク運送が向いている方向は少し違います。
ドライバーファーストです。
積み込み作業や荷待ちがドライバーの負担になっていると分かれば、社長自ら荷主と話し、労働環境の改善に動く。
生み出した利益も社員へ還元する。
その結果として、8年間離職者ゼロという実績につながっています。
データによって社員を管理するのではなく、
データによって「社員が働きにくくなっている原因」を見つける。
ここに、この会社のデータ活用の面白さがあります。
しかし、昔からこんな会社だったわけではない
現在の姿だけを見ると、
「社員思いの社長がDXを進めた会社」
に見えます。
しかし、過去はまったく違いました。
社長就任当初、会社には約1億5,000万円の借金がありました。
会社を立て直すため、社長は利益と規律を重視します。
トップダウンで指示を出し、社員にも厳しく接する。
社員から恐れられる存在だったそうです。
そんな会社を大きな出来事が襲います。
東日本大震災です。
会社は全壊。
社長は会社を解散しようと考えます。
ところが社員から言われた言葉がありました。
家族や兄弟を亡くした。
そのうえ仕事までなくなったら、どう生きていけばいいのか。
その言葉を受け、社長は会社の再建を決意します。
ここから経営の方向が変わっていきます。
「社長が管理する会社」から「社員が動く会社」へ
以前は社長が指示を出し、社員がそれに従う会社でした。
しかし現在は、情報を共有し、社員自身が考えて動く方向へ変わっています。
その土台になっているのがデータです。
一部の人だけが数字を持っている状態では、現場は経営を自分事として考えにくい。
逆に、会社の状況や現場の状態が見えれば、
「ここは無駄ではないか」
「この運行は負担が大きい」
「もっと改善できるのではないか」
と考えられるようになります。
つまりカホク運送のDXは、
「経験と勘→データ」だけの変革ではありません。
「社長が判断する会社→情報を共有し、社員が主体的に動ける会社」
への変革でもあるのです。
年商は社長就任当初から約5倍まで成長したとされています。
これから重要なのは「売上」より「時間当たりの利益」
ここからは、私ならカホク運送の次の成長をどう考えるかです。
まず取り組みたいのが、時間収益性の可視化です。
たとえば売上の大きな荷主がいたとします。
年間売上だけを見れば「重要顧客」です。
しかし、
荷待ちが長い。
荷役に時間がかかる。
拘束時間が長い。
という状況ならどうでしょう。
売上は大きくても、時間当たりで見ると、それほど利益を生んでいない可能性があります。
そこで、
荷主別売上 × 荷待ち・荷役時間 × 拘束時間 × 運行コスト
などを組み合わせて見る。
すると、
「売上は大きいが、実は時間を取られている荷主」
が見えてきます。
ここまで見えて初めて、
「荷待ち時間を減らせませんか」
「荷役方法を変えられませんか」
「この条件では採算が合わないため、運賃を相談させてください」
という具体的な改善につながります。
データを見ることが目的ではない。 データを、荷主との交渉や運行改善につなげる。
ここまでやって初めて、データが利益を生みます。
「ドライバーファースト」を採用力に変える
もう一つ、この会社には大きな資産があります。
8年間離職者ゼロという実績です。
ドライバー不足の時代に、これは非常に強い。
ただし、
「当社は社員を大切にしています」
と言うだけでは、求職者には伝わりません。
そこでデータを使います。
平均拘束時間。
休息時間の確保状況。
事故件数。
安全運転への取り組み。
離職状況。
こうした実績を求人や採用活動で示す。
すると、
データで働きやすさを証明 →求職者の不安を減らす →応募につなげる →入社後も実態とのギャップを減らす →定着につなげる
という流れをつくれます。
データ活用は、運行効率化だけではありません。
採用力を高める武器にもなり得るのです。
荷主の「運送会社」から「物流改善パートナー」へ
さらに長期的に面白いと思うのが、荷主との関係です。
カホク運送は、荷主から
「自社に倉庫がない」
といった困りごとも聞き、物流倉庫の整備も検討しています。
ここには大きな可能性があります。
単に、
「荷物をA地点からB地点へ運びます」
という関係ではなく、
「御社の物流の何が問題なのか、一緒に考えます」
という関係へ変わるからです。
荷待ちが長い。
荷役に時間がかかる。
積載効率が悪い。
倉庫が足りない。
配送方法を見直したい。
こうした荷主の困りごとを蓄積し、
困りごとの把握 →データによる原因分析 →改善提案 →実行 →効果確認 →次の改善提案
まで回せるようになれば、運送会社の役割そのものが変わります。
価格だけで比較される「運ぶ会社」から、
荷主の物流を一緒に良くする会社
への転換です。
これが実現すれば、荷主との関係も長くなり、簡単には他社へ切り替えられない関係をつくれる可能性があります。
カホク運送から見える「データ経営」の本質
カホク運送の事例を見ていると、DXについて一つ重要なことに気づきます。
データを集めることがDXなのではありません。
トラックの位置が分かる。
売上が見える。
安全運転スコアが出る。
それだけなら「見える化」で終わります。
重要なのは、その数字を使って何を変えるかです。
利益を見える化する → 儲からない運行を変える。
荷待ち時間を見える化する → 荷主と改善する。
運行状況を見える化する → ドライバーの負担を減らす。
安全性や働きやすさを見える化する → 採用に生かす。
つまり、
データ→判断→行動→結果
までつながって初めて、データは経営の武器になります。
そして、もう一つ興味深いことがあります。
かつて社長が厳しく管理していた会社が、今ではデータを共有し、社員が主体的に動く会社へ変わっていることです。
データは、人を管理するためだけの道具ではない。
社員が自ら考え、会社を良くするための共通言語にもなる。
「走ってなんぼ」から、
「考えて、改善して、利益を残す」へ。
カホク運送の変化は、これからの運送会社の一つの方向性を示しているように思います。


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