ゴルフ場の未来は、クラブではなく“ボールを蹴る”ところから始まった

勝手に企業診断

ゴルフ場は「ゴルフをする場所」──この常識のままでは、縮小市場の逆風に飲み込まれます。
セブンハンドレッド(ゴルフ場運営/1962年創業・40人)は、その常識を“用途の再定義”でひっくり返しました。軸にしたのはフットゴルフ。さらに重要なのは、設備投資より先に「組織の空気」を変えたことです。

背景:縮小市場×固定費の重さが、現場の空気を沈める

ゴルフ市場は長期で縮小傾向。現場では「利用者が減る→稼働率が落ちる→固定費が重くなる→余裕がなくなる→不満が増える」という負の連鎖が起きやすい。
固定費型ビジネス(施設・土地・維持管理・最低限の人員)ほど、失敗が損失に直結するため、組織は保守的になりがちです。

  • 変化を求めない
  • 意見が出ない
  • 新しい挑戦をしない
  • 不満だけが蓄積する

セブンハンドレッドも、就任当初はこの状態に近かったといいます。

経営者の決意:最初の一手は“新規事業”ではなく“対話”だった

2020年、大学時代にNPO法人を設立した経験を持つ社長が就任。「ゴルフ場の新たな可能性を広げたい」というビジョンを掲げます。
しかし直後にコロナ禍でワールドカップは中止。普通なら勢いが止まる局面です。

ここで社長がやったことは、広告でも大規模投資でもありませんでした。
「従業員一人ひとりの声を聞き、良い面を探し、提案を否定せずにやらせる」──組織の空気の作り直しです。

  • 従業員の声を吸い上げる
  • 否定しない(失敗しても責めない)
  • 小さな成功体験を積み重ねる

固定費型の現場ほど“失敗が怖い”ので、これは実は最難関の打ち手です。
だからこそ、ここを突破できた会社は強い。

強み:フットゴルフ単体ではなく「掛け算」が模倣困難性を作る

セブンハンドレッドは、フットゴルフが2012年からワールドカップに認定され、その競技会場となっています。
ただし診断士として見るべきは「特徴」ではなく「再現困難な構造(参入障壁)」です。

この会社の強みは、次の掛け算で成立しています。

  • ワールドカップ会場という認知(権威性・希少性)
  • 自然豊かな広大な土地(空間資産)
  • 社長のコミュニケーション力とビジョン(推進力)
  • 社員の声を吸収し、提案を実行させる組織運営(再現性)

「会場であること」だけなら真似され得ます。
しかし“運営する組織の型”まで含めた掛け算は、他社が簡単にコピーできません。


診断士としての論点:固定費型ビジネスの本丸は「稼働率×限界利益」

なぜゴルフ場は“稼働率”が生命線なのか

ゴルフ場は固定費が重い。土地・コース維持、機械、クラブハウス、設備、最低限の人員。
利用者が増えても固定費は大きく変わらない一方、利用者が減ると一気に赤字化しやすい構造です。

だから経営の本丸は次の2つに集約されます。

  • 稼働率を上げて固定費を回収する
  • 利用者一人当たり限界利益を積み上げる(単価と追加コスト管理)

フットゴルフの価値は「ゴルフ人口とは別の文脈で客を呼べること」。
つまり稼働率の底上げ装置になり得ます。

落とし穴:イベント増=利益増ではない(追加人件費が膨らむ)

BBQ、婚活パーティー、夏祭りなど“用途拡張”は魅力的です。
しかしイベントを増やすほど、運営工数が増え、追加人件費が膨らみ、限界利益が出ない罠に落ちやすい。

したがって、打ち手は「増やす」ではなく「回る型にする(標準化する)」が正解です。
イベントは単発ではなくシリーズ化し、運営をテンプレ化する。外部パートナーも活用し、現場負荷を抑えながら稼働率を上げる設計が必要です。

戦略の優先順位:深耕 → 法人 → 地域連携

① 伝える(翻訳が9割)

