年間6万足が2万5千足に──浅草の革靴メーカー「デコルテ」が“自社ブランド”で復活した話

勝手に企業診断

浅草には、靴づくりの町としての歴史があります。
小さな工房が点在し、職人の手が“履き心地”を作ってきた街。

革靴メーカー「デコルテ」(1983年創業、11人)も、そんな浅草に根を張る会社です。
もともとはセレクトショップ向けOEMが中心。技術と品質で評価され、仕事は回っていました。

しかし、コロナで前提が崩れます。

  • 年間6万足あった受注が2万5千足へ
  • 売上は4分の1
  • 固定費を抱えたまま生産は止まり、営業にも行けない

「このままでは終わる」

そこでデコルテが下した決断は、OEM依存からの脱却。
自社ブランドへの挑戦でした。


「2万円以上の靴は売れない」父の経験則と、息子の検証

自社ブランドと言っても、簡単ではありません。
最大の壁は“社内”にありました。

先代社長(父)は反対します。

「2万円以上の靴は売れない」

市場を知る人間の経験則として、重い言葉です。
実際、日本の革靴市場は価格競争の圧力が強く、機能や品質だけでは勝てないことも多い。

それでも社長は、こう考えた。

「売れないのではなく、価値の伝え方が悪いのではないか

そこで“検証”として選んだのがクラウドファンディング。
売れるかどうかを、理屈ではなく市場で確かめる。

  • 専門用語は使わない
  • 工程や思想は動画で見せる
  • 履き心地の理由を生活者言葉で語る

結果は予想以上。

“価格”ではなく、“価値”で買う人が確かに存在した。
そして、デコルテは「自社ブランドで勝てる可能性」を掴みます。


デコルテの強みは「履き心地」と「浅草の技術資産」

デコルテの強みは「高級靴」ではありません。
軸は明確に“履き心地”。

  • 立ち仕事の美容師
  • 接客業
  • 長時間歩く人

こういう層に刺さる「疲れにくい」「フィットする」靴を作れる。

その背景には、浅草の地場性があります。

  • 足型やサンプルの蓄積
  • OEMで培った修正ノウハウ
  • 職人の手でしか成立しない工程
  • ボロネーゼ製法など履き心地に効く技術

そして何より、クラファンで見えた“ファン層”の存在。
応援してくれる人がいることは、最大の資産です。


中小企業診断士としてのアドバイス

ここからが本題です。
デコルテは「OEM薄利構造」から「自社ブランド高付加価値」へ転換できた。これは大きい。

ただし、転換に成功した会社が次に必ずぶつかる壁があります。

それは、

  • 売れるようになるほど供給が追いつかない
  • 属人化がボトルネックになる
  • 在庫と欠品が同時に起きる
  • 広告費が膨らむ
  • “ファン”が増えるほど期待値も上がる

つまり「勝ち始めたときが一番危ない」

なので今後は、感覚ではなく“構造”で勝てる状態を作る必要があります。
以下、施策を省略せず整理します。


1)伝える:価値を“再現性ある言葉”に落とす

クラファンでうまくいったのは、価値を“生活者言葉”で語れたから。
これを一過性で終わらせず、型にします。

発信は次の柱に分けると強いです。

A. ストーリー(信頼の土台)

  • OEMで支えてきた背景(言える範囲で)
  • コロナでの危機と自社ブランド決断
  • 父との対立と「価値を伝える」挑戦
  • 職人や社長の“なぜこの靴を作るのか”

B. 機能(納得の根拠)

  • ボロネーゼ製法が履き心地に効く理由
  • 足の疲れ・むくみ・静音など、困りごと起点の説明
  • 他社との違いは“比較”で示す(数値や実験が可能なら尚良い)

C. 体験(購入の背中押し)

  • ユーザーの一日(美容師、ホテル、飲食など)
  • メンテの仕方、育て方
  • 購入後の変化(疲れにくい、痛くなりにくい等)

ここで重要なのは、“ファンコミュニティ”の設計です。

  • 着用シーン投稿→社員がコメント
  • 困りごと投稿→開発アイデア募集
  • 限定試作品のテスター制度

「買って終わり」ではなく、「一緒に育てるブランド」にすることで、広告に依存しない集客が効きます。


2)川下:D2Cは“売る”より“設計する”

自社ECは、物販サイトではなく「受注設計の入口」にするのが現実的です。

ポイントは、フルオーダーではなくセミオーダー。

入力項目例

  • 職業(立ち仕事/歩行多い/フォーマル中心)
  • 足の悩み(甲高、幅広、むくみ等)
  • 好み(紐あり/なし、素材、色)

これにより、顧客が欲しいものを“言語化”し、データとして蓄積できます。
セミオーダーは「単価を上げる」より、むしろ「返品・ミスマッチを減らす」効果が大きいです。


3)広げる:法人チャネルを“第二の収益柱”へ

デコルテが刺さる法人は明確です。

  • 美容
  • 介護
  • 医療
  • 飲食
  • ホテル/接客

理由は、評価軸が「デザイン」より「疲れにくさ」「安全」「静音」「耐久」になるから。

ここは“営業の型”を持つべきです。

  • 現場試着(体験機の貸出)
  • 現場の声→改良
  • まとめ発注
  • 定期リプレイス提案(消耗部品含む)

法人は単価が下がりやすい一方、継続契約と数量で安定します。
自社ブランドの生産計画も立てやすくなるので、事業の足腰が強くなります


4)アフターサービス:ファン育成と利益を両立する“最重要パーツ”

革靴は、買ってからが本番です。
ここをサービス化できるかが、ブランドの差になります。

  • ヒール交換
  • ケア講座
  • 有償メンテ(靴磨き、補修)
  • 履き方指導、紐の調整
  • “次に買うべきモデル”提案

ただし、サービス対象は「自社ブランド限定」に絞る。
OEM由来の工数負担を増やさないためです。


5)絞る:用途別ブランド化(法人実績が出た後)

