梅干しを売らず、梅の使い方を売る――吉田屋に学ぶ「用途開発」の成長戦略

勝手に企業診断

梅、卵、万年筆、時計。

一見すると、どこにでもある商品です。

こうした汎用的な商品は、他社との違いを出しにくく、価格競争に陥りやすいと言われます。

梅干しも同じです。

スーパーへ行けば、さまざまな産地、塩分、価格の梅干しが並んでいます。

単に、

「おいしい梅干しです」

「昔ながらの製法です」

と伝えるだけでは、数多くの商品に埋もれてしまいます。

しかし、その商品を、

「誰が」

「どのような場面で」

「何のために使うのか」

という用途から見直すと、同じ梅でも顧客が感じる価値は大きく変わります。

おにぎりに入れる梅。

お茶漬けに合う梅。

カレーに添える梅。

ラーメンに合う梅。

おやつとして食べる梅。

飲み物にする梅。

デザートとして楽しむ梅。

商品は梅のままです。

しかし、用途が変われば、売り場も、顧客も、価格も変わります。

私はこれまで100社以上の成長企業を分析してきましたが、成長している企業の多くは、単に「モノ」を売っているのではありません。

その商品を使う場面や、顧客が得られる体験を売っています。

では、新しい用途はどのように見つけるのでしょうか。

私も万能な答えを持っているわけではありません。

ただ、一つ確信していることがあります。

答えは、顧客が持っている。

どのように使われているのか。

なぜ競合ではなく、自社の商品が選ばれたのか。

企業が想定していなかった使い方をしている人はいないか。

こうした顧客の声や利用実態を集め、商品開発へ活かし続けられる企業ほど、新しいブランドを生み出しています。

今回は、梅という一見ありふれた商品を、「用途」という視点で次々と生まれ変わらせてきた老舗企業、吉田屋の事例を紹介します。

梅干しだけではない、梅専門店

吉田屋は、梅干しの製造・販売を行う老舗企業です。

現在は8代目が経営を担っています。

同社が扱う梅の品種は、30種類以上。

茨城県産の梅を使い、自社ブランド商品を展開しています。

梅干しだけを販売しているわけではありません。

梅専門店のカフェ。

直営店舗。

体験型施設。

ワークショップ。

梅シロップや梅ゼリーなどの加工商品。

梅を中心に、さまざまな商品と体験を提供しています。

同社の売上は現在、約2億6,000万円。

先代の時代と比べ、2倍以上へ成長しました。

しかし、ここまでの道のりは決して順調ではありませんでした。

売上を襲った二つの大きな危機

吉田屋は、これまで二度の大きな危機に直面しています。

一度目は、東日本大震災です。

震災後の風評被害によって返品が相次ぎ、長年の常連客からも買い控えが起こりました。

売上は2割以上減少。

企業努力だけでは簡単に解決できない状況に追い込まれます。

通常であれば、コストを削減し、嵐が過ぎるのを待つという判断もあるでしょう。

しかし、吉田屋はそこで新商品開発へ動きました。

危機を守りで乗り越えるのではなく、新しい用途をつくることで乗り越えようとしたのです。

そこで生まれたのが、「スイート梅」でした。

塩分5%の梅を「おやつ」に変えた

一般的な梅干しの塩分は、20%前後と言われます。

吉田屋は、それを5%まで下げる独自技術を開発しました。

塩分を抑えることで、従来の梅干しとは異なる、やさしい甘みと食べやすさを実現しています。

この商品を、単に、

「減塩梅干し」

として売ることもできたはずです。

しかし、吉田屋は「おやつとして食べる梅」という新しい用途を与えました。

梅干しは、ご飯と一緒に食べるもの。

おにぎりに入れるもの。

そうした固定観念を外し、

「そのまま楽しむスイーツのような梅」

へと再定義したのです。

スイート梅は高く評価され、現在では年間24万個を売り上げる人気商品となりました。

製品の中心にあるのは梅です。

しかし、

「ご飯のお供」

から、

「おやつ」

へと用途を変えることで、新しい顧客と新しい市場を生み出しました。

コロナ禍では、梅シロップ作りを体験に変えた

一つ目の危機を乗り越えた後、再び吉田屋を大きな変化が襲います。

新型コロナウイルスの感染拡大です。

観光や店舗への来店が減り、売上は再び落ち込みました。

しかし、ここでも吉田屋は単に商品を通信販売するだけでは終わりませんでした。

外出が減り、「おうち時間」が増えたことに着目します。

そこで、家庭で作れる梅シロップのキットを提供しました。

