「そんなもの、今さら誰が買うんですか?」
もし銀行員にそう言われたら、あなたならどうするだろう。
しかも、その商品は100年以上前から存在する日本の伝統的な作業着。
市場は縮小。
職人は高齢化。
後継者はいない。
普通に考えれば、未来は明るくない。
しかし、この会社は違った。
今回紹介するのは、前掛けメーカー「エニシング」。
消えゆく伝統産業を世界30カ国へ広げた会社である。
消えかけていた前掛け
前掛けは日本古来の作業着だ。
厚い生地で身体を守り、腰を安定させる。
昔は酒屋や米屋、職人などが当たり前のように使っていた。
しかし時代は変わった。
安価な作業着が普及し、前掛け産業は衰退。
作り手も減り続けた。
気づけば産地そのものが消えかけていた。
「残したい」という思い
エニシングは、もともと企画販売会社だった。
最初はTシャツを販売していた。
その中で前掛けもネット販売してみたところ、予想以上の反響があった。
「これは面白い」
そう思った経営者は、製造元を探し始める。
しかし、そこで現実を知る。
作れる人がいない。
ようやく見つけた職人も、
「70歳になったら辞める」
と言う。
このままでは、前掛けそのものが消えてしまう。
経営者は決断する。
織機ごと引き継ぐことを。
銀行からの厳しい言葉
しかし、周囲の反応は冷たかった。
特に銀行は厳しかった。
「読みが甘すぎる」
「経営者失格だ」
そう言われたという。
当然だろう。
- 100年前の織機
- 職人不在
- 市場縮小
- 製造ノウハウの継承問題
数字だけ見れば、無謀な挑戦だった。
経営者自身も眠れない日々を過ごした。
食欲もなくなり、体重は数か月で大きく減ったという。
それでも諦めなかった。
100年前の織機が令和に動き出す
エニシングの信念は、
先人の知恵 × あくなき挑戦
だった。
古いから価値がないのではない。
古いからこそ価値がある。
100年前の織機が現代で動く。
そこにワクワクする人がいる。
そう信じた。
海外で評価された日本文化
アメリカ。
イギリス。
海外展示会に出展した。
すると、予想外の反応が返ってきた。
前掛けは単なる作業着ではなかった。
日本文化だった。
職人文化だった。
ストーリーだった。
今では30カ国以上で販売されている。
映画でも使用された。
国内外200社以上が採用している。
年間10万枚を販売するまでになった。
この会社の強みは何か
私はこの会社の強みを4つだと考える。
① 日本でも数少ない前掛け製造メーカー
希少性そのものが強みである。
作れる会社が少ない。
だから比較されにくい。
② ストーリーを商品に乗せられる
前掛けは単なる布ではない。
- 店の理念
- 創業者の思い
- 職人の誇り
- チームの一体感
そうした思いを可視化できる。
③ 海外販路を持つ
日本文化への関心が高まる中、すでに海外チャネルを持っていることは大きい。
④ 企画から入れる
ただ作るだけではない。
誰に何を伝えるのか。
その企画段階から関われる。
これは価格競争を避ける大きな武器になる。
今後の課題
一方で課題もある。
最大の課題は、
供給制約
だ。
需要が増えても、簡単に増産できない。
伝統産業によくある問題である。
また、現在は「前掛けそのもの」を売っている部分が大きい。
しかし本当に売っているのは、前掛けではない。
そこに込められた思い
である。
私ならこう考える
短期:生産工程の可視化と若手育成
まずは、生産工程を可視化する。
どこを継承し、どこを熟練者に残すのか。
工程ごとに整理する。
中期:用途を絞る
飲食店。
旅館。
周年記念。
チームユニフォーム。
いきなり広げすぎない。
まずは、勝てる市場に集中する。
長期:BtoC展開
ただし、大量生産ではない。
受注生産を基本とし、ブランド価値を守る。
需要が見込まれる場合も、用途やパターンを絞り、セミオーダー化していくのが現実的だと思う。
前掛けを売っているのではない
エニシングは、前掛けを売っている会社ではない。
本質的には、
人の思いを伝える道具
を作っている会社だ。
だから世界で売れる。
だから応援される。
伝統産業は、古いから残るのではない。
新しい価値を見つけ続けるから残る。
エニシングの挑戦は、そのことを教えてくれる。

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