法人の売上比率が一定に達した段階で、用途別にブランドを切る。

  • 医療向け
  • 介護向け
  • 美容向け
  • 飲食向け
  • ホテル向け

目的は2つです。

  1. 顧客に“一瞬で理解”させる
  2. 設計・材料・生産の標準化を進め、セミオーダーを回しやすくする

「少量多品種で高付加価値」でも、標準化できる部分は必ずあります
ここを設計できる会社は強いです。


6)地場産業とのパートナー育成:生産を増やす前に“品質基準”を作る

ここが抜けると、将来詰みます。

自社ブランドが伸びると、生産力が追いつかなくなります。
しかし、外注先を増やせば品質がブレる。

だから必要なのは「パートナー育成」です。

  • 品質基準書(検査項目、許容差、NG例)
  • 工程ごとの“要点”の可視化(動画でも良い)
  • 重要工程は自社、補助工程は協力会社など役割分担
  • 検査の二重化(協力会社+自社)
  • 月次で品質レビュー会(返品理由の共有)

浅草には同業・関連工程が存在する。これは、地方にはない強みです。
地場産業を“単なる外注先”ではなく“育てたパートナー”にできれば、デコルテは長期的に勝てます。


7)災害用の商品開発:なぜ「将来構想」として意味があるのか

災害用は「売上拡大」目的というより、3つの意味があります。

  1. 社会課題に紐づけたブランド価値の強化
  2. 法人・行政との接点を作れる(新チャネル)
  3. “機能の証明”として分かりやすい(耐久・安全・疲労軽減)

たとえば想定シーンは、

  • 避難所運営スタッフ/ボランティア
  • 医療・介護の応援要員
  • 復旧工事・物流の現場支援
  • 長時間立ち仕事、移動が多い環境

商品化の方向性は「特殊な靴を新たに作る」より、既存の履き心地技術をベースに“用途を明確化”するほうが現実的です。

展開方法も直販ではなく、

  • 自治体や企業との連携
  • 災害備蓄の法人需要(採用されれば継続性がある)
  • 助成金・補助金の対象になり得るテーマの検討

ただし、これは優先順位としては後です。
先に供給体制とブランド基盤を固めないと回りません。


8)海外:やるなら「直販しない」を徹底

海外は可能性はあるが、最も危険な領域です。

  • 返品対応
  • サイズ問題
  • 配送遅延
  • 税・規制
  • 顧客対応コスト

小規模企業が越境ECで直販すると、事故りやすい。

推奨は、

  • 商社
  • 代理店
  • OEM
  • 日系企業ルート

さらに、海外は「売上目的」より“海外実績でブランド価値を上げる”方が合理的です。


9)組織改革:属人化を“技術の強み”のまま維持する

職人技は強みですが、経営リスクでもあります。

やるべきことは明確。

  • 動画マニュアル化
  • 若手の早期参画
  • 工程ごとの勘所の言語化
  • 「誰ができるか」スキルマップ化
  • 教育計画(半年・1年・2年)

職人技を壊すのではなく、残すための標準化です。


10)IT化:やること/やらないことを明確に

現時点で優先度が高いのはここです。

やるべき

  • 在庫管理(パーツ含む)
  • 不良在庫の可視化
  • 欠品原因の可視化
  • 受注と生産の簡易な連動(全部をERPにしない)

やらないほうがいい

  • 職人工程まで無理に生産管理システム化
  • 現場を縛る入力地獄

ITは現場のために使う。
現場の自由度を奪うITは、逆に品質を落とします。


11)KPI:なぜこのKPIを置くのか(背景込みで説明)

課題は「在庫過多」「利益が出にくい」「属人性」です。
この3つに対して、KPIは“症状”ではなく“原因”を追う必要があります。

  • 不良率:手作業・品質が価値。品質ブレはブランド毀損とコスト増の両方を招くため。
  • 在庫回転率(パーツ含む):小規模はキャッシュが命。在庫が滞留すると資金繰りと新作投資が止まる。
  • 欠品率(機会損失):D2Cや法人が伸びるほど、欠品は信頼を失い顧客を逃す。回転率とセットで見る。
  • 利益率(粗利率/営業利益率):OEMから脱却する目的は付加価値化。価格を上げても利益が残らなければ意味がない。
  • リピーター率:広告依存を脱し、LTVを上げる鍵。ファンビジネスが成立しているかの指標。
  • 商品開発数(または改良数):ファンの声を取り込み改善できているか。差別化の源泉が回っているか。
  • 育成率(多能工化・技能者数):属人化を解消し、生産力を上げる。将来の供給制約を外すための指標。

法人向けが伸びた後は、法人比率、業界別売上構成、法人継続契約数も加えると、投資判断がぶれません。


12)優先順位(再掲、より明確に)

  1. 生産体制強化(育成+パートナー育成+在庫・欠品の見える化)
  2. 伝える(価値を構造化+コミュニティ)
  3. 法人チャネル(第二の柱化)
  4. 用途別ブランド(理解と標準化)
  5. 災害用途(社会課題×法人行政ルート)
  6. 海外(直販回避、代理店・商社・OEM)

まとめ:デコルテは「価値を伝える」から次のフェーズへ

デコルテは、クラファンで「価値があれば売れる」ことを証明しました。
次に必要なのは、「売れても崩れない」構造です。

  • 供給できる体制
  • 品質がぶれない仕組み
  • ファンが増えても期待に応えられる基盤
  • 地場産業を巻き込んだ生産力
  • 災害用途など社会課題と結びつくブランド価値

この順番で積み上げれば、11人でも勝てます。

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