業界の中で、これまで「使えない」「価値がない」と考えられ、当たり前のように捨てられてきたものはないだろうか。
あるいは、
「そんなものは売れるはずがない」
「改善しても意味がない」
と、誰も疑わなかった常識はないだろうか。
しかし、その常識を疑い、視点を変えることで、コスト削減だけでなく、新たな市場を生み出すケースがある。
今回は、家具業界の常識を覆し、「負の資産」を強みに変えた飛騨産業の事例を紹介したい。
家具に「節」は不要。
かつて家具業界では、それが常識だった。
節がある木材は見た目が悪い。
品質が低い。
商品にならない。
だから切り捨てる。
しかし、ある会社は違った。
その会社は、誰もが捨てていた「節」を主役にした。
その結果、経営危機から復活し、売上を2倍に伸ばした。
その会社が、飛騨産業である。
バブル崩壊で経営危機に陥る
飛騨産業は1920年創業の老舗家具メーカーである。
伊勢志摩サミットにも採用されるほど品質が高く、体にフィットする座り心地には定評がある。
しかし、バブル崩壊後、状況は一変する。
中国製の安価な家具が市場に流入。
価格競争が激化した。
経営は悪化し、借金は30億円にまで膨らんだ。
会社は存続の危機に直面する。
社長が見つけた「違和感」
経営改善のため現場を見た社長は、あることに驚いた。
大量の木材が捨てられていたのである。
理由は単純だった。
木に節があるから。
家具業界では節のある木は不良品扱いだった。
しかし、ホームセンター出身で家具業界の常識を知らない社長は違和感を覚える。
「本当に捨てなければいけないのだろうか」
「100人に1人くらいは、この木を好きになる人がいるのではないか」
そう考えた。
そして、節を前面に出した家具作りを決断する。
「ゴミを作るな」
当然、社内は大反対だった。
職人からは、
「新しい社長がゴミを作っている」
と言われた。
離職者も増えた。
しかし、社長は方針を変えなかった。
展示会に出展したところ、結果は予想外だった。
通常の2倍の注文が入ったのである。
業界では欠点とされていた「節」が、
消費者にとっては、
本物の木らしさ
として受け入れられたのだ。
負の資産を強みに変える
飛騨産業の面白さはここからである。
高度経済成長期、日本では大量の杉が植林された。
しかし杉は柔らかく傷が付きやすいため、家具には向かないと考えられていた。
業界にとっては負の遺産だった。
しかし飛騨産業は、業界で初めて杉を圧縮して硬くする技術を実用化する。
これにより、杉を家具として活用できるようになった。
つまり、
業界が弱みと考えていたものを、強みに変え続けている会社
なのである。
利益構造はどう変わったのか
飛騨産業の変化を整理すると次のようになる。
生産構造
節のない家具
↓
節を活かした家具
結果として歩留まりが改善し、廃棄ロスが大幅に減少した。
販売構造
卸中心
↓
ショールームを活用した消費者直販
全国6か所にショールームを展開し、顧客との接点を増やした。
利益構造
薄利
↓
厚利
価格競争ではなく、ブランド価値で選ばれる企業へ変化した。
商品構造
家具販売
↓
家具+修理サービス
修理工房を持つことで、家具を長く使いたい顧客との関係を維持している。
飛騨産業の勝ち筋
私は、飛騨産業の勝ち筋は次の式で表せると考えている。
環境配慮型ブランド家具
×
高品質な職人技
×
長期利用によるLTV向上
×
職人育成による供給力
である。
単なる家具メーカーではない。
「100年使い続けられる家具文化を提供する企業」
と言った方が近いのかもしれない。
今後の戦略を考える
短期的には、
商品別採算性を分析し、高収益商品と優良顧客への集中を進めるべきだろう。
また、会員データベースを活用した限定イベントや、修理サービス利用者への継続提案も有効だ。
中期的には、
「環境配慮型家具ブランド」
としてのポジションをさらに明確にするべきだと思う。
特に、
環境配慮を重視する高級旅館や高級ホテルは、有力なターゲットになり得る。
さらに、家具の定期メンテナンス契約を提供すれば、LTV向上と安定収益化につながる。
長期的には、国内ブランドとしての地位を確立した後、海外展開も視野に入る。
ただし、いきなり直販ではなく、展示会と代理店を活用しながら、段階的にブランド認知を高める戦略が現実的だろう。
まとめ
飛騨産業の事例から学べることは多い。
その中でも最も重要なのは、
「業界の常識を疑うこと」
ではないだろうか。
他社が捨てているものの中にこそ、新しい価値が眠っている。
飛騨産業は、それを証明した会社だと思う。

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