1970年創業、従業員280人。
金属加工メーカーの松本興産は、車のエアコンやカメラなどの精密部品を製造する企業です。
同社の強みは、オンリーワンの精密切削技術。わずか数ミクロン単位のズレも許されない製品を加工できる技術力は、業界でも高く評価されています。
しかし、この会社の魅力は「技術力」だけではありません。
経営者自身の変化をきっかけに、組織が大きく生まれ変わった点にあります。
経営者の決意:頑張る経営から“楽しく働く経営”へ
かつての社長は、「自分が頑張らなければ会社が回らない」と思い込み、誰よりも働き、誰よりも厳しく指導していました。
しかし、その頑張りが空回りし、現場との間に溝が生まれていったのです。
そんな中で、「頑張ることを手放す」という決断をしました。
一人で背負うのではなく、社員と一緒に“楽しみながら働く”経営へと舵を切ったのです。
従業員全員に性格診断や才能分析のテストを実施し、やる気と適性を生かした仕事の割り振りを行いました。
その結果、職場には「自分らしく働ける雰囲気」が広がり、組織全体の一体感が増していきました。
ただ、ここに至るまでには何年もの長い期間を要したのだと思います。少しずつ少しずつが基本なのでしょう。
“風船会計”で現場が変わる
松本興産のもう一つの特徴が、「風船会計」と呼ばれる教育プログラムです。
利益やコストの構造を風船の膨らみ方で可視化し、現場の従業員にも収益の仕組みを直感的に理解してもらう。
この仕組みを自社だけでなく他社にも提供し、経営教育としても展開しています。
「経営は特別な人だけのものではない」そうした社長の想いが、会社の文化として根づいているのです。
IT化:70本のアプリが支える現場DX
松本興産では、業務効率化のためのアプリをすべて自社開発しています。
検査報告アプリ、設備状態の監視アプリ、社内の進捗共有ツールなど、その数はなんと70種類以上。
デジタルを“自分たちの言葉で使いこなす”姿勢が、同社の大きな強みです。
診断士としての視点:次の成長のカギは「IT化」「伝える」「広げる」「コラボ」
IT化:現場の知恵をIoTとAIで磨く
次のステップとして、IoTを組み込んだ治具の開発が期待できます。
センサーで振動や温度を検知し、異常を自動で通知する仕組みを導入すれば、不良品発生を未然に防ぐことができます。
また、画像認識技術を用いた不良判別システムや、各工程の作業時間・要員データの収集により、ボトルネックの特定・改善