技術だけでは儲からない――友成工芸に学ぶ「加工技術×用途開発」の成長戦略

勝手に企業診断

技術だけでは儲からない。

儲かるかどうかを決めるのは、その技術を「どのような用途」に変えられるかである。

部品加工会社は、高い技術を持っていても、顧客から渡された図面どおりに作るだけでは、価格競争に巻き込まれやすい。

他社でも同じものを作れると判断されれば、比較されるのは価格と納期になる。

一方で、その加工技術を活かし、

「何に使えるのか」

「どのような価値を提供できるのか」

という用途まで提案できれば、単なる部品は高付加価値商品へ変わる。

重要なのは、技術を磨くことだけではない。

その技術を必要としている新しい用途を見つけることである。

今回紹介する友成工芸は、アクリル加工技術を活かし、トロフィーやアクリル升、店舗ディスプレイなどの新たな用途を次々と生み出してきた企業である。

かつての主力商品は、CADに消された

友成工芸は、1952年創業のアクリル樹脂加工会社である。

従業員は5人。

現在は、アクリル製トロフィーを主力商品とし、店舗用のディスプレイやアクリル升など、さまざまな自社商品を展開している。

しかし、創業当初の主力商品は、現在とはまったく違っていた。

同社が作っていたのは、クロソイド曲線定規である。

道路などの設計に使われる特殊な定規だったが、CADの普及によって市場は縮小した。

どれだけ高い技術で定規を作っても、そもそも定規を必要とする人が減っていく。

技術力の問題ではない。

技術が使われていた市場そのものが消えていったのである。

この状況は、多くの中小製造業に共通する。

優れた技術があるからといって、今の商品が将来も売れ続けるとは限らない。

技術より先に、用途がなくなることがあるからだ。

「モノづくりから離れろ」と言われた

市場が縮小する中、取引先からは厳しい助言も受けた。

「作ることから離れた方がいい」

「製造はすべて外注し、企画とソフトだけを売るべきだ」

経営という観点では、合理的な意見だったのかもしれない。

少人数の会社が設備や職人を抱えれば、固定費もかかる。

外注を使えば、需要変動にも対応しやすい。

しかし、社長の夫はモノづくりにこだわった。

長年培ってきた加工技術を捨てるのではなく、その技術が評価される新しい用途を探そうとしたのである。

ここが、友成工芸の大きな転換点だった。

同社は製造をやめなかった。

代わりに、作るものを変えた。

アクリルの魅力を、ディスプレイへ変えた

アクリル樹脂には、いくつもの特徴がある。

ガラス以上ともいわれる高い透明性。

加工の自由度。

中に印刷物や装飾物を入れられること。

多彩な色を表現できること。

軽く、割れにくいこと。

友成工芸は、この特徴を活かし、化粧品売り場やアパレル店舗向けのディスプレイを提案した。

透明感のある素材。

シャープな形状。

美しい発色。

商品そのものを目立たせながら、売り場全体の高級感も高める。

こうしたディスプレイが世界的なデザイナーから評価され、売上の拡大につながった。

同社が提供したのは、アクリル板の加工ではない。

商品を美しく見せ、売り場の印象を変えるためのディスプレイ

である。

同じ加工技術でも、定規を作れば価格競争に巻き込まれる。

高級ブランドの世界観を表現するディスプレイに使えば、高い付加価値を持つ。

技術の価値は、用途によって大きく変わるのである。

たまたま作った升が、ヒット商品になった

ディスプレイ事業が伸びた後も、順調な時期ばかりではなかった。

