「障がい者を採用するなら、私は辞めます」
そんな言葉を社員から投げかけられたら、経営者はどうするだろうか。
今回、企業診断のトレーニングで取り上げたのは、生花店のローランド。
障がい者雇用を事業の強みに変えた、興味深い企業だ。
5人中4人が辞めてしまった
もともとは、一般的な花屋だった。
しかし、社長には障がいのある人に働く機会を提供したいという強い思いがあった。
あるとき、障がいのある人たちにフラワーアレンジメントを教える機会があった。
そこで目にしたのは、想像以上に素晴らしい作品だった。
「この人たちと一緒に働きたい」
そう考え、社員に障がい者の採用を提案した。
ところが、猛反対にあう。
「ハサミを振り回したらどうするんですか?」
「採用するなら辞めます」
そして、5人いた社員のうち4人が退職。
残ったのは、社長の母親だけだったという。
普通なら、ここで諦めてしまいそうだ。
しかし、社長は逆の発想をした。
「障がい者雇用に挑戦する花屋」という理念に共感してくれる人を集めよう。
すると、その思いに共感する人材が集まってきた。
花が好きだから働く会社から、目指す社会に共感して働く会社へ。
ここに、同社の大きな転換点があったのだと思う。
「できない仕事」を「できる仕事」に変える
障がい者雇用が難しいと考える企業は少なくない。
仕事を任せられるのか。
品質を維持できるのか。
長く働いてもらえるのか。
ローランドが面白いのは、こうした課題に対して、個人の頑張りだけに頼らない仕組みをつくっていることだ。
例えば、花束づくり。
一人で最初から最後まで仕上げるのではなく、
花を束ねる。
リボンをつける。
飾りつけをする。
といった具合に、工程を分解する。
それぞれの人が得意な作業を担当できるようにするのだ。
さらに、仕事を教えるジョブトレーナーと、心理面や生活面を支える専門スタッフを配置する。
人を仕事に無理やり合わせるのではなく、人が力を発揮できるように仕事と支援体制を設計する。
ここが、同社の強さなのだと思う。
社会貢献だけでは、事業は続かない
同社では、多くの障がいのある人が働いている。
ただ、雇用を増やすだけでは事業は成り立たない。
働く人が増えれば、それに見合う仕事量も必要になる。
そこで重要になるのが、仕事を発注してくれる企業との関係だ。
障がい者雇用や社会課題の解決に関心のある企業から、継続的に仕事を受託する。
そして、受けた仕事を、働く人の特性に合わせて分解・配置する。
つまり、同社の強みは二つある。
仕事を生み出すネットワークと、仕事を任せられる仕組み。
この両方があるからこそ、障がい者雇用を事業として拡大できるのだと思う。
なお、企業から業務を受託することと、その企業自身が法定雇用率を満たすことは別の話だ。雇用率への算入には制度上の要件がある。
私なら、次に何を提案するか
今回の企業診断では、同社の成長戦略を三段階で考えた。
まず、短期。
一人ひとりの得意な作業や苦手な作業、指導方法、成長の過程を整理する。
あわせて、工程ごとに必要なスキルや難易度を見える化する。
その情報を活用し、適切な仕事の配置や育成につなげる。
ただし、障がいの特性だけで人を分類するのではない。
実際の仕事ぶりや本人の希望を踏まえ、支援のノウハウを組織で共有することが目的だ。
次に、中期。
蓄積したノウハウを活用して、障がい者雇用に悩む企業への支援を広げる。
さらに、仕事を発注してくれる企業とのネットワークを強化する。
そして、長期。
同じ理念を持つパートナーとの連携を広げ、より多くの仕事を受けられる体制をつくる。
同時に、働く人のスキルアップによって、より付加価値の高い仕事にも挑戦していく。
仕事の確保と、働く人の成長を両輪で進める。
そんな戦略を考えた。
最後に
支援ノウハウをデータベース化するだけでは不十分だ。
それによって、仕事への適応や定着、品質、生産性がどれだけ改善するのか。
さらに、ネットワークを広げることで、安定した仕事量を確保できるのか。
そこまで検証しなければ、経営戦略とはいえない。
今回、特に印象に残ったのは、理念が事業の仕組みを変えたということだ。
障がい者雇用を大切にしたい。
その思いを掲げるだけでなく、採用する人材を変え、仕事の工程を変え、支援体制を変え、取引先との関係まで変えてきた。
理念が、単なるきれいな言葉で終わっていない。
理念を実現するために、事業の仕組みそのものをつくり変える。
これこそが、ローランドから学ぶべき経営の本質なのかもしれない。

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