企業分析を続けて見えてきた、「売上」より先に見るべきもの

勝手に企業診断

企業分析を続けていると、自分の見る場所が少しずつ変わってくる。

最初の頃は、

「この会社の強みは何だろう」

「どうすれば売上が伸びるだろう」

ということを中心に考えていた。

しかし、最近は少し違う。

今回分析した小嶋工務店と菱木運送では、改めて、

「売上を増やす前に、もっと見るべきものがある」

と感じた。

一つは、

すでに持っている顧客資産。

もう一つは、

時間や車両といった希少資源から、どれだけ利益を生み出せているか。

この二つである。


小嶋工務店で見落としていた「842棟」という資産

小嶋工務店を分析したとき、私は新規顧客の獲得にかなり意識が向いていた。

TOKYO WOODというブランド。

体験ツアー。

品質を数値で示すエビデンス。

「誰に刺さるのか」を過去顧客データから分析し、体験ツアーへ誘導し、受注率を上げる。

これは方向として悪くない。

ただ、指摘を受けて、

「もっと大きな資産を見落としていたな」

と気づいた。

それが、

これまでに家を建てた842棟の顧客

である。

住宅は一度売ったら終わり。

そう思いがちである。

しかし実際には、

定期点検。

修繕。

リフォーム。

子どもの独立。

親との同居。

老後の暮らし。

住み替え。

紹介。

と、長い付き合いがある。

つまり、

新規顧客だけを見るのではなく、すでに関係を築いている顧客をどう再び価値提供につなげるか。

ここも重要な成長軸になる。


LTVは「もう一度買ってもらう」ではない

以前の私は、LTVというと、

リピート率。

定期購入。

会員化。

といった発想に寄りがちだった。

しかし、住宅では毎年家を買ってもらうわけではない。

だからLTVの考え方も変える必要がある。

住宅なら、

新築
→ 定期点検
→ 部分改修
→ 家族構成の変化
→ 大規模リフォーム
→ 子世代の住宅
→ 紹介

といったライフサイクルがある。

つまり、

「同じ商品をもう一度買ってもらう」のではなく、「顧客の人生の変化に合わせて接点を続ける」

ということだ。

この見方は、今後の企業分析でもかなり使える気がする。


「セミオーダー化」という言葉にも落とし穴があった

もう一つ、反省したのが言葉の使い方である。

小嶋工務店では、設計効率を高めるために「セミオーダー化」と書いた。

しかし、この言葉は誤解を招く。

顧客から見ると、

「規格住宅に近づけるのか」

と思われる可能性がある。

でも、私が意図していたのは違う。

顧客にはオーダーメイドの価値を残す。

その裏側で、

よく使う設計。

過去事例。

部材。

見積ロジック。

を再利用する。

つまり、

顧客価値はオーダーメイドのまま、社内だけ標準化する。

この表現のほうが正確である。

戦略は、内容だけでなく、

言葉を間違えると意図まで違って伝わる。

これはかなり大きな学びだった。


菱木運送で見えた「本当の希少資源」

一方、菱木運送。

ここで最も重要な気づきは、

希少資源はトラックではなく、拘束時間かもしれない

ということだった。

物流2024年問題によって、ドライバーが働ける時間には上限がある。

昔のように、

「もっと走ればもっと稼げる」

とはいかない。

だったら経営で見るべき問いは、

「どう売上を増やすか」

ではなく、

「限られた拘束時間を、どの荷主・どの運行に使えば最も利益が残るか」

になる。

この一文まで課題を絞れると、かなり経営テーマらしくなる。


KPIも「率」より「利益額」で見る

私は運送業のKPIとして、

実車率。

積載率。

稼働率。

回転率。

などを置いていた。

もちろん重要である。

ただし、それらは最終目的ではない。

例えば実車率が高くても、

運賃が安ければ利益は残らない。

積載率が高くても、

長時間待機があれば生産性は落ちる。

だから、より上位に置くべきなのは、

拘束時間単価

や、

車両当たり限界利益

といった、

「希少資源からどれだけ利益を生んだか」

を示す指標である。

その下に、

待機時間。

実車率。