リーマンショックの影響を受け、再び売上が落ち込む。

そのような中、2010年に社内で花見をするため、アクリル製の升を作った。

木の升ではない。

透明で、光を通し、色や模様を美しく見せられるアクリル製の升である。

最初から市場調査を行い、事業計画を作って開発した商品ではなかった。

自分たちが楽しむために、持っている技術を使って作ったものだった。

ところが、周囲から非常に評判がよかった。

展示会へ出展すると、驚くほど売れた。

現在では、アクリル製トロフィーと並ぶ同社の代表商品へ成長している。

この出来事は、商品開発の興味深い点を示している。

新しい用途は、必ずしも会議室の中で生まれるとは限らない。

日常の遊び。

顧客からの何気ない依頼。

社内での試作品。

そのような小さなきっかけの中に、新市場の種がある。

重要なのは、その反応を見逃さず、商品として育てられるかどうかである。

トロフィーを「飾りたいもの」に変えた

現在、友成工芸の売上の大きな部分を占めているのが、アクリル製トロフィーである。

きっかけは、顧客からトロフィー製作の依頼を受けたことだった。

従来のトロフィーといえば、金色の王冠や人物像が付いたものを想像する人が多い。

受賞した時はうれしい。

しかし、自宅やオフィスに長く飾りたいかと聞かれると、少し迷う。

友成工芸のトロフィーは違う。

アクリルの透明感。

美しい発色。

シャープな形状。

印刷や彫刻による自由な表現。

これらを活かし、受賞後もインテリアとして飾りたくなるデザインを実現した。

自動車メーカーから販売店へ贈られる表彰品や、企業の社内表彰などにも採用されている。

取引先は1,000社を超える。

発注理由として評価されているのは、色味の美しさと対応力であるという。

ここでも、友成工芸は単にトロフィーを作っているわけではない。

受賞した人の誇りや、企業が称賛を伝える場面を形にしている。

アクリル加工技術を、表彰という用途へ変えたのである。

最後の仕上がりを決めるのは、職人の手

アクリルは、機械で切削すれば商品になるわけではない。

加工した断面には、機械で削った跡が残る。

そのままでは曇って見え、アクリル本来の透明感が失われる。

友成工芸では、その跡が残らないように、職人が手作業で磨き上げる。

角を丸くする研磨も手作業である。

古くから使われている手動彫刻機も、現在まで活躍している。

同社には、長年アクリル加工に携わってきた職人がいる。

どの程度磨けば透明感が出るのか。

どの角度に整えれば光が美しく反射するのか。

素材や形状に応じて、手の感覚で仕上がりを調整する。

顧客から見れば、小さな違いかもしれない。

しかし、その小さな差が、

「安価なプラスチック製品」

と、

「高級感のあるアクリル製品」

を分ける。

友成工芸のブランド価値は、加工機械だけでは再現できない。

最後の仕上げを担う職人技によって支えられている。

構造はどう変わったのか

友成工芸の成長を、事業構造の変化として整理してみる。

商品の変化

以前は、CADの普及によって市場を失ったクロソイド曲線定規が主力だった。

現在は、

アクリル製トロフィー。

アクリル升。

店舗ディスプレイ。

POP。

記念品。

など、アクリルの透明感や発色を活かした自社商品へ変化している。

特定の商品へ依存する会社から、加工技術を複数の用途へ展開する会社へ変わった。

チャネルの変化

以前は、取引先から依頼されたものを作る受託型の仕事が中心だった。

現在は、自社商品を開発し、企業や店舗へ直接提案している。