さらに、商品を送るだけではなく、社長によるものづくり講座を組み合わせました。

顧客は、完成した梅シロップを買うのではありません。

梅を使い、自分で作る。

作り方を学ぶ。

完成するまでの時間を楽しむ。

家族と体験を共有する。

つまり吉田屋は、

「梅シロップという商品」

ではなく、

「梅シロップを自分で作る時間」

を販売したのです。

コロナ禍による生活の変化を読み取り、新しい体験として商品を再設計したことで、売上は持ち直しました。

危機のたびに、新しい用途が生まれている

吉田屋の興味深いところは、危機が起こるたびに、単なる値下げや販路追加ではなく、新しい用途を生み出していることです。

震災後には、おやつとして食べるスイート梅。

コロナ禍には、自宅で楽しむ梅シロップ作り。

それ以外にも、

お茶漬け用。

おにぎり用。

カレー用。

ラーメン用。

ドリンク用の梅シロップ。

デザート用の梅ゼリー。

梅という一つの素材から、さまざまな利用場面を作り出しています。

これは、単発のヒット商品を生み出す能力ではありません。

環境変化や顧客の生活から、新しい用途を発見し続ける組織能力です。

商品開発を社長のひらめきで終わらせない

中小企業の商品開発では、社長の発想力に依存することが少なくありません。

社長がアイデアを出し、社員が形にする。

社長の感覚が当たっている間は、会社も成長します。

しかし、社長一人に依存した仕組みでは、商品開発を継続することは難しくなります。

吉田屋では、新商品や新事業のアイデアを「チーフミーティング」と呼ばれる定期会議で検討しています。

つまり、新しい用途を考えることが、特別なプロジェクトではなく、組織の日常業務として組み込まれています。

この仕組みこそ、同社の大きな強みです。

社長は、

「事業計画が昨年と同じ組織は、停滞ではなく衰退である」

と語っています。

伝統を守るとは、去年と同じことを続けることではない。

受け継いだ技術や素材を、その時代に合った価値へ再解釈し続けること。

吉田屋の商品開発には、そんな考え方が表れています。

傷のある梅も、商品開発の材料になる

吉田屋では、年間30トン以上の梅を漬けています。

製造工程は、

洗浄。

冷却。

塩漬け。

天日干し。

熟成。

味付け。

と続きます。

特に冷却工程には、梅のうまみを高める狙いがあります。

これらの工程の多くは、人の手によって行われています。

洗浄時には、傷の有無も確認します。

通常であれば、傷がある梅は廃棄されることがあります。

しかし、吉田屋では、それを新たな商品開発に活用しています。

見た目が重要な梅干しには使いにくくても、シロップ、ゼリー、加工品であれば活用できる可能性があります。

ここにも、同社の用途発想が表れています。

「この梅は売れない」

で終わらせるのではありません。

「別の用途なら、価値を生み出せないか」

と考える。

廃棄物だったものを、商品開発の素材へ変える。

用途を変えることで、商品価値だけでなく、資源効率まで高めているのです。

梅体感パークで「自分好みの梅」を作る

吉田屋は、梅を食べてもらうだけでなく、梅に触れてもらう体験も提供しています。

その象徴が「梅体感パーク」です。

参加者は、自分好みの梅酒や梅シロップを作るワークショップを体験できます。

同じ梅でも、

甘さ。

漬け方。

組み合わせる素材。

完成までの時間。

によって味は変わります。

完成品を購入するだけでは分からない、素材の特徴や製造の面白さを体験できます。

体験した顧客は、単に商品を買った人ではありません。

梅の作り方を知り、自分の好みを発見し、吉田屋のものづくりへ共感したファンになります。

これは、物販だけでは生み出しにくい関係です。

「商品を売って終わり」ではなく、

体験する。

学ぶ。

試す。

再び購入する。

別の商品へ広がる。

という継続的な顧客関係を作ることができます。

吉田屋の構造はどう変わったのか

吉田屋の成長を、事業構造の変化として整理してみます。

商品の変化

以前は、他社でも代替できる梅干しが中心でした。

現在は、

おやつ用。

料理用。

飲料用。

デザート用。

体験用。

といった、用途別の自社ブランド商品を展開しています。

単なる梅干しから、

「利用場面ごとに選ばれる商品」

へ変化しました。

チャネルの変化

以前は、卸売経由の販売が中心でした。

現在は、

直営店舗。

カフェ。

体験施設。