フットゴルフは、知らない人には魅力が伝わりにくい。だから宣伝ではなく「翻訳」が必要です。

  • 何が面白いのか(初心者OK/親子OK/運動量/競技性)
  • どんな1日になるのか(所要時間・タイムスケジュール)
  • 何を持っていけばいいのか(服装・持ち物・費用)
  • 誰が楽しめるのか(家族、友人、会社、学校)

加えて、社長のストーリー(就任→コロナ→組織改革→挑戦)はファンを作る核になります。
会員制は最初から重くせず、LINE登録やメール会員など“入口”を作るのが現実的です。

② 広げる(短期):既存客を深耕し、稼働率を底上げする

短期の狙いは「稼働率の底上げ」と「リピートの設計」。イベントは単発ではなくシリーズ化が効きます。

  • Step1:体験会(初心者導線、45〜60分)
  • Step2:実践会(ルール理解、軽い競技性)
  • Step3:ミニ大会(発表・表彰・交流)

シリーズ化すると、運営が標準化しやすく、SNSのネタも尽きず、リピート率が上がります。
BBQ等の重い施策は、外部パートナー活用前提で“現場負荷を増やさない”設計が重要です。

③ 広げる(中期):法人向けで単価と平日稼働を取りにいく

固定費型は法人と相性が良い。人数がまとまり、平日稼働を作りやすく、単価設計がしやすいからです。

  • 企業研修:チーム対抗+振り返り(思考の枠を外す研修)
  • 福利厚生:月1レクリエーション枠
  • 学校:自然体験+ルール理解+運動

法人向けは「成果物」を付けると値付けが上がります(ランキング、振り返りシート、写真・動画、修了証など)。

④ 広げる(長期):自治体・地域連携で“地域資源パッケージ化”

長期で効くのは、地域のレストラン・ホテル・温浴施設などと組んだパッケージ。
ゴルフ場単体ではなく「地域回遊型」にすることで、集客の理由が強くなります。

  • 宿泊 × フットゴルフ × 地元食
  • 温浴 × デトックス × アクティビティ
  • 地域イベント(祭り)と連動した企画

自治体連携は調整工数が重いので、法人の柱ができてから進めるのが順番として堅いです。


KPI設計:最重要は「利用者一人当たり限界利益」を測れる形にする

KGIは営業利益率。これを上げるために、ゴルフ場では特に次の2つを握ります。

  • 稼働率(客数・稼働日・平日稼働)
  • 利用者一人当たり限界利益(単価と追加人件費)

認知度KPI

  • SNSフォロワー数
  • 問い合わせ数(→予約率まで追う)
  • イベント数/参加者数
  • フットゴルフ大会・合宿の開催実績数

LTV(リピート)KPI

  • リピート率(30日/90日など期間で管理)
  • 会員転換率(LINE・メール会員など入口も含む)
  • 法人客利用割合

最重要:利用者一人当たり限界利益KPI

  • 利用者一人当たり売上
  • 利用者一人当たり追加人件費(かける時間×人数×時間単価)

イベントごとに「標準工数」を作ってPDCA対象にすると、固定費型でも利益が残る体質に変わっていきます。


まとめ:ゴルフ場は“用途”で再定義できる。勝ち筋は「稼働率×標準化」

セブンハンドレッドの本質は、フットゴルフというコンテンツ以上に、空間資産を用途で再定義し、組織の空気を変え、稼働率と限界利益で固定費を回収するモデルへ転換した点にあります。
次の勝ち筋は明確です。

  1. 伝える(翻訳+ストーリー+会員の入口)
  2. 短期:既存客深耕(季節×シリーズ化で標準化)
  3. 中期:法人(研修・福利厚生で単価と平日稼働を取る)
  4. 長期:地域連携(地域資源パッケージ)

固定費型ビジネスは、努力が“稼働率と限界利益”に結びついた瞬間に、強い再現性を持ちます。
ゴルフ場の未来は、クラブだけで作るものではありません。

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