強いブランドを持っていれば、自然と高く売れる。
そんなふうに考えたくなる。
しかし、実際はそれほど単純ではない。
どれだけ良い素材を使っていても、
どれだけ丁寧に家を作っていても、
その価値がお客様に伝わらなければ、結局は価格比較になってしまう。
特に住宅は難しい。
「暖かい家です」
「丈夫な家です」
「木のぬくもりがあります」
と言われても、購入前のお客様には違いが分かりにくい。
だから必要なのは、
ブランドを持つことではなく、そのブランド価値を“感じてもらう仕組み”を持つこと
なのだと思う。
今回紹介する小嶋工務店は、
東京の木を使う。
品質を数値で示す。
実際に木材の産地や加工現場を見てもらう。
という方法で、住宅の見えにくい価値を伝えてきた企業である。
- 東京で建てる家に、東京の木を使う
- 「暖かい家です」だけでは信用できない
- しかし、数字を見せるだけでも足りない
- 家を売る前に、「物語」を体験してもらう
- 実は、一度会社がどん底まで落ちている
- この会社は、何者から何者へ変わったのか
- 最大の強みは「木」ではなく、「木の価値を伝える仕組み」
- ただし、体験ツアーを開けば売れるわけではない
- 短期:過去の購入者から「未来のお客様」を見つける
- 「東京の木が好きな人」を探すのではない
- 中期:体験ツアーを「受注プロセス」に変える
- 長期:「家を売る」から「暮らし方を提案する」へ
- セミオーダー化は「目的」ではなく、必要なら使う
- この会社の勝ち筋は「ブランド木材」だけではない
- ブランドは「知ってもらうもの」ではなく、「自分ごとにしてもらうもの」
東京で建てる家に、東京の木を使う
小嶋工務店は1965年創業の工務店である。
社員数は約54人。
特徴的なのが、
「TOKYO WOOD」
というブランド木材を使った家づくりである。
東京の山で育った木を使い、
地域の林業。
製材。
加工。
工務店。
が連携しながら家を作る。
単に、
「国産材を使っています」
ではない。
東京で育った木を、
東京の家に使う。
そこには、
地産地消という物語
がある。
さらに、木材そのものにも強いこだわりがある。
一般的には機械による人工乾燥が多い中、TOKYO WOODでは天然乾燥を取り入れる。
そして強度や含水率などを数値で管理する。
つまり、
「何となく良い木」
ではなく、
品質を根拠で説明できる木
なのである。
「暖かい家です」だけでは信用できない
この会社の面白さは、
社長自身が住宅業界の「曖昧さ」に違和感を持ったことにある。
住宅のカタログには、
「暖かい」
「涼しい」
「快適」
といった言葉が並ぶ。
しかし、
「なぜ暖かいのか」
「どれくらい性能が高いのか」
という根拠が分かりにくいことも多い。
そこで小嶋工務店は、
感覚的な言葉だけではなく、
エビデンスを持って家の価値を説明する
方向へ進んだ。
これは地味に見えるが、かなり重要だと思う。
家は数千万円する買い物である。
それなのに、
「何となく良さそう」
だけでは決断しにくい。
だから、
木材の強度。
含水率。
住宅性能。
といった数値を示す。
感性で感じる価値と、理屈で納得できる価値を両方持つ。
これがTOKYO WOODの強さの一つではないだろうか。
しかし、数字を見せるだけでも足りない
ただし、住宅は数字だけでも売れない。
例えば、
「含水率○%」
「強度○○」
と説明されても、一般の消費者にはピンとこない。
そこで小嶋工務店が行っているのが、
体験型のバスツアー
である。
木が育つ場所を見る。
製材の工程を見る。
家づくりに関わる人たちの話を聞く。
実際に木に触れる。
地域の林業や加工業者が、
どんな思いで家づくりに関わっているのかを知る。
すると、
「東京の木で家を建てる」
という言葉が、急に具体的になる。
つまり、
説明を、体験へ変えている。
私はここが非常に面白いと思う。
家を売る前に、「物語」を体験してもらう
普通の住宅営業なら、
モデルハウスを見せる。
間取りを説明する。
価格を提示する。
という流れになりやすい。
しかし小嶋工務店は、その前段階で、
「この家は、どんな人たちによって、どんな木から作られるのか」
を見せる。
言い換えれば、
住宅そのものではなく、
住宅ができるまでの物語
を商品化している。
これはかなり強い。
