「困りごと」を見つけたら、すぐ作る。丸一川口BASEに学ぶ新規事業の生み出し方

勝手に企業診断

企業にとって、お客様の困りごとを見つけることは簡単ではない。

さらに、その困りごとを商品やサービスに変え、新たな事業として育てていくことは、もっと難しい。

今回紹介する丸一川口BASEは、顧客の困りごとを自ら探し、すぐに企画・試作し、ときには新たな事業へと発展させてきた企業である。

サウナグッズや医療用ガウンなど、事業の出発点にあるのは「誰かが困っている」という情報だ。

「困りごとを見つける力」と「すぐに形にする力」。

この2つを武器に、縫製会社の枠を超えて成長を続ける丸一川口BASEを紹介する。

もともとは、小さな縫製工場だった

丸一川口BASEは1985年創業、従業員66人の縫製会社である。

現在はOEMを中心に150社以上と取引し、中国にも自社工場を持つ。

年商は45億円。

年間10万点以上の衣類を生産している。

しかし、もともとはカットソーを中心に作る小さな町工場だった。

現在の事業を見ると、その変化はかなり大きい。

サウナグッズ。

ヨガマット。

アクセサリー。

医療用ガウン。

さらにはAIデザインソフト。

現在では15もの事業を展開している。

もはや単なる「縫製会社」と呼ぶだけでは、この会社の本質は表せない。

「仕事がないなら、なぜないのか聞きに行く」

現在の社長は、高校を中退して会社に入った。

性格は、かなりストレートだったという。

中小企業からの仕事が減っていた時期、普通なら、

「景気が悪いから仕方がない」

「価格競争だからどうにもならない」

と考えてしまうところだろう。

しかし社長は違った。

顧客に直接、

「なぜ、うちには仕事を出してくれないんですか?」

と聞いた。

かなり勇気のいる行動だと思う。

さらに、大手企業へ何度も電話をかけ続けた。

ある日、

「ずっと電話してきている子だよね」

と覚えられ、

「じゃあ試しに作ってみて」

と言われた。

その依頼に対し、一週間後には試作品を持参。

そのスピードに驚かれ、最終的にはピーク時で5億円規模の仕事につながったという。

この会社の営業の原型は、ここにある。

聞く。動く。すぐ作る。

非常にシンプルだが、実行するのは難しい。

コロナ禍でも「困っている人はいないか」と電話する

この姿勢は、その後も変わっていない。

コロナ禍で世の中が混乱していた時期。

社長は厚生労働省へ直接電話した。

目的は、

「何か困っていることはありませんか?」

と聞くためだった。

そこで医療用の滅菌ガウンが不足していることを知る。

ならば作れないか。

企画する。

試作する。

持っていく。

結果、受注につながった。

普通なら、

「縫製会社なので、医療分野は分かりません」

で終わってしまう。

しかし丸一川口BASEは、

「自社が何屋か」

ではなく、

「自社の能力で、誰の困りごとを解決できるか」

から考えている。

ここが非常に面白い。

強みは「縫製技術」だけではない

もちろん、製造能力も高い。

設計。

型紙。

裁断。

縫製。

仕上げ。

までを一貫して行える。

裁断工程ではDXを進め、プロジェクターや機械を連携させて自動化を進めている。

一方で、品質を左右する縫製工程は人の手を残す。

つまり、

DXで効率化すべき部分と、人が価値を出す部分を分けている。

また、400種類もの商品を単に大量生産する会社ではなく、試作から量産まで一気通貫で対応できる。

だからこそ、

「こんな商品を作れないか」

という相談に対し、すぐ形にできる。

このスピードが営業力と結びついている。

AIデザインソフトまで自社開発

さらに興味深いのが、独自のAIデザインソフトである。

試着イメージを即座に作成でき、ポーズや背景もAIで変更可能。

一般的な他社サービスでは、1人1アカウントで年間100万円以上するケースもある中、丸一のサービスは複数人で使えて月額23万円。

縫製会社が、なぜソフトまで作るのか。

これも発想は同じだと思う。

顧客が、

「企画段階で完成イメージが分かりにくい」

「デザイン確認に時間がかかる」

と困っている。

だったら、その困りごと自体を解決する。

つまり、売る対象が「服」から「商品開発プロセス」へ広がっている。

ここには、今後の成長の大きな可能性を感じる。

社員に「失敗する予算」を与える

新規事業を作るには、当然失敗もある。

そこで丸一川口BASEには、

「失敗予算」

という考え方がある。

失敗してもよい予算をあらかじめ設け、社員の挑戦を後押しする。

これは非常に重要な仕組みだと思う。

「新しいことをやれ」

と言いながら、

失敗したら怒られる。

評価が下がる。

責任を追及される。

これでは、誰も挑戦しない。

挑戦を増やしたいなら、

失敗してもよい仕組みを先に作る必要がある。

丸一川口BASEでは、それが組織制度として存在している。

だから、社員も新しいことへ挑戦しやすい。

「熱意」を個人技で終わらせないことが次の課題

一方で、私はこの会社の課題も感じる。

