靴に3万円。
人によっては高いと感じる。
実際、世の中には数千円の靴もたくさんある。
それなのに、
予約は3か月待ち。
リピート率は8割。
そんな靴メーカーが東京・台東区にある。
今回紹介するのは、オーダーメイド靴メーカーのアクストだ。
最初から靴メーカーではなかった
実はこの会社、最初から靴を作っていたわけではない。
もともとは靴のソール、つまり靴底を作る資材メーカーだった。
ところが、
「自分たちでも靴を作ろう」
と考えた。
しかし業界からは、
「材料屋が靴なんか作るな」
と言われる。
当然ながら反発も大きかった。
その影響で、本業のソール事業の売上は減少する。
OEMは忙しい。でも儲からない
その後、大手アパレルや靴販売店向けのOEM事業を行う。
仕事はある。
でも利益が残らない。
なぜか。
靴は工程が多い。
- 裁断
- 製甲
- 底付け
- 仕上げ
人手もかかる。
つまり、
人件費産業
なのだ。
OEMでは価格決定権も弱い。
忙しいのに儲からない。
典型的な下請け構造だった。
この会社は何を売る会社なのか
ここで社長は考える。
「靴を売っているのだろうか?」
違った。
本当に売りたいのは、
快適に歩ける人生
だった。
足と靴と歩行は三位一体
アクストは少し変わっている。
店舗を見ても、普通の靴屋には見えない。
社長はこう考える。
足と靴と歩行は三位一体
だから、靴だけ作っても意味がない。
足を測る
まず足を徹底的に測る。
片足だけでも10か所以上。
ここまで細かく見る。
歩き方を見る
さらに歩き方を見る。
特に重視するのは、
非荷重
歩いている時、足が地面から離れる瞬間だ。
靴を履くトレーニングをする
そして靴トレ。
靴は買った瞬間に完成ではない。
体に馴染むまで1か月ほどかかる。
だから履き方も教える。
ここまでやる。
だから高単価でも選ばれる。
なぜリピート率8割なのか
多くの靴屋は、靴を売ったら終わりだ。
でもアクストは違う。
徹底したカルテを作る。
- 足の状態
- 歩き方
- 過去の購入履歴
- 修理履歴
- 体の変化
これらを蓄積する。
だから次回来店時、より精度の高い提案ができる。
結果として、リピート率8割という驚異的な数字につながっている。
この会社の本当の強み
表面的に見ると、職人技が強み。
オーダーメイドが強み。
そう見える。
もちろんそれも正しい。
でも本質は少し違う。
この会社の強みは、
足の悩みを解決する仕組み
を持っていることだ。
- 職人が靴を作る
- カルテで顧客を理解する
- 靴トレで履き方を改善する
- カウンセリングで体の変化を見る
これらがつながっている。
だから競合しにくい。
今後の課題
ただし、課題も明確だ。
人気になればなるほど、供給制約が起きる。
職人が足りない
オーダーメイドは量産できない。
靴トレできる人も少ない
予約が埋まり、機会ロスにつながる。
属人化する
特定の人しか対応できない状態になる。
つまり、需要が増えるほど苦しくなる構造がある。
今後の戦略
だから重要なのは、単に売上を増やすことではない。
むしろ、
再現性を作ること
だと思う。
短期:職人技を分解する
どこが職人にしかできないのか。
どこが若手に任せられるのか。
まずは工程を整理する。
熟練者に依存する工程と、そうでない工程を切り分ける。
中期:セミオーダー化する
過去の膨大なカルテを活用する。
似た足型や悩みを分類する。
すべてをゼロから作らない。
オーダーメイドの価値を残しつつ、再現性を高める。
長期:法人展開する
美容師。
介護職。
接客業。
立ち仕事の多い業界へ。
足元から健康を支援するサービス
として展開する。
売って終わりではなく、履き心地を確認し、改善提案まで行う。
ここに安定収益の可能性がある。
インバウンド向け商品はアンテナ商品
着物をイメージした和装の靴も面白い。
ただし、いきなり海外展開を主軸にするのは危ない。
まずは、
自社の製造技術を表現するアンテナ商品
として位置づけるのが現実的だと思う。
最後に
アクストは靴メーカーではない。
本質的には、
歩くことを支援する会社
だと思う。
OEMで苦しみながらも、価格競争から抜け出し、高単価な直販モデルへ転換した。
そして今は、靴そのものではなく、
歩く体験
を売っている。
中小企業の経営を見ていると、
何を売るかより、本当は何を提供している会社なのか
を再定義できるかどうかが、利益構造を変える分岐点なのだと感じる。

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