「できるだけ多くのお客様に売りたい」
商品をつくる側からすれば、そう考えるのは自然なことです。
ところが、中小企業が大企業と同じように「みんなに売れる商品」を目指すと、特徴のない商品になり、価格競争に巻き込まれることがあります。
それとは正反対の発想で成長してきた会社があります。
不動産会社のリブランです。
同社が展開するのが、防音賃貸マンション「ミュージション」。
名前の由来は、
「ミュージック+マンション=ミュージション」。
音楽を思い切り楽しみたい人に向けて、防音性能だけでなく「音の響き」にまでこだわったマンションです。
首都圏で46棟、約900戸を展開し、高い家賃設定にもかかわらずキャンセル待ちが出るほどの支持を集めています。
その背景にある考え方が面白い。
「99人に嫌われても、1人から異様に好かれる商品をつくる」
今回はリブランの事例から、「ターゲットを絞ること」が、なぜ企業の強さにつながるのかを考えてみます。
「普通のマンション」を売るのをやめた
リブランは1968年創業、従業員66人の不動産会社です。
もともとは分譲マンションを中心に手掛けていました。
転機となったのが、バブル崩壊です。
単に「住む場所」を提供するだけではなく、そこに住む人の「生き方」まで考える会社になろうとします。
そこで生まれた一つが、ミュージションでした。
会長自身にバンド活動の経験があり、
「自宅で思い切り楽器を演奏したい」
という人たちのための住まいに着目します。
しかし、周囲からは反対されたそうです。
ターゲットを音楽家に絞れば、市場が小さすぎる。
将来売却するときに買い手が見つからないのではないか。
普通に考えれば、もっともな意見です。
それでもリブランは進みました。
そしてターゲットを、音大を目指す人、音大生、卒業後も音楽に携わる人などへ明確に絞っていきます。
ここが、この会社の面白いところです。
市場を広く取るのではなく、特定の人が抱える強烈な困りごとを深く解決する方向へ進んだのです。
「防音マンション」ではなく、「音を楽しめる暮らし」を売る
ミュージションの価値は、単に「音が漏れにくい部屋」ではありません。
音楽をする人にとって、
「隣の部屋を気にせず練習したい」
「時間を気にせず楽器を演奏したい」
という悩みは、生活そのものに関わります。
そこを解決するから、一般的な賃貸住宅とは違う価値が生まれます。
さらにリブランは、入居者の声を商品改良にも活かしています。
たとえば、配信をする人からのニーズを受け、防音空間の中にさらに小さな防音スペースを設けるといった工夫も行っています。
つまり、
顧客を絞る → 顧客の困りごとが深く分かる → 商品をさらに尖らせる → その顧客からより強く選ばれる
という循環が生まれています。
ターゲットを絞ることは、市場を捨てることだけではありません。
むしろ、顧客理解の解像度を上げることでもあるのです。
リブランの強さは「遮音技術」だけではない
私は、この会社の強さを単なる技術力だけでは捉えていません。
もちろん、高い遮音性能を実現する技術は大きな強みです。
しかし、それ以上に注目したいのが、
「暮らしの困りごとを発見し、それを住宅という形に変える力」
です。
実際、リブランは音楽だけでなく、ペットとの共生を考えたマンションや、無垢の杉材を床に使った自然共生型の住まいなども手掛けています。
共通しているのは、
「マンションをどう売るか」
から考えていないことです。
「どんな暮らしの問題を解決するか」
から考えている。
これは大きな違いです。
「選択と集中」は、何でも切り捨てることではない
ここからは、私なりにリブランの今後を考えてみます。
まず重要だと思うのが、事業ごとの役割を明確にすることです。
ミュージションをはじめ複数の特徴的な住宅ブランドを展開するのであれば、それぞれについて売上だけでなく、粗利、顧客層、成長性などを確認する。
そのうえで、
「現在利益を生んでいる事業」
「これから育てる事業」
を分けて、限られた人や資金を配分する。
ただし、単純に「儲からないからやめる」ではありません。
新しい暮らし方を探すこと自体が、この会社の強みだからです。
探索する余地を残しながら、伸ばす事業にはしっかり資源を投入する。
そんな経営が合っているように思います。
顧客の声を「次の商品」に変える仕組みをつくる
もう一つ強化できそうなのが、入居者の声の活用です。
たとえば、
年齢、職業、ライフステージ。
なぜミュージションを選んだのか。
どんな楽器を演奏しているのか。
入居後に何に困っているのか。
どんな使い方をしているのか。
こうした情報を蓄積すると、
「誰が×何に困り×なぜ選んだのか」
というパターンが見えてきます。
配信者向けの防音スペースのように、今まで想定していなかった用途が見つかる可能性もあります。
重要なのは、アンケートを取ることではありません。
顧客の声→分類→有望ニーズ発見→改良→検証
までを一つの経営プロセスにすることです。
社長や一部の社員の感覚だけではなく、組織として「次のミュージション」を生み出せる状態にする。
ここまでできれば、顧客の声そのものが会社の資産になります。
入居した後にも、ビジネスチャンスがある
賃貸住宅の面白いところは、契約したら顧客との関係が終わるわけではないことです。
音大受験のために借りる人。
卒業して音楽活動を続ける人。
就職する人。
結婚する人。
家族が増える人。
ライフステージが変われば、必要な住まいも変わります。
そこで、
入居→暮らしの変化→次の住まい
まで顧客との関係をつなげられれば、一人の顧客との関係は長くなります。
単純な「リピート率」ではなく、音楽のある人生に、どこまで長く寄り添えるか。
これが、リブランらしいLTVの考え方ではないでしょうか。
さらに面白いのは「技術そのもの」を外へ出すこと
長期的には、もう一つ可能性があると思います。
リブランが持つ遮音技術を、自社マンションだけに閉じ込めないことです。
設計事務所やリフォーム会社などと連携し、
「音楽を楽しめる住宅をつくりたい」
という案件に、企画や設計の上流から関わる。
そうすれば、自社で物件を保有・開発する以外にも、技術やノウハウそのものを価値に変えられる可能性があります。
これは単なる多角化ではありません。
すでに持っている強みを、別の収益モデルに転用する。
という考え方です。
「1人に異様に好かれる」は、中小企業の強い戦略になる
リブランの事例を見ていると、「ターゲットを絞る」という言葉の意味が少し違って見えてきます。
顧客を減らすことが目的ではありません。
特定の顧客を深く理解する。
その人が本当に困っていることに、自社の強みを集中させる。
そこで圧倒的な価値をつくる。
そして、顧客の声を聞きながら、さらに商品を磨く。
99人にそこそこ好かれる商品ではなく、1人から異様に好かれる商品をつくる。
経営資源の限られた中小企業にとって、これは非常に合理的な戦い方なのかもしれません。
そして、その「1人」が強烈なファンになり、同じ悩みを持つ次の1人を連れてくる。
そう考えると、
「市場を絞ること」は、必ずしも成長を諦めることではない。 むしろ、自社にしかつくれない市場をつくることなのだ。
リブランの成長から、そんなことを学びました。

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