イベント。

オンライン販売。

と、顧客と直接つながるチャネルを増やしています。

卸を通すだけでは、誰が、なぜ、どのように商品を使っているかは見えにくくなります。

直販や体験施設を持つことで、顧客の反応を直接観察し、次の商品開発へつなげることができます。

売り方の変化

以前は、完成した梅干しという「モノ」を販売していました。

現在は、

用途提案。

梅シロップ作り。

ワークショップ。

ものづくり講座。

カフェでの飲食体験。

などを通じ、「コト」を販売しています。

梅を売る会社から、

梅を使った楽しみ方を提案する会社

へ変わっているのです。

吉田屋の本当の強み

吉田屋の強みは、大きく三つあると考えます。

1.塩分を5%まで抑える独自技術

一般的な梅干しより大幅に塩分を抑えながら、梅本来の味を活かす技術。

これによって、おやつなど従来とは異なる用途を作ることができます。

単なる健康対応ではありません。

用途を広げるための基盤技術です。

2.梅を新しい用途へ変える商品開発力

吉田屋は、

「梅干しを改良する」

だけではなく、

「梅を別の利用場面へ持っていく」

ことに長けています。

梅干しをおやつにする。

梅を飲料にする。

梅を体験キットにする。

梅をカフェメニューにする。

素材を変えるのではなく、意味と場面を変える。

これが同社のブランドを生み出しています。

3.用途開発を続ける組織の仕組み

チーフミーティングを通じて、商品開発を組織活動として継続しています。

個人のひらめきに依存せず、定期的に新しいアイデアを検討する。

危機のたびに新商品を生み出せたのは、この仕組みが定着していたからだと考えられます。

吉田屋の最大の強みは、特定の商品ではありません。

用途を発見し、商品へ変え続けられる組織能力です。

勝ち筋は「梅×用途×体験×継続購入」

吉田屋の勝ち筋は、次のように整理できます。

低塩分を実現する独自技術× 顧客の生活に合わせた用途別商品× カフェやワークショップによる体験× ファンとの継続的な関係× 海外への用途別ブランド展開

ここで重要なのは、梅という商品を一度購入してもらうことではありません。

梅干しを買う。

梅シロップを作る。

カフェへ行く。

ワークショップへ参加する。

季節商品を購入する。

家族や友人へ贈る。

このように顧客との接点を増やすことで、LTVを高めることができます。

今後の課題

一方、吉田屋には今後の成長に向けた課題もあります。

人手作業による供給制約

梅の製造工程の多くは、人の手に依存しています。

需要が増えても、簡単には生産量を増やせません。

特に、傷の確認や選別などの工程が人手に依存していれば、繁忙期の負荷が高くなります。

個人需要の変動

個人向け商品は、季節、観光客数、消費者心理などの影響を受けやすい事業です。

震災やコロナのような外部環境によって、売上が大きく変動する可能性があります。

多商品・多チャネルによる経営の複雑化

30種類以上の梅を扱い、店舗、カフェ、卸、イベント、オンラインなど、複数のチャネルを展開しています。

商品数や販売方法が増えるほど、どこが本当に利益を生んでいるのか分かりにくくなります。

限られた人数の中で成長するには、高収益の商品、用途、販売チャネルを見極め、経営資源を集中する必要があります。

短期:高収益領域を見極め、ファンとの接点を増やす

短期では、まず商品とチャネルの採算性を可視化します。

用途別。

商品別。

店舗別。

販売チャネル別。

それぞれの売上と粗利を確認します。

例えば、

スイート梅は高収益なのか。

カフェ利用者は物販も購入しているのか。

ワークショップ参加者は、その後も商品を買っているのか。

オンライン販売と店舗販売では、どちらの利益率が高いのか。

こうした分析から、売上が大きいだけでなく、利益と継続購入につながる領域へ資源を集中します。

同時に、製造工程の標準化を進めます。

作業手順。

品質判断。

作業時間。

熟練者に依存する工程。

これらを整理し、マニュアル化します。

傷の有無など、画像で判断しやすい工程については、AIによる一次判定も検討できます。

ただし、

「AIを導入すれば効率化できる」

というほど単純ではありません。

まずは、

梅の画像。

傷の種類。

利用可能な加工用途。

熟練者の判定結果。

を紐付けたデータを蓄積する必要があります。

AIが傷の候補を判定し、最後は人が確認する。

このように、人の判断を支援する仕組みから始めるのが現実的です。

さらに、SNSを販売広告だけに使うのではなく、ファンとの関係を深める場として活用します。

イベントの案内。

ワークショップ参加者の投稿。

梅の利用レシピ。

新商品アイデアの募集。

顧客独自の使い方の紹介。

こうした交流から、次の用途を見つけます。

中期:法人用途を開発し、売上を安定させる

中期では、短期の分析で見つけた、需要と収益性の高い用途を法人市場へ展開します。

例えば、

高級ホテルの朝食向け。

レストランの料理用。

カフェのドリンクやデザート向け。

旅館のウェルカムフード向け。

ギフトショップの地域限定商品向け。

法人顧客に対しては、単に梅干しを卸すのではありません。

料理や顧客層に合わせて、

どの梅が適しているか。

どの塩分がよいか。

どのようにメニューへ組み込むか。

を提案します。

これまで培ってきた用途開発力を、法人の提供価値へ変えるのです。

法人取引が増えれば、個人需要だけに依存せず、一定量の継続受注を確保しやすくなります。

また、ファン向けの定期サービスも考えられます。

季節ごとの梅商品。

限定の梅シロップ。

新商品の先行提供。

オンラインのレシピ講座。

体験イベントへの優先招待。

ただ梅干しを定期的に送るだけでは、飽きられる可能性があります。

商品と、知識と、体験を組み合わせることで、継続する理由を作る必要があります。

供給面では、短期で整理したマニュアルや作業工程をもとに、製造パートナーの開拓も進めます。

ただし、すべてを外部へ任せるわけではありません。

塩分5%の加工技術や、ブランド品質を左右する独自工程は自社に残す。

標準化しやすい作業は外部と連携する。

この切り分けによって、技術流出を防ぎながら供給能力を高めます。

長期:世界の食文化に合わせた梅ブランドへ

長期では、国内で培った用途開発力を海外へ広げます。

ただし、

「日本の梅干しを海外で売る」

というだけでは不十分です。

国によって、食文化、味覚、食事の場面は異なります。

酸味が好まれる国。

甘い味が好まれる国。

健康食品として関心が高い国。

ドリンクやデザートへの活用が受け入れられやすい国。

吉田屋の強みは、完成した日本式の梅干しをそのまま輸出することではありません。

現地の食文化に合わせて、梅の用途を再開発できることです。

まずは、直営店舗を訪れるインバウンド顧客の購買データやコメントを分析します。

どの国の顧客が買っているのか。

どの商品が好まれているのか。

甘さ、酸味、塩分にどのような反応があるのか。

どのような食べ方を想定しているのか。

その結果から、ターゲット国と用途を絞ります。

その後、現地展示会や商談会でテスト販売を行います。

例えば、

海外カフェ向けの梅ドリンク。

健康志向層向けのスイート梅。

高級ホテル向けの日本文化体験商品。

デザート店向けの梅ソース。

国ごとに、梅が活躍できる場面を作ります。

世界へ出るとは、日本の商品をそのまま持っていくことではありません。

その国の顧客にとっての価値へ、もう一度翻訳することです。

まとめ

吉田屋の事例から学べるのは、ありふれた商品でも、用途を変えればブランドになるということです。

梅干しを、おやつにする。

梅を、ドリンクにする。

梅を、デザートにする。

梅を、自宅で作る体験にする。

梅を、観光や学びの場にする。

中心にある素材は変わっていません。

変わったのは、

「誰が、どの場面で、何のために使うか」

という意味です。

そして、吉田屋の本当の強さは、一つのヒット商品を持っていることではありません。

危機や生活の変化を捉え、新しい用途を考え、商品として形にする仕組みが組織に根付いていることです。

社長の言う、

「昨年と同じ事業計画は、停滞ではなく衰退である」

という言葉は、厳しくもあります。

しかし、伝統を持つ企業ほど、同じことを続けるだけでは守れないものがあります。

伝統を守るとは、過去の商品をそのまま残すことではない。

受け継いだ技術や素材を、その時代の顧客にとって意味のある価値へ変え続けること。

吉田屋は、梅干しを売っているようで、実は梅の可能性を売っています。

その可能性を、顧客の生活の中に新しい用途として届け続けること。

それこそが、吉田屋の成長を支える最大の強みなのだと思います。

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