今回取り上げるのは、安本産業。
1885年創業、従業員23人の調味料メーカー。8代目の会社だ。
主力商品は、燻製ナッツドレッシング。
年間60万本売れるヒット商品であり、1時間で3000本販売というギネス記録まで持っている。
売上は、2,000万円から3億円へ。典型的なV字回復企業だ。
もともとは「醤油1本」の会社
この会社のスタートは非常にシンプルだ。
- 商品:醤油1本
- チャネル:法人直販中心
- 売上:2,000万円
しかし、ここに構造的な問題があった。
醤油は減っている。
実際、日本の醤油消費量は、50年前と比べて約4分の1まで減少している。
つまり、
- 市場は縮小
- 商品は単一
- 差別化は弱い
このままでは、ジリ貧になるのは時間の問題だった。
転機は「用途」だった
新社長は、ここで決断する。
新しいことをやる。顧客を広げる。
最初に作ったのが「燻製醤油」。
これを展示会に出すと、バイヤーの反応が良い。
そして、ある一言。
「ドレッシングは作れないの?」
ここで重要なのは、商品ではなく用途が見えたことだ。
- 醤油 → 調味料
- 燻製 → 味変
- ドレッシング → 日常使い
つまり、使われ方が変わると、売れるという気づきだ。
ここから、燻製ナッツドレッシングが生まれる。
売り方を変えたら、構造が変わった
この会社の本質は、商品ではない。
売り方を変えたことだ。
① チャネル構造
量販店のみ
↓
量販店+直販(SNS・EC)
② 商品構造
醤油1本
↓
ドレッシング+醤油
③ 顧客構造
代替買い
↓
指名買い
④ 人材構造
認知なし
↓
認知あり → エンゲージメント向上
⑤ 売り方
作るだけ
↓
作る+売る
特に大きいのが、消費者に直接リーチしたことだ。
SNSでの発信は、数日でフォロワーが40人から9万人に増加。
これが、
- 認知
- 指名買い
- 量販店での価格交渉力
すべてにつながっている。
この会社の強み
強みは「職人技術」ではない。そこは他社も持っている。
本当の強みはこれだ。
- 売り方(SNS・直販)
- 商品開発プロセス(顧客起点)
- 既存チャネル(量販店)
つまり、伝統 × 現代マーケ × 開発プロセスこの組み合わせである。
特に重要なのは、商品開発が顧客起点で回っていること。
展示会
→ バイヤーの声
→ 商品化
このサイクルが回っている。
課題はシンプル
この会社の課題は2つある。
① 量販店依存
量販店は売れる。だが、価格決定権は弱い。
だから必要なのは、厚利構造である。
② 商品依存
ヒット商品がある。だが、ドレッシングも競合は多い。
つまり、次の商品を作り続ける必要がある。
戦略をどう見るか
この会社の戦略は方向性としては良い。ただし、ポイントは整理しておく必要がある。
短期
やるべきは明確。
- 採算の可視化(商品×チャネル)
- 高収益領域への集中(高級ホテル・高級飲食店・高付加価値量販店)
ここに加えて重要なのは、用途別発信である。
- どんな料理に使うか
- どんなシーンで使うか
ここを徹底的に出す。
中期
ここでブランド化。ただし注意点がある。
サブスクは成立条件がある。
- 定期需要があるか
- 使用頻度が安定しているか
ドレッシングはギリ成立する。ただし、主戦略ではなく補助が現実的。
重要なのは、
- ファン向け定期便
- イベント
- インバウンド
つまり、関係性の強化である。
長期
海外展開は合理的。ただし、いきなり直販は危険。
この戦略が良い。
- インバウンド起点
- 自社サイトでリピート
- 展示会で検証
- 卸/代理店で展開
テスト → 拡大の順番にする。
この会社の本質
この会社の本質はこれだ。
商品を変えたのではない。売り方を変えた。
そしてもう一つ。
売り方を変えたことで、商品が変わった。
これは非常に重要。
普通はこう考える。
良い商品を作れば売れる。
しかし、この会社は逆だ。
売り方(顧客接点)を変えた
→ 顧客の声が入る
→ 商品が変わる
つまり、売り方が商品を進化させるという構造になっている。
最後に
安本産業は、「老舗がどう生き残るか」の教科書のような事例だ。
- 伝統を捨てない
- でも売り方は変える
- 顧客に直接つながる
この3つをやるだけで、
- 認知
- 価格
- 採用
すべてが変わる。
結論はシンプルだ。
作るだけでは、もう勝てない。
売り方まで設計して、初めて勝てる。


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