現在の強さは、かなり社長個人の行動力に依存しているように見える。

顧客へ直接聞きに行く。

何度も電話する。

困りごとを見つける。

すぐ試作品を作る。

確かに強い。

しかし会社がさらに大きくなるなら、

「社長だからできる」を「会社としてできる」へ変える必要がある。

ここが次の成長ポイントだと思う。

構造の変遷

丸一川口BASEの変化を整理すると分かりやすい。

商品・事業

カットソー中心の縫製会社

↓

縫製+サウナグッズ+医療用品+AIデザインなど15事業

生産体制

町工場中心

↓

国内+中国工場

生産方法

人手中心

↓

DX+人手

価値提供

言われたものを作る

↓

困りごとを聞き、企画から形にする

つまり、この会社の本質的な変化は、

「縫製する会社」から「困りごとを事業化する会社」への転換

だと私は考える。

私が考える強み

第一は、一貫生産体制。

企画から試作、量産までを短期間で実現できる。

第二は、顧客の困りごとを拾いに行く営業姿勢。

第三は、DXと人手を組み合わせた生産体制。

第四は、社員が挑戦できる「失敗予算」などの組織文化。

そして一番重要なのは、

「困りごと→企画→試作→事業化」のサイクルを実際に何度も回してきた経験

だと思う。

これは単なる技術ではない。

組織能力である。

一方で、「何でもやる」は危険でもある

15事業を持つことは強みである一方、リスクにもなる。

新しい事業を次々と立ち上げれば、

人。

設備。

営業。

開発予算。

管理コスト。

すべてが分散する。

売上は伸びても、利益が残らない可能性もある。

つまり、

「ワクワクする新規事業」と「儲かる新規事業」は同じではない。

ここは冷静に見る必要がある。

これからは、

どの事業が粗利を生んでいるのか。

どの事業が将来の成長につながるのか。

どの事業は撤退すべきなのか。

を明確にする必要があるだろう。

短期:まず「何が儲かっているのか」を可視化する

短期では、

顧客別。

事業別。

案件別。

の採算性を可視化する。

売上ではなく、最終的にどれだけ利益が残っているかを見る。

さらに、社長の営業行動を分解する。

例えば、

困りごとを聞く。

その場で仮説を出す。

社内に持ち帰る。

試作までの日数を短くする。

顧客へ再提案する。

こうした一連の行動を可視化する。

そして、若手社員が再現できる形へ落とす。

つまり、

社長の「熱意」を営業プロセスへ変換する。

これが重要になる。

中期:「困りごと」を組織で集める

中期では、社長だけでなく会社全体で困りごとを集める仕組みを作る。

例えば、

営業。

SNS。

展示会。

既存顧客。

社員。

こうした接点から顧客の困りごとを蓄積する。

私はこれを、

「困りごとDB」

として持っても面白いと思う。

何に困っているのか。

誰が困っているのか。

今どんな方法で解決しているのか。

市場規模はどの程度か。

自社の技術で解決できるか。

これを整理し、優先順位を付ける。

そして、

困りごと

↓

企画

↓

試作

↓

テスト販売

↓

採算評価

↓

事業化/撤退

という新規事業プロセスを標準化する。

丸一川口BASEの本当の強みを、再現可能な仕組みに変えるのである。

長期:自社ブランドを作る前に「勝ち筋」を見極める

長期では、自社ブランド化が一つの方向性になる。

ただし、私は「とりあえず自社ブランドを増やす」ことは避けたい。

すでに15事業ある。

さらに商品を増やせば、より経営資源が分散する可能性がある。

だから、短期・中期で見つけた、

高収益で、顧客ニーズが強く、自社の強みを活かせる領域

に絞る。

そこで初めてブランド化する。

例えば、

「この困りごとなら丸一」

と市場から想起される領域を作る。

ブランドとは商品名を付けることではない。

顧客の頭の中に、「この会社なら解決してくれる」というポジションを作ること

だと思う。

丸一川口BASEから学べること

この会社を分析して、最も印象に残ったのは、

「困りごとは、待っていても見つからない」

ということである。

仕事が来ないなら理由を聞きに行く。

行政にも電話する。

顧客の悩みを見つけたら、すぐ試作品を作る。

社員にも失敗できる予算を与える。

つまり、

困りごとを探す。

↓

すぐ動く。

↓

形にする。

↓

反応を見る。

↓

また改善する。

この速さが、新しい事業を生み出している。

一方で、これからさらに成長するためには、

その強さを社長一人のものにしないこと。

複数事業の中から、本当に利益を生む領域を選ぶこと。

そして、

「困りごとを事業に変える仕組み」そのものを会社の資産にすること。

ここまでできれば、丸一川口BASEは単なる縫製会社でも、多角化企業でもなくなる。

「顧客の困りごとを見つけ、最速で事業化する会社」

として、さらに独自のポジションを築けるのではないかと思う。

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