積載率。

回転率。

をぶら下げる。

このほうが因果が分かりやすい。


KPIは「良さそうな数字」を並べるものではない

これは最近かなり感じている。

KPIツリーを作ると、

つい、

「この数字も重要」

「あの数字も見たい」

と並べたくなる。

でも本当に大切なのは、

「この数字が動いたら、次の数字は本当に動くのか」

である。

例えば、

待ち時間削減率

↓

実車率

とつなぐより、

待ち時間削減率

↓

拘束時間短縮

↓

拘束時間単価向上

のほうが自然である。

この「矢印の厳密さ」が、今後の自分の課題だと思う。


データを見せただけでは、人は動かない

菱木運送では、

安全データを公開すれば、ドライバー採用にもつながると考えた。

これも方向としては悪くない。

ただ、

「安全データを公開する」

↓

「ドライバーが集まる」

では、少し飛んでいる。

その間には、

安全な会社だと分かる。

↓

求職者の不安が減る。

↓

応募してみようと思う。

↓

入社後も安心して働ける。

↓

定着する。

という、人の心理と行動のステップがある。

つまり戦略の因果には、

数字だけでなく、人の気持ちの変化

も入れないといけない。

これは企業分析で意外と抜けやすいところだと思う。


「新規顧客を取る」が、いつも正解ではない

企業成長というと、つい新規顧客を増やしたくなる。

広告。

営業。

SNS。

展示会。

新規市場。

しかし今回改めて感じた。

会社によっては、

すでに持っている顧客のほうが、はるかに大きな資産

である。

小嶋工務店なら842棟のOB顧客。

設備メーカーなら既設ユーザー。

運送会社なら長年付き合っている荷主。

ここには、

信頼。

利用実績。

過去データ。

関係性。

がすでにある。

新規顧客ゼロから関係を作るより、はるかに有利である。

今後は企業を見るとき、

「この会社は、過去に売った顧客を資産として活用できているか」

を必ず見たいと思う。


成長企業は「新しく取る」だけでなく「今あるものを深く使う」

最近の分析を通じて、戦略の考え方も少し変わってきた。

以前は、

新規顧客。

新商品。

新市場。

海外。

と、つい「新しいもの」を考えていた。

しかし、

既存顧客。

既存設備。

既存データ。

既存ブランド。

既存の信頼関係。

を深く使ったほうが、地続きで実現性が高いことも多い。

成長とは、

新しいものを増やすことだけではない。

今ある資産から、まだ取れていない価値を引き出すことでもある。


自分の企業分析も、少しずつ変わってきた

今回の分析で改めて感じたのは、

「強みを見つける」

だけでは足りないということだ。

次は、

何が希少資源なのか。

既存顧客という資産を使えているか。

その資源からどれだけ利益を生んでいるか。

KPIの矢印は本当に因果でつながっているか。

まで見なければならない。

例えば、

住宅なら、

「受注件数を増やす」

だけではなく、

842棟のOB顧客から、どれだけ長期的な価値提供ができるか。

運送なら、

「もっと運ぶ」

ではなく、

限られた拘束時間から、どれだけ利益を生み出せるか。

こう考えると、企業を見る解像度が一段変わる。


売上ではなく、「資源から生み出す価値」を見る

企業には必ず制約がある。

人。

時間。

設備。

顧客。

技術。

資金。

全部無限ではない。

だから経営とは、

結局、

限られた資源を、どこへ配分すれば最も価値が生まれるか

を考えることなのだと思う。

新しい顧客を追うのか。

既存顧客を深耕するのか。

ドライバーの時間をどの運行へ使うのか。

設計者の時間をどの案件へ使うのか。

ここまで考えられるようになると、

単なる企業紹介から、

少しずつ「経営診断」に近づいていく気がする。

まだまだ甘い部分はある。

でも、

分析するたびに、

見る場所が少しずつ変わっていく。

それが今は、企業分析を続ける一番の面白さなのかもしれない。

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