良い戦略を考えたつもりが、会社の強みを壊していた。企業分析を続けて見えてきた3つの思考の罠

勝手に企業診断

企業分析を続けていると、自分なりの「見るポイント」はかなり増えてきた。

その会社は、なぜ選ばれているのか。

何が利益を生んでいるのか。

成長したとき、どこがボトルネックになるのか。

その強みは再現可能なのか。

こうしたことは、以前よりかなり考えられるようになったと思う。

一方で、分析を重ねるからこそ、自分の**「思考の癖」**も見えてきた。

そして最近、かなり耳の痛い指摘を受けた。

例えば、

「SNSでファンコミュニティを作る」

「高収益事業へ選択と集中する」

「標準化率をKPIに置く」

一見すると、どれもそれほど間違った提案には見えない。

私自身、何度も使ってきた。

しかし企業によっては、こうした“正しそうな言葉”を使った瞬間に、分析が急に浅くなる。

場合によっては、

その企業の強みそのものを壊す提案になる。

今回は、最近の企業分析から見えてきた、自分の3つの思考の罠について整理してみたい。

強みは「何ができるか」ではなく、「なぜそれができるか」

最近、自分の分析で比較的うまくできていると感じるのは、企業の強みを単なる機能で終わらせないことである。

例えば、高山医療機械製作所。

強みを、

「高い加工技術を持つ」

だけで終わらせると普通である。

しかし実際には、

機械で再現できる工程は最新設備へ移し、

最後の品質を左右する部分は職人が担う。

つまり、

職人技×最新設備

という組み合わせそのものが競争力になっている。

丸一川口BASEも同じである。

単に、

「縫製技術がある」

のではない。

企画。

設計。

型紙。

裁断。

縫製。

仕上げ。

までを一貫して持つから、

顧客から困りごとを聞いた瞬間に、素早く試作まで持っていける。

つまり強みは、

「困りごとを聞いたら、すぐ形にできること」

なのである。

最近はこうした、

「この会社独特の生態系」

を見ることをかなり意識している。

売上より先に、「売れたら困らないか」を見る

もう一つ、自分の中で変わってきたのは、

「どう売上を増やすか」

だけでは考えなくなったことである。

むしろ、

「本当に売れて大丈夫なのか」

を見る。

例えば、熟練者しかできない工程がある会社。

営業を強化して注文が2倍になったらどうなるか。

おそらく、その熟練者のところで仕事が止まる。

設計力が強みの会社なら、

受注が増えるほど個別設計も増え、設計者がパンクするかもしれない。

つまり、

需要を増やす前に、供給できる構造になっているか。

ここを見ない成長戦略は危ない。

最近は、

「強みが、そのまま成長のボトルネックになっていないか」

を見ることが、自分の企業分析の一つの軸になっている。

しかし、ここから自分の「悪い癖」が出る

問題は、その後である。

会社の強みや課題までは比較的うまく捉えられる。

ところが、

「では、この会社はこれから何をすべきか」

となった瞬間、急に一般論へ逃げることがある。

その代表が、

SNSとコミュニティである。

罠その1 何でもSNS・コミュニティにしてしまう

例えば高山医療機械製作所。

医師との関係をさらに強めるために、

「SNSで医師のコミュニティを作る」

と考えたことがある。

しかし、改めて考えると違和感がある。

この会社はすでに、

手術現場。

学会。

医師向けトレーニング。

製品開発。

といった、非常に強いリアルな接点を持っている。

それなのに、なぜわざわざSNSという一般的な手段を持ち込む必要があるのか。

丸一川口BASEも同じだった。

「ファンコミュニティを作り、自社ブランドの商品開発へつなげる」

と考えた。

しかし、この会社にはすでに、

社長自身が顧客へ困りごとを聞きに行く営業。

AIデザインソフトを使った商談。

試作品を即座に作れる一貫生産体制。

という、他社にはない強烈な顧客接点がある。

だったら、最初に考えるべきなのは、

新しい顧客接点を作ることではない。

今持っている最強の顧客接点を、

どう会社全体で再現できるようにするか

だった。

これはかなり重要な反省だった。

新しい施策を考える前に、「すでに持っているもの」を見る

最近は戦略を考えるとき、まず一つ問いを置くようにしたいと思っている。

「この会社が今持っている、他社が簡単には真似できない最強の資産は何か?」

そこから考える。

医師との接点が強いなら、それをDB化する。

試作スピードが強いなら、そのプロセスを標準化する。

既存顧客との信頼が強いなら、そこから新しい用途へ広げる。

社員の提案力が強いなら、その成功パターンを共有する。

すぐに、

SNS。

サブスク。

コミュニティ。

AI。

海外展開。

といった便利な言葉へ逃げない。

戦略とは、新しいことを始めることではなく、今ある強みを一段深く使うことでもある。

ここは今後かなり意識したい。

罠その2 「選択と集中」が正しいとは限らない

もう一つ、かなり面白かった指摘がある。

丸一川口BASEは15もの事業を展開している。

私はこれを見て、

「事業が多すぎて経営資源が分散している」

と課題設定した。

そして、

「高収益事業へ選択と集中すべき」

と考えた。

経営の教科書としては、それほどおかしくない。

しかし、ここにも落とし穴があった。

この会社の強みは何だったか。

顧客の困りごとを見つける。

すぐ試す。

失敗してもいい。

面白ければ挑戦する。

そこからサウナグッズなど新しい事業が生まれてきた。

つまり、

一見すると非効率な挑戦こそが、この会社の成長エンジンだった。

そこへ外から、

「採算の悪い事業はやめましょう」

「儲かるところへ集中しましょう」

とやれば、短期的には利益率が上がるかもしれない。

しかし、その代わりに、