なぜなら、木材の性能だけなら他社も追いつく可能性がある。
しかし、
林業者。
製材会社。
加工会社。
工務店。
が長年一緒にブランドを育ててきた関係性は、簡単には真似できない。
つまりTOKYO WOODは、
木材ブランドであると同時に、
地域企業の連携そのものがブランドになっている
とも言える。
実は、一度会社がどん底まで落ちている
現在の姿だけを見ると、順調に成長してきた会社に見える。
しかし、社長就任当初はかなり厳しい状況だった。
バブル崩壊。
低価格志向。
阪神・淡路大震災後の経営悪化。
社員の退職。
資金不足。
借入金は16億円に達し、銀行から厳しい言葉を浴びせられるほどだったという。
それでも、
「父が亡くなるまでに良い会社にしたい」
という思いで踏みとどまった。
転機になったのが、
東京の木を使う家づくりである。
この取り組みが国土交通省の長期優良住宅関連事業に採択されたことを契機に、
「東京の木」を本格的にブランド化した。
その後、
林業。
製材。
加工。
工務店。
が一体となるTOKYO WOODプロジェクトへ発展した。
年商は社長就任当初の約15億円から、約25億円まで成長した。
単に売り方を変えたのではない。
会社が何を大切にするのかを、作り直した。
その結果として現在のブランドがある。
この会社は、何者から何者へ変わったのか
構造の変化を整理すると、小嶋工務店の成長が見えやすい。
素材
一般的な木材
↓
ブランド木材「TOKYO WOOD」
素材そのものに物語と品質保証を持たせた。
売り方
カタログ・商品説明
↓
体験型バスツアー
言葉で伝えるだけでなく、実際に見て感じてもらう。
売るもの
一般的な住宅
↓
地元の木、品質、耐久性、住み心地、地域への思いまで含めた家
住宅というモノから、暮らしの価値へ変わっている。
家づくり
林業・製材・加工・工務店がそれぞれ分業
↓
プロジェクトチームとして一体化
サプライチェーンそのものをブランドに変えた。
最大の強みは「木」ではなく、「木の価値を伝える仕組み」
私は、小嶋工務店の最大の強みは単にTOKYO WOODを使えることではないと思う。
本当の強みは、
良い木を、良い木だと理解してもらう仕組み
まで持っていることではないだろうか。
品質を数値で示す。
産地を見せる。
加工現場を見せる。
関係者の思いを伝える。
実際に住んでいる人の声を聞く。
これらが一体になることで、
目に見えにくい住宅品質を、
エビデンスと体験
によって可視化している。
この仕組みは簡単には真似できない。
ただし、体験ツアーを開けば売れるわけではない
一方で、次の成長を考えると課題も見える。
体験ツアーそのものは強い。
しかし、
誰をツアーへ呼ぶのか。
そして、
参加した人をどう契約につなげるのか。
ここは別問題である。
誰でも大量に呼べばいいわけではない。
住宅購入を考えていない人が100人来ても、受注にはつながりにくい。
むしろ重要なのは、
TOKYO WOODの価値が最も刺さる人を見つけること
だと思う。
短期:過去の購入者から「未来のお客様」を見つける
そこでまずやりたいのが、過去顧客の分析である。
例えば、
家族構成。
年齢。
居住地域。
購入前に何を重視していたか。
なぜ小嶋工務店を選んだのか。
TOKYO WOODの何に魅力を感じたのか。
最終的な購入決定要因。
住んだ後に評価している点。
こうしたデータを整理する。
すると、
「地元の木に共感した人」
「子どもや孫の代まで長く住みたい人」
「住宅性能を重視する人」
「木の質感や住み心地を大切にする人」
など、いくつかの顧客パターンが見えるはずである。
そして、
実際に受注率・粗利・顧客満足度が高いパターン
を重点ターゲットにする。
ここが重要である。
単なる「30代子育て世帯」といった属性だけではない。
価値観まで含めてターゲットを定義する。
「東京の木が好きな人」を探すのではない
マーケティングというと、
年齢。
年収。
家族構成。
地域。
でターゲットを区切りがちである。
しかし住宅では、
「何を大切にして家を選ぶか」
のほうが重要かもしれない。
例えば、
「多少価格が高くても、耐久性を重視したい」
「子どもが独立した後も長く住みたい」
「地元のものを選びたい」
「木の質感を楽しみたい」
