「キッチンペーパーに、この値段?」
日用品、とくに紙製品は安くて当たり前です。比較され、代替され、薄利で回る世界。そこであえて“高い紙”を売ろうとしたのが、土佐和紙を使う企画会社「三彩」です。
結論から言うと、三彩は値下げをせずに売上を伸ばしました。では、なぜそれができたのか。診断士の視点で「意思決定」と「事業構造」を分けて整理します。
会社の前提条件(制約を共有する)
三彩は大企業ではありません。規模は小さく、体力勝負の価格競争に入った瞬間に負けるタイプの会社です。
- 業種:紙製品の企画・自社ブランド
- 創業:2012年
- 従業員:4人
- 素材:土佐和紙(原料はコウゾ)
- 商品:キッチンペーパー、介護用シート、ペット用品、ストール、バッグ など
だからこそ、三彩の勝ち筋は最初からひとつ。価格を下げない構造(厚利構造)を作ることです。
経営者の決意:値下げを捨てた理由
創業期、商品は見向きもされませんでした。理由は単純です。高いから。
- 価格が高い
- 用途が伝わらない
- 他社品との違いが理解されない
普通なら「値下げ」を考えます。けれど社長は踏みとどまります。土佐和紙の価値を、自分で否定することになるからです。
この判断は、結果論の美談ではありません。売れない現実の中で「安くしない」と決めるのは、かなり強い覚悟です。
転機は「売り方」ではなく「使われ方」だった
三彩が取った行動は、広告ではありません。ある著名な料理研究家に商品を送り、どう使われるかを見に行きました。
料理の現場で、土佐和紙は「アク取り」「下処理」「食材の水分管理」などに使われ、具体的な使い方として発信されました。すると反応が変わります。
「そんな使い方があったのか」
「普通のキッチンペーパーと全然違う」
やがてテレビでも「有名料理家の愛用品」として取り上げられ、認知が一気に広がった。ここで三彩が売ったのは紙ではなく、用途の翻訳(納得の作り方)です。
三彩の強みは“素材”だけではない
もちろん素材は強い。
- コウゾ由来の長く強い繊維
- 高い吸水性
- 独自製法による調湿作用
ただ、診断士として重要視するのは「性能」より勝てる構造です。三彩の本当の強みは、価値が伝わる文脈を作れたこと。
- 誰が
- どんな場面で
- なぜそれを使うのか
この3点が揃った瞬間、高い商品は「高い」ではなく「理由がある」に変わります。
診断士としての整理:厚利構造に入れたが、まだ不安定
三彩は日用品の世界で珍しく、薄利構造から厚利構造へ踏み込めています。ただし、ここから先は「売上」より「スイッチされない仕組み」が重要です。
構造的なリスク
- 代替商品へのスイッチは常に起こり得る
- 用途理解が浅い顧客は価格で離脱しやすい
- ブランドの軸がまだ広い(何の会社かが散りやすい)
だから次の一手は「広げる」ではなく、絞るです。
戦略の軸:「アクティブシニア × りぐる」
社長が大切にしている言葉が「りぐる=おしゃれする、こだわる」。この価値観は、価格競争から抜けるうえで極めて強い軸になります。
狙うべきは、安さではなく快適さ。消耗品ではなく暮らしの質。高齢者ではなくアクティブシニア。“りぐる日常生活を支える紙製品ブランド”へ軸を定めると、世界観が研ぎ澄まされます。
短期:まず「何の会社か」を明確にする
- アクティブシニアの快適な生活を“りぐる”サポートする会社だと明言
- 創業期の苦労と、値下げしなかった理由をストーリーとして発信
- 用途別発信(料理・ギフト・介護・おしゃれ)を「対象者別」に整理する
ここでの目的は売上ではありません。指名買いの前提(想起)を作ることです。
中期:ファンを“関係人口”に変える
- アクティブシニア向けイベント(使い方体験/ギフト提案/暮らしの工夫)
- 新商品開発への参加(意見募集・テストユーザー)
- ファン向けサブスク(定期補充+新商品の優先案内)
価格で離脱する顧客を追うのではなく、スイッチされない顧客を増やす。ここが厚利構造を固定化するポイントです。
長期:法人向けで収益を平準化する
価値を理解できる法人に絞って展開します。量を取りに行くと、結局価格競争に戻ります。
- 介護・福祉事業者
- シニア向けコミュニティ
- カルチャーセンター
法人向けサブスクで平準化し、「小さな会社でも固定費を確実に回収できる運営」に寄せていくのが現実的です。
KPIは「売上」より「関係性」を見る
KGI:営業利益率
- 売上:客数(新規/リピート)、再購入率、購入間隔
- 客単価:商品別、サブスク、法人別
- 粗利:商品別、サブスク
とくに重要なのは再購入率 × 購入間隔。ここが安定した瞬間、三彩は価格競争から実質的に抜けます。
おわりに:三彩が売っているのは“紙”ではない
三彩が売っているのは、吸水性でも調湿性でもなく、日常を少し誇らしく使う感覚です。
それを理解した人にだけ届く商品だからこそ、高くても選ばれる。三彩は「小さな会社が価格競争をしないための教科書」その一歩手前まで来ています。

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