醤油を特売品から嗜好品へ。弓削田醤油に学ぶ価格競争からの脱却戦略

勝手に企業診断

醤油。

どこの家庭にもある、ごく当たり前の商品である。

しかし、その市場は厳しい。

醤油はスーパーの特売品の代表格であり、海外製品との競争も進む中、価格競争にさらされやすい。

多くの食品メーカーは、

「どうやって価格競争から抜け出すか」

という課題に向き合っている。

その方法として、

  • 自社ブランド化して直販する
  • 用途×商品で価値を提案する
  • 調理済み・加工済み商品へ展開する
  • ギフトや特定用途に絞る
  • ファンコミュニティを作る

など様々な戦略がある。

その中で弓削田醤油が選んだのは、

「醤油を売る会社」から、「木桶仕込みの価値や発酵文化を体験してもらう会社」への転換

だった。

工場見学や醤油絞り体験、イベントを通じて、醤油を単なる日用品ではなく、楽しむ嗜好品として伝える。

モノ売りからコト売りへ。

その転換によって、高価格帯でも選ばれるブランドを築き、価格競争から脱却した好例である。


弓削田醤油とはどんな会社か

弓削田醤油は、1923年創業の醤油メーカーである。

現在は4代目が経営を担い、従業員は46人。

醤油絞り体験、工場見学、醤油ソフトクリームなど、醤油を体験できる施設も持っている。

単に醤油を作るだけではなく、醤油の価値を体験として伝える会社だ。


100年以上続く木桶仕込み

弓削田醤油のこだわりは、100年以上続く木桶仕込みの醤油である。

麹作りに3日間かける。

もろみを作る。

塩水と合わせる。

木桶に寝かせ、発酵させる。

時間も手間もかかる。

効率だけを考えれば、かなり大変だ。

しかし、この木桶が価値になる。


木桶にしか出せない味

木桶には、その土地の菌が住み着く。

気候。

風土。

蔵の空気。

長年使われてきた木桶。

それらが合わさって、弓削田醤油にしか出せない味が生まれる。

つまり、木桶は単なる容器ではない。

味を作る資産

なのだ。


流通量1%という希少性

木桶仕込みの醤油は、流通量が非常に少ない。

全体の中でも、ごく一部である。

だから希少性がある。

さらに、国産有機栽培の大豆にもこだわる。

価格は大手メーカーの醤油より高い。

それでも売れる。

なぜか。

香りや風味が違うからだ。

世界トップクラスのソムリエが選ぶ食品アワードで、7年連続三つ星を獲得した実績もある。

これは単なる地元のこだわりではない。

外部からも評価された品質である。


「煮物」ではなく「冷奴・刺身」で使う

ここが面白い。

消費者は、すべての料理に高級醤油を使うわけではない。

煮物なら、普通の醤油でもよい。

でも、冷奴や刺身なら、良い醤油を使いたい。

ここに勝ち筋がある。

つまり、醤油全体を高級化するのではない。

高級醤油が活きる用途に絞る

ということだ。

  • 冷奴
  • 刺身
  • 卵かけご飯
  • ギフト

こうした用途であれば、高くても選ばれやすい。


問屋から醤油一本へ

もともと弓削田醤油は、問屋業も行っていた。

売上の6割が問屋。

4割が醤油作り。

酒屋や小さなスーパーに、醤油だけでなくジュースや油も納品していた。

しかし、大手の進出で得意先が減っていく。

問屋業では立ち行かなくなる。

結果として、醤油一本で勝負せざるを得なくなった。

これは厳しい状況だったと思う。

しかし、ここが転機になった。


醤油を体験に変えた

弓削田醤油の面白さは、商品だけではない。

  • 工場見学
  • 醤油絞り体験
  • 醤油ソフトクリーム
  • イベント

こうした体験を用意している。

つまり、醤油を単なる調味料として売っていない。

発酵文化として伝えている。

木桶の価値を体験してもらう。

醤油ができるまでの時間を感じてもらう。

味の違いを知ってもらう。

ここが強い。


モノ売りからコト売りへ

弓削田醤油は、醤油を売っているようで、実は違う。

売っているのは、

醤油を楽しむ体験

である。

ここが価格競争から抜けるポイントだ。

普通の醤油として見れば、価格比較される。

でも、木桶仕込みの発酵文化として見ると、比較されにくい。

ただの調味料ではなく、嗜好品になる。


この会社の強み

この会社の強みは明確だ。

  • 100年以上続く木桶仕込み
  • 木桶に住み着いた菌が生む独自の味
  • 木桶仕込みという希少性
  • 国産有機栽培大豆へのこだわり
  • 外部アワードで評価された品質
  • 工場見学や体験を通じて価値を伝える力

単に良い醤油を作っているだけではない。

良さが伝わる仕組みを持っている。

ここが大きい。


今後の課題

ただし、課題もある。

一般的な醤油市場は、価格競争が激しい。

高級醤油を嗜好品として買う人は、まだ限られている。

だから、誰に何を売るかをもっと絞る必要がある。

「良い醤油です」

だけでは弱い。

用途を明確にした方が強い。

  • 刺身を本当に美味しく食べたい人へ
  • 冷奴を一品料理に変えたい人へ
  • 卵かけご飯を楽しみたい人へ
  • 大切な人へのギフトに

このように使う場面を明確にすると、価格ではなく価値で選ばれやすくなる。


短期:高ニーズ用途へ絞る

短期的には、得意先別・商品別・用途別の採算性を見る必要がある。

  • どの商品が儲かっているのか
  • どの用途で選ばれているのか
  • どの顧客が継続購入しているのか

ここを見える化する。

その上で、刺身用、冷奴用、卵かけご飯用、ギフト用など、ニーズの強い用途に集中する。


中期:法人向けのブランド化

中期では、高級飲食店や高級ホテルとの相性が良い。

特に、和食店や旅館など、

日本らしさ

を大切にする業態では、木桶仕込み醤油のストーリーが活きる。

単に醤油を納品するのではなく、

料理の価値を高める醤油

として提案する。

ここまでできると、価格競争からさらに離れられる。


長期:個人向けのファン化

長期では、個人向けのファン化が重要になる。

  • 会員限定の醤油
  • 季節の商品
  • レシピセット
  • 新醤油のお届け
  • 限定イベント

こうした仕組みで、LTVを上げる。

ただし、むやみに広げるよりも、

本当に醤油を楽しみたい人

に絞った方がよい。


最後に

弓削田醤油は、醤油を作っている会社である。

でも、本質的には、

醤油の価値を再発見させる会社

だと思う。

安い醤油が悪いわけではない。

日常使いには日常使いの良さがある。

ただ、冷奴や刺身のように、醤油そのものの味が料理を変える場面がある。

そこに高級醤油の価値がある。

醤油を日用品から嗜好品へ。

この転換が、弓削田醤油の面白さなのだと思う。

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