「次の事業を生み出す力」

まで消してしまう可能性がある。

効率化すれば、必ず会社が強くなるわけではない

これはかなり考えさせられた。

私は企業を見ると、

どうしても、

標準化。

効率化。

高収益領域への集中。

を考えやすい。

しかし企業によっては、

「無駄に見える余白」

「失敗できる予算」

「とりあえずやってみる文化」

こそが競争優位になっている。

だったら、必要なのは単純な選択と集中ではない。

「稼ぐ事業」と「育てる事業」と「試す事業」を分けて管理すること

ではないかと思う。

例えば、

収益事業

すでに利益を生んでいる事業。

ここでは効率化や粗利改善を徹底する。

育成事業

将来の柱として期待できる事業。

一定期間、必要な人材や資金を投入する。

探索事業

まだ売れるか分からない。

しかし小さく試す価値がある。

ここでは「失敗予算」を使い、多数の実験を許容する。

こうすれば、

深化と探索を同時に行える。

単に、

「儲からない事業を切る」

より、企業の個性を残した戦略になる。

戦略は「弱みを消す」ことではない

企業分析をしていると、つい課題を探してしまう。

そして課題を見つけると、

「これをなくしましょう」

と考える。

しかし、弱みに見えるものが、強みの裏返しであることも多い。

多角化している。

↓

経営資源が分散している。

でも、

↓

新しい市場を試す文化がある。

職人依存している。

↓

生産性が低い。

でも、

↓

品質を生み出す独自技能がある。

社長依存している。

↓

組織化されていない。

でも、

↓

社長にしか築けなかった強烈な顧客関係がある。

だから課題改善では、

「何をなくすか」だけではなく、「何を絶対に壊してはいけないか」

を見なければならない。

ここも最近、強く感じている。

罠その3 KPIが「名詞」になってしまう

そしてもう一つの課題がKPIである。

私は企業分析の最後に、

KGI。

主要KPI。

先行KPI。

決定因子。

まで落とすことが多い。

そこで、

「高粗利商品数」

「DB活用率」

「標準化率」

などを置くことがある。

数字としては測れる。

しかし、よく考えると、

その数字を見て、現場の人は今日何をすればいいのか。

が分からないことがある。

例えば、

「高粗利商品数を増やす」

と言われても、

具体的に何をすればいいのか分からない。

一方で、

「医師の要望から生まれた商品改良件数」

なら、

医師からニーズを聞く。

社内へ共有する。

改良案を作る。

という行動につながる。

丸一川口BASEなら、

「試作プロセス標準化率」

よりも、

「困りごとを聞いてから試作品を提示するまでの日数」

のほうが、会社の強さが見える。

KPIは、会社の活動を表す数字である。

だから一般的な名詞ではなく、

その会社独自の“動詞”が見える指標

にする必要がある。

KPIを見れば、その会社が何をしているか分かる状態にする

理想的には、

KPIツリーだけを見ても、

「この会社は、こういう会社なんだな」

と分かる状態がよいと思う。

例えば、

医師起点の商品改良件数。

困りごと→試作案件化率。

試作までの平均日数。

設計テンプレート再利用率。

初回導入から設備更新までの提案件数。

これなら、その会社固有のビジネスプロセスが見える。

逆に、

顧客満足度。

LTV。

商品数。

DB活用率。

だけでは、どの会社にも当てはまる。

KPIまで企業固有であること。

ここは、自分の企業分析をもう一段深めるうえで重要なテーマになりそうだ。

自分の分析で守りたい3つのルール

最近の指摘を整理すると、今後は戦略を考えるときに3つのルールを置いてみたい。

1つ目。

新しい施策を考える前に、既存アセットを使い切る。

2つ目。

効率化する前に、その非効率が強みを生んでいないか確認する。

3つ目。

KPIは名詞ではなく、現場の動きが見える指標にする。

この3つだけでも、かなり分析の質が変わる気がしている。

テンプレートは便利。でも、テンプレートに企業を合わせてはいけない

私はこれまで企業分析を重ねながら、

用途再定義。

上流参画。

顧客接点。

共創。

属人知資産化。

LTV。

といった自分なりの「型」を作ってきた。

型を持つこと自体は悪くない。

むしろ、分析スピードも上がる。

ただし怖いのは、

企業を見て型を使うのではなく、型に企業を当てはめ始めること

である。

「この会社ならSNSコミュニティ」

「多角化しているから選択と集中」

「継続購入だからLTV」

と、反射的に考え始めると危ない。

型は答えではない。

問いを作る道具である。

結局、最後に見るべきなのは、

「この会社だからこそ、何が一番効くのか」

なのだと思う。

企業分析は、会社の個性を消さずに成長させる仕事なのかもしれない

企業にはそれぞれ、変わったところがある。

社長の異常な営業力。

職人の特殊技能。

失敗を歓迎する文化。

顧客との独特な関係。

普通なら非効率に見える仕事のやり方。

そうしたものを、

「非効率だからなくしましょう」

と整理するのは簡単である。

しかし、その変わった部分こそが、

企業がその企業である理由

なのかもしれない。

だから、良い戦略とは、

会社を普通の優良企業へ近づけることではない。

その会社にしかない強みを残したまま、もっと稼げる構造へ変えること。

最近、自分の企業分析を続けながら、そんなことを考えるようになった。

一般論に逃げない。

強みを効率化で殺さない。

その企業独自の行動をKPIにする。

まだまだ企業を見る目は磨く余地がある。

でも、その試行錯誤自体が、今はかなり面白い。

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