顧客の仕様どおりに製造する立場から、自ら用途とデザインを提案する立場へ移っている。

顧客が買う価値の変化

以前の顧客が購入していたのは、正確に加工されたアクリル部品だった。

現在の顧客が購入しているのは、

表彰の誇り。

売り場の高級感。

イベントの記憶。

商品を美しく見せる世界観。

といった価値である。

つまり、友成工芸は、

加工技術を売る会社から、アクリルによって特別な場面を演出する会社へ変わった

と考えられる。

友成工芸の本当の強み

同社の強みは、大きく三つある。

1.高い透明度と発色を実現する加工技術

アクリル素材の特徴を理解し、切削、研磨、彫刻、印刷を組み合わせながら、美しい製品へ仕上げる技術である。

特に、職人による磨きと角の処理は、高級感を左右する重要な工程になっている。

2.技術を異なる用途へ変える発想力

定規からディスプレイへ。

ディスプレイから升へ。

升からトロフィーへ。

一つの加工技術を、異なる市場と利用場面へ展開できる。

同社の最大の強みは、単に加工できることではない。

「この技術を何に使えば価値が生まれるか」を考えられることである。

3.顧客の要望に応える対応力

友成工芸には、1,000社を超える取引先がある。

企業ごとに、色、形、文字、利用目的は異なる。

その細かな要望に対応し、商品として仕上げられる柔軟性が評価されている。

大量生産品では対応しにくい、個別性の高い案件に応えられる点も、少人数企業ならではの競争力である。

最大の課題は、ヒット商品が偶然に生まれていること

友成工芸は、トロフィーやアクリル升というヒット商品を持っている。

しかし、そのきっかけはいずれも偶然に近い。

顧客から依頼を受けた。

花見用に升を作った。

展示会で反応が良かった。

こうした偶然を捉える力は重要である。

ただし、偶然だけに頼っていては、次のヒット商品を継続的に作ることは難しい。

今後必要なのは、

どの顧客が、何のために商品を発注したのか。

どの商品が、どの場面で評価されたのか。

どの素材、色、形が選ばれたのか。

失注した理由は何か。

展示会でどの試作品に反応が集まったのか。

といった情報を蓄積し、新用途を見つける仕組みである。

つまり、

偶然のヒットを、再現可能な商品開発へ変えること

が必要になる。

もう一つの課題は、供給制約

従業員5人の会社にとって、需要の増加は喜ばしいことばかりではない。

受注が増えても、作れる人数には限りがある。

特に、仕上がりを左右する研磨工程が熟練者に依存していれば、簡単には生産量を増やせない。

また、店舗ディスプレイの企画や個別対応にも時間がかかる。

需要を増やすだけでは、現場がパンクする可能性がある。

そのため、

標準化できる工程。

外部へ任せられる工程。

自社に残すべき工程。

を明確にする必要がある。

例えば、材料の切断や単純加工は、一定の品質基準を満たすパートナーへ任せられる可能性がある。

一方、透明感を決める最終研磨や、ブランド価値を左右する企画・デザインは自社に残す。

すべてを自社で抱えるのでもなく、すべてを外注するのでもない。

自社の価値を生む工程だけは守り、それ以外を連携によって広げる

という考え方が必要である。

勝ち筋は「加工技術×用途発見×高級感」

友成工芸の勝ち筋は、次のように整理できる。

高い透明度と発色を生むアクリル加工技術× 顧客の利用場面から新用途を発見する力× 職人の手仕事が生む高級感× 表彰・記念・店舗演出などの用途別自社ブランド× 外部パートナーを活用した供給力

ただし、長期的に空間設計全体を自社だけで担うのは、現在の規模を考えると現実的ではない。

友成工芸が目指すべきなのは、建築会社やインテリア会社になることではない。

空間演出の中で、アクリルディスプレイなら友成工芸と指名される存在になること

ではないだろうか。

現在の技術と実績を深めた先に、その成長像がある。

短期:高収益用途を見極め、商品開発を仕組みにする

短期では、顧客別、商品別、用途別の採算性を可視化する。

売上の大きい案件が、必ずしも利益を生んでいるとは限らない。

特注対応が多い案件。

修正回数が多い顧客。

小ロットで段取り負荷が高い商品。

熟練者の作業時間を多く使う商品。

こうした負荷を含めて、採算を見る必要がある。

同時に、案件情報を商品開発へ活用する。

例えば、案件ごとに、

用途。

発注理由。

利用場所。

デザイン要望。

希望する色。

予算。

納期。

顧客の評価。

を記録する。

その情報を分析し、依頼が増えている用途や、利益率の高い利用場面を特定する。

「顧客の声を聞く」だけでは不十分である。

声を分類し、次の商品へ変える仕組みまで作る必要がある。

供給面では、製造工程を分解する。

切断。

印刷。

彫刻。

接着。

研磨。

検査。

梱包。

各工程の難易度と品質への影響を整理し、外部へ任せられる工程を見極める。

ただし、最終研磨や品質チェックなど、友成工芸の高級感を支える工程は自社に残す。

工作教室や工場見学は、地域貢献だけではなく採用にも活用できる。

アクリル加工の面白さや職人技を見てもらい、将来の働き手との接点を増やす。

中期:用途別ブランドを育てる

短期の分析によって、ニーズと収益性の高い用途が見えてきたら、用途ごとに商品をシリーズ化する。

例えば、

企業表彰シリーズ。

周年記念シリーズ。

店舗ディスプレイシリーズ。

イベント記念品シリーズ。

スポーツ大会シリーズ。

こうした利用場面ごとに、

サイズ。

形状。

色。

文字の入れ方。

価格。

納期。

を一定のパターンにまとめる。

完全なオーダーメイドではなく、複数の基本設計から選べるセミオーダー型にすれば、顧客の個別性を残しながら設計負荷を下げられる。

特に、創業記念や事業承継の節目を迎える企業には、長年の歴史や新しい経営理念を形にした記念品を提案できる。

単なる社名入りの記念品ではなく、

企業の歴史。

受け継ぐ思い。

今後のビジョン。

を、色や形、内部印刷によって表現する。

友成工芸の技術が、企業の物語を残す商品へ変わる。

顧客との関係づくりでは、すべての購入者を一つのコミュニティーに集める必要はない。

高単価顧客や繰り返し発注する法人顧客へ、新商品や事例を定期的に紹介する。

イベント会社やデザイン会社と商品開発会を行う。

過去の発注企業へ、周年や表彰時期に合わせて提案する。

こうした法人向けの継続接点の方が、LTV向上には現実的である。

長期:アクリル空間演出で指名される企業へ

長期では、ディスプレイ事業の実績を活かし、空間演出案件への参画を増やす。

高級ホテル。

化粧品売り場。

アパレル店舗。

宝飾店。

ラグジュアリーブランドの展示会。

企業の表彰式。

ただし、建築や内装全体を自社で請け負うわけではない。

デザイン会社や内装会社と連携し、

透明感のある展示台。

照明を活かしたアクリル什器。

ブランドカラーを表現するディスプレイ。

企業の歴史を展示する記念オブジェ。

など、アクリルを使う部分で企画段階から参画する。

友成工芸が担うのは、空間全体の設計ではない。

アクリルによって、その空間の高級感や特別感を形にすること

である。

この立ち位置なら、現在の加工技術、ディスプレイ実績、顧客対応力の延長線上にある。

製造量だけを追う必要もない。

少数でも高単価で、企画性の高い案件へ集中できる。

5人規模の会社だからこそ、大量生産ではなく、他社が簡単にまねできない用途と仕上がりで勝負するべきだろう。

まとめ

友成工芸の事例から学べるのは、技術そのものには、まだ価格が付いていないということだ。

顧客の図面どおりにアクリル板を切れば、加工賃で比較される。

しかし、その技術を使って、

飾りたくなるトロフィー。

思い出に残るアクリル升。

商品の魅力を引き立てるディスプレイ。

企業の歴史を表現する記念品。

を作れば、顧客が感じる価値は変わる。

友成工芸が変えたのは、アクリル加工の技術ではない。

技術が使われる場面を変えた。

クロソイド曲線定規の市場は、CADによって失われた。

しかし、磨き上げてきたアクリル加工技術そのものが、なくなったわけではなかった。

その技術をディスプレイ、トロフィー、升へとつなぎ直したことで、新しい市場が生まれた。

中小企業に必要なのは、必ずしも最新技術ではない。

今持っている技術を、

「ほかに何へ使えるか」

「誰のどのような場面で価値になるか」

と問い直すことである。

社長が掲げる、

「今あるものプラス時代感」

という言葉は、その考え方をよく表している。

持っている技術を捨てず、過去の商品には固執しない。

時代の変化を見ながら、技術を次の用途へ変えていく。

それこそが、友成工芸が長く生き残り、新しい価値を生み続けてきた理由なのだと思う。

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