今回取り上げるのは、石川県の自動車リサイクル会社、会宝産業。
創業は1969年。従業員は約70名。
現在は世界90カ国と取引する中古自動車部品企業として知られている。
しかし、2代目社長が就任した当初、会社の状況は決して順調ではなかった。
売上は6億円減少。会社は赤字に転落してしまう。
原因は、設備でも市場でもなかった。営業の姿勢だった。
「売りたいものを売る」営業
社長は当時、大きなプレッシャーを感じていた。
父を超えなければならない。結果を出さなければならない。
その思いが強くなるほど、営業のやり方が変わっていった。
顧客が欲しいものではなく、会社が売りたいものを売る。
つまり、在庫都合の営業になってしまったのである。
当然、顧客との距離は広がる。「自分たちのことを考えてくれていない」と言われることも増えていった。
そんなとき、社長は父の経営ノートを見つける。
そこに書かれていた言葉は、とてもシンプルだった。
「お客様の喜びを自分の喜びにする」
この言葉をきっかけに、営業のやり方を根本から変えることになる。
営業プロセスの転換
それまでの流れはこうだった。
解体
↓
部品販売
つまり、解体して出てきた部品を売る。
しかし、これを逆にした。
顧客ニーズ確認
↓
解体
↓
販売
顧客が欲しい部品を先に聞く。
もし在庫がなければ、オークションなどで探す。
つまり、「売れる部品」ではなく「欲しい部品」を売る営業プロセスに変えたのである。
この変化によって会社は大きく成長する。
年間解体台数は12,000台。取引は世界90カ国に広がった。
売上も30億円伸ばすことに成功する。
営業の発想を変えただけで、ビジネスのスケールが大きく変わったのである。
この会社の事業構造
この会社はよく「環境リサイクル企業」として紹介される。
もちろん、それは間違いではない。
しかし事業構造で見ると、本質は少し違う。
この会社のビジネスは、
事故車仕入
↓
解体
↓
部品在庫化
↓
世界販売
という流れで成り立っている。
つまり、中古自動車部品の流通ビジネスである。
言い換えると、在庫 × 世界流通のビジネスだ。
ここがこの会社の本質だと思う。
中古部品ビジネスの難しさ
さらに、このビジネスには特徴がある。
中古部品ビジネスは、
仕入れ
=事故車
需要
=故障・事故
という構造になっている。
つまり、
供給も偶然
需要も偶然
なのである。
仕入れたい車が必ず手に入るわけではない。売りたい部品が必ず売れるわけでもない。
この不確実な需給をどう回すか。ここに、このビジネスの難しさと面白さがある。
この会社の強み
では、なぜこの会社は世界で戦えるのか。
理由は2つある。
1.リサイクル技術
部品を外して売るだけではない。
- 取り外し技術
- 品質チェック
- 状態の見える化
こうした仕組みによって、「品質保証付き中古部品」として販売できる。
中古部品ビジネスの最大の問題は品質への不安だからだ。そこを解決している。
2.世界ネットワーク
年間12,000台の解体実績。90カ国との取引。JICAとの連携。
この実績が、取引の信頼性を高めている。
戦略を考える
この構造を踏まえると、戦略はこう整理できる。
短期
まず必要なのは、採算の可視化。
部品別、顧客別の採算を見える化する。
その上で、
- 高粗利部品(EV、大型車)
- 高需要市場(東南アジア)
への集中を進める。
さらに、解体工程の標準化によって生産性を上げる。
中期
中古部品ビジネスの弱点は、需要が不安定という点だ。
事故や故障に依存するため、需要が読みにくい。
そこで、定期需要のある商品を強化する。
例えば、
- 消耗品
- 修理部品
- ワイパー
などである。
法人向けサービスとして継続的な取引を増やすことで、需要の安定化を図る。
長期
長期戦略は明確だ。
リサイクル技術の海外展開である。
実際にこの会社は、
- ブラジルに研修施設
- JICAとの連携
などを進めている。
つまり、
中古部品販売
+
リサイクル技術輸出
という形になる。
最後に
戦略を考えるとき、私はいつもこう考える。
この会社は何の会社なのか。
環境企業なのか。メーカーなのか。流通企業なのか。
この定義を間違えると、戦略もKPIツリーもすべてずれてしまう。
逆に言えば、事業構造が見えた瞬間、戦略はかなりクリアになる。
会宝産業は、そのことをよく教えてくれるケースだと思う。

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