といった価値観である。
この価値観と、
TOKYO WOODの強みを結びつける。
そうすれば、
広告のメッセージも変わる。
「東京の木を使っています」
ではなく、
「孫の代まで住み続けられる家を、東京の木でつくる」
といった提案ができる。
ブランドが、
単なる素材名から、
顧客の暮らし方を表す言葉
へ変わっていく。
中期:体験ツアーを「受注プロセス」に変える
次に重要なのが、体験ツアー参加後である。
ツアー参加者について、
なぜ参加したのか。
住宅購入時期。
予算。
土地の有無。
家づくりで重視すること。
TOKYO WOODのどこに関心を持ったか。
こうした情報を取る。
そして過去の成約顧客データと照合する。
すると、
成約可能性の高い顧客
をある程度見分けられる。
例えば、
購入時期が近い。
土地が決まっている。
耐久性を重視する。
地元材への共感が強い。
家族内の意思決定が進んでいる。
といった顧客には、
ツアー後すぐに個別相談を行う。
重要なのは、
体験ツアーを単独イベントで終わらせないことだ。
集客 → 体験 → 個別相談 → 設計提案 → 契約
までを一つのプロセスとして設計する。
そうすれば、
体験ツアーは「会社を知ってもらうイベント」から、
受注を生み出す経営資産
へ変わる。
長期:「家を売る」から「暮らし方を提案する」へ
そして長期では、もう一段深く考えたい。
小嶋工務店の強みは、
東京の木。
エビデンス。
体験。
地域連携。
である。
これらを生かすなら、
単に住宅のバリエーションを増やすより、
顧客の暮らし方に合わせた提案
へ進むほうが自然ではないだろうか。
例えば、
小さな子どもがいる家庭。
↓
安全性、健康、木のぬくもり。
子どもが独立した夫婦。
↓
生活動線、断熱性、メンテナンス性。
三世代同居。
↓
プライバシー、耐久性、将来の間取り変更。
こうした家族のライフステージごとに、
TOKYO WOODの価値をどう生かすかを提案する。
つまり、
「木を売る」のではなく、「TOKYO WOODでどんな暮らしができるのか」を売る。
この方向は、ブランド価値をさらに高める可能性があると思う。
セミオーダー化は「目的」ではなく、必要なら使う
設計効率を上げるために、過去案件をパターン化するのも一つの方法である。
例えば、
三世代住宅。
子育て住宅。
平屋。
老後を見据えた住宅。
などで、共通する設計要素を整理する。
ただし、
「セミオーダー化すること」
そのものを目的にはしたくない。
小嶋工務店の強みが、顧客ごとの暮らしに合わせた提案にあるなら、個別性は残す必要がある。
だから、
繰り返し使える部分だけ標準化し、顧客価値を生む部分は個別対応する。
このバランスが重要だと思う。
この会社の勝ち筋は「ブランド木材」だけではない
小嶋工務店の勝ち筋を一言で表すなら、
ブランド木材 × エビデンス × 体験 × 顧客に合った暮らしの提案
ではないだろうか。
ブランドだけでは売れない。
エビデンスだけでも売れない。
体験だけでも契約にはならない。
重要なのは、
まず、
誰に刺さるのかを見極める。
次に、
実際に見て、触れて、感じてもらう。
そして、
その人の暮らし方とTOKYO WOODの価値を結びつける。
この流れである。
ブランドは「知ってもらうもの」ではなく、「自分ごとにしてもらうもの」
ブランドというと、
認知度を高める。
ロゴを作る。
広告を出す。
という話になりがちである。
しかし、本当に強いブランドは、
「知っている」
だけではなく、
「自分にはこれが合う」
と思ってもらえるブランドなのだと思う。
小嶋工務店が長年育ててきたTOKYO WOODには、
品質。
地域性。
物語。
人のつながり。
という強い資産がある。
次の成長で重要なのは、
それをもっと広く見せることより、
その価値が最も刺さる人に、最も伝わる形で届けること
なのかもしれない。
ターゲットを絞る。
価値を体験してもらう。
その人に合った暮らし方を提案する。
この流れができれば、
TOKYO WOODは、
「東京の木のブランド」
から、
「自分たちらしい暮らしを実現するために選ぶブランド」
へ、もう一段進化できるのではないだろうか。

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