下請けをやめれば儲かるわけではない。「選ばれる理由」を作ったPanomaの変革

勝手に企業診断

下請けから脱却したい。

中小企業の経営者から、よく聞く言葉の一つです。

確かに、下請けという立場では価格決定権を持ちにくく、仕事量も元請けの都合に左右されます。

ならば、元請けになればいい。

話はそれほど単純ではありません。

元請けになるということは、自分たちでお客様を見つけ、「なぜ他社ではなく、あなたの会社なのか」を説明しなければならないということでもあります。

必要なのは、単なる「脱下請け」ではありません。

自社の強みを見つけ、その強みが最も刺さる顧客を絞り、その顧客のためにサービスそのものを作り変えること。

今回紹介する住宅リノベーション会社「Panoma」は、そのヒントを与えてくれる企業です。


かつては「仕事をもらう会社」だった

Panomaは1967年創業、従業員31人の住宅リノベーション会社です。

住宅だけでなく、店舗やオフィスなども手掛け、インテリアコーディネートやオーダー家具にも対応しています。

月に約30件の現場を担当しています。

しかし、以前のビジネスモデルは現在とは大きく違いました。

仕事は元請けから回してもらう。

典型的な下請け型のビジネスです。

一時期は売上を3億円から10億円まで伸ばしました。

数字だけを見れば順調です。

ところが、問題が起こります。

社員が次々と辞めていったのです。

当時の社長は、利益を増やし、社員に高い給与を払うことを重視していました。

もちろん、給与は重要です。

しかし、社員からは会社の将来性が見えないという声が出ました。

「給料を上げれば社員は幸せになる」

そんな単純な話ではなかったのです。


社長が30社以上を見て気づいたこと

社長は経営を学ぶため大学院へ進学。

さらに2年間で30社以上の企業を訪問しました。

そこで気づいたのが、

「社員の幸福」と「経済合理性」を両立させなければならない

ということでした。

利益を社員に還元することは重要。

しかし、それだけではない。

労働時間を減らす。

人を増やす。

自分たちの仕事がお客様にどう喜ばれているのかを実感できるようにする。

そして、Panomaは大きな決断をします。

下請けから脱却し、お客様と直接取引する。

ところが、ここからが大変でした。


下請けをやめたら、お客様がいなかった

考えてみれば当然です。

それまでは元請けが仕事を持ってきてくれていました。

自分たちで営業する必要はありません。

脱下請けを決めた瞬間、

「さて、お客様をどうやって見つけるのか」

という問題に直面します。

そこで社内にDM部門を設置。

Webを使って、直接お客様から問い合わせを受ける仕組みを作りました。

そして、もう一つ重要なことを決めます。

「誰に売るのか」を絞ったのです。


「こだわりの強い女性」に絞る

Panomaが狙ったのは、こだわりの強い女性でした。

現在、依頼主の約9割が女性です。

二世帯住宅。

北欧風のインテリア。

収納を効率化した空間。

非日常を感じられる部屋。

お客様によって求めるものは違います。

そこでPanomaが大切にしている考え方があります。

「お客様を主演女優にする」

面白い表現です。

自分たちが作りたい家を押し付けるのではありません。

そこで暮らす人が主役になる空間を作る。

そのため、女性中心の専門リノベーションチームを組み、プランニングから現場監督までワンチームで対応しています。

さらに2カ月に1回、「審美眼研修」も実施。

美しいものを見極める力そのものを組織として磨いています。

つまり、

「女性向けです」と広告で言っているだけではない。

ターゲットを絞ったことで、組織、人材育成、提案方法まで変えているのです。

ここが重要だと思います。


「誰に売るか」を決めると、会社そのものが変わる

私はPanomaの変革を、次のように整理しました。

視点以前現在
チャネル下請け元請け・直販
サービス一般的なリノベーションこだわりの強い女性向け
事業範囲内装工事内装+運営
経営利益追求中心社員の幸福+利益
社員のやりがい元請けから仕事を受ける顧客から直接感謝される

特に興味深いのは、脱下請けが社員の働きがいにもつながったことです。

直接お客様と接することで、

「ありがとう」

という言葉を社員自身が受け取れるようになった。

結果として退職率も低下しました。

脱下請けとは、単に粗利率を上げる施策ではない。

「誰のために仕事をしているのか」が見える組織への転換でもある。

Panomaの事例からは、そんなことも見えてきます。


Panomaの強みは何か

私が考える強みは、大きく3つです。

まず、デザイン性の高いリノベーションを提供できる人材と育成の仕組み。

次に、顧客と直接接点を持ち、社員がお客様の反応を直接感じられる仕組み。

そして、依頼主の約9割が女性という、明確な顧客基盤です。

単なる、

「リノベーションできます」

ではありません。

「こだわりの強い女性の暮らしを、空間として具体化できる」

ここまで絞り込むことで、他社との違いが生まれています。


ただし、個別対応には弱点もある

一方で、課題もあります。

こだわりの強いお客様に合わせれば合わせるほど、設計や提案に時間がかかります。

優秀なスタッフに案件が集中すれば、売上を増やしても対応できません。

さらに、顧客獲得や営業が特定の人に依存すれば、会社としての成長にも限界が来ます。

つまり次に必要なのは、

「高い個別性を残しながら、どこまで再現可能にできるか」

という取り組みだと考えます。


短期:まず「何が儲かっているのか」を知る

最初にやるべきなのは、顧客別・案件別・用途別の採算性を可視化することです。

「売れている仕事」と「儲かっている仕事」は必ずしも同じではありません。

さらに、施工後のお客様との接点を残します。

SNSやイベントなどを通じて、

「なぜPanomaを選んだのか」

「実際に暮らして何が良かったのか」

「どんな生活上の悩みがあったのか」

といった情報を集める。

重要なのは、単なるアンケートではなく、次のサービス開発に使える顧客データとして蓄積することです。


中期:「完全オーダーメイド」から「賢いセミオーダー」へ

ここがPanomaの次の成長ポイントだと考えます。

過去の施工事例を蓄積する。

そして、

施工事例DB → 提案テンプレート → 設計テンプレート → 見積テンプレート

へと展開します。

例えば「二世帯住宅」であれば、過去案件から、

親世帯・子世帯の生活動線、収納、共有スペース、デザインの好み、予算、施工上の注意点などを整理する。

すると、次のお客様への提案をゼロから作る必要がなくなります。

もちろん、そのまま使うわけではありません。

共通部分は再利用し、こだわる部分だけ個別設計する。

これならPanomaらしい個別性を残しながら、提案・設計・見積の生産性を高められます。


長期:個人で培った「こだわり空間」を法人へ

さらに将来的には、個人向けで培ったデザイン力を法人へ展開する可能性もあります。

ただし、「法人なら何でも」では広すぎます。

狙うべきは、空間そのものが顧客価値になる事業者でしょう。

例えば、高級旅館やホテル、こだわりのある飲食店、美容サロン、女性向け施設などです。

個人住宅で磨いてきた、

「顧客の曖昧なこだわりを聞き出し、空間として具体化する力」

を法人向けに転用する。

これなら、現在の強みから比較的地続きの展開になります。


下請け脱却とは「仕事の取り方」を変えることではない

Panomaの事例を見て、改めて感じます。

下請けから脱却するというと、

「直販する」

「Web集客する」

「自社ブランドを作る」

といった施策に目が向きます。

しかし、本質はそこではないのでしょう。

誰に売るのかを決める。

その人が自社を選ぶ理由を作る。

その価値を提供できる組織へ変える。

そして、

個人の能力ではなく、会社として再現できる仕組みにする。

ここまで変えて、初めて本当の意味での「脱下請け」になるのだと思います。

Panomaが興味深いのは、下請けをやめただけではありません。

「仕事をもらう会社」から、「顧客から選ばれる会社」へ変わろうとしたこと。

売上を一時的に落としてでも、その構造転換に踏み切った。

そこに、この会社の成長から学ぶべき一番大きなポイントがあるように思います。

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