良い製品を作れば、売れ続ける。
そう思いたくなる。
でも現実は、少し違う。
良い製品ほど壊れない。
壊れないから、買い替えが起きない。
買い替えが起きないから、売上が止まる。
これは、ものづくり企業にとってかなり怖い話だ。
今回取り上げるコトブキメディカルは、まさにその壁にぶつかった会社である。
下請けから始まった会社
コトブキメディカルは、医療用トレーニング機器を開発する会社だ。
主力は、腹腔鏡手術用のトレーニング器具。
世界的な医療機器メーカーにも採用されている。
現在は模擬臓器の開発にも取り組んでいる。
ただ、最初から医療機器メーカーだったわけではない。
もともとは、寿技研という町工場だった。
ミニ四駆ブームに乗った町工場
かつての主力商品は、ミニ四駆向けのスポンジタイヤ。
当時はブームに乗り、売上も大きく伸びた。
機械部品や金型を作る技術もあり、
「なんでも作れる町工場」
として知られていた。
しかし、ブームは突然終わる。
前月まで大きな受注があったのに、翌月にはほとんど注文がなくなる。
さらに、工場火災も起きた。
仕事も社屋も失う。
かなり厳しい状況だった。
「黙って作っていればいい」と言われた
社長は、取引先に相談した。
「販路拡大を一緒に考えられないか」
しかし返ってきたのは、厳しい言葉だった。
「それはうちで考える」
「お宅らは黙って作っていればいい」
この一言は重い。
下請けは、作る力はあっても、価格決定権を持ちにくい。
顧客接点も持ちにくい。
販路も握れない。
つまり、仕事がなくなった時に、自分で次の売上を作れない。
「作れる」だけでは生き残れない
ここで社長は気づく。
何でも作れる。
技術もある。
でも、売る力がない。
これは、多くの中小製造業に共通する課題だと思う。
そこで、売上の大きな取引先と距離を置き、自社製品で勝負することを決めた。
ただし、ここからが簡単ではない。
自社製品は、すぐには売れない
自社製品に挑戦する。
しかし、なかなか売れない。
作れることと、売れることは違う。
そんな時、医療機器メーカーの知人から相談を受ける。
「練習用の内視鏡は高すぎる。もっと安く作れないか」
これが転機になった。
ネットでは売れなかった
内視鏡トレーニング機器を作った。
しかし、ネットで売っても反応は薄かった。
ここも重要だ。
良い商品でも、売る場所を間違えると売れない。
ところが、医療機器展示会に出展すると状況が一変する。
医療従事者が、3日間ひっきりなしに訪れた。
つまり、価値がなかったのではない。
価値が伝わる場所に出ていなかった。
売上は伸びた。でも、また壁にぶつかる
展示会をきっかけに、売上は伸びた。
しかし、3年目になると伸びが鈍化する。
理由はシンプルだ。
良いトレーニング機器は壊れない。
壊れないから、買い替えが起きない。
つまり、売り切り型の製品では、売上が続かない。
ここで、社長は展示会の別ブースを見て気づく。
消耗品を売っている会社は、強い。
模擬臓器という答え
そこで着目したのが、模擬臓器だった。
手術練習で使うため、消耗する。
消耗するから、継続的に売れる。
しかも、手術の種類や練習内容に応じて、複数の種類が必要になる。
これは、売り切りではなく、継続収益を作りやすい商品だ。
この発想はかなり大きい。
こんにゃくメーカーとの出会い
模擬臓器を作るために、社長は別分野の技術に目を向けた。
それが、こんにゃくメーカーだった。
模擬臓器とこんにゃく。
一見、関係なさそうに見える。
しかし、柔らかさ、弾力、質感という点では、通じるものがある。
試作品には2年かかった。
そして販売にこぎつけた。
クラウドファンディングで資金調達
資金調達にも工夫があった。
クラウドファンディングを活用し、大きな資金を集めた。
さらに、模擬臓器づくりではヨーロッパ特許も取得。
海外市場への展開可能性も見えてきた。
町工場から、医療トレーニング分野のメーカーへ。
かなり大きな転換である。
この会社が変えたもの
この会社が変えたのは、商品だけではない。
儲け方そのものを変えた。
以前は、
- 下請け
- 売り切り
- 価格決定権が弱い
- 顧客接点が薄い
という構造だった。
しかし現在は、
- 医療分野に特化
- 自社製品化
- 法人直販
- 消耗品による継続収益
- 海外展開の可能性
へ変わった。
ここが本質だ。
「良い製品」だけでは足りない
この会社から学べることは明確だ。
良い製品を作るだけでは、事業は安定しない。
重要なのは、
- 継続的に使われるか
- 消耗するか
- 定期的に買われるか
- 上流の開発段階から入り込めるか
まで設計することだ。
つまり、
何を作るかではなく、どう継続的に収益化するか。
ここが事業の分岐点になる。
今後の課題は供給制約
もちろん、今後の課題もある。
特に大きいのは、需要が増えた時の供給体制だ。
模擬臓器は、簡単な量産品ではない。
品質再現性、素材調達、成形ノウハウ、量産時の品質維持が重要になる。
需要が増えるほど、ここがボトルネックになる可能性がある。
だから、
設計は自社で握り、製造は信頼できるパートナーと分担する
という体制づくりが重要になる。
試作品開発サービスも重要になる
もう一つの方向性は、試作品開発サービスだ。
単なる受託開発ではない。
医療機器メーカーの開発初期に入り込むことができれば、仕様決定前から関与できる。
これは強い。
なぜなら、後工程だけを請けるよりも、価格決定力が上がるからだ。
さらに、試作品から完成品、消耗品販売へつながる可能性もある。
つまり、上流に入ることが、高粗利化につながる。
最後に
コトブキメディカルの面白さは、町工場が医療機器メーカーになったことだけではない。
本当に面白いのは、
下請け構造から抜け出し、継続して売れる構造を作ったこと
だ。
作れるだけでは、生き残れない。
売れるだけでも、安定しない。
継続して使われる構造を作る。
そこまでできて、初めて事業は強くなる。
下請けから抜け出したい中小企業にとって、かなり示唆のある事例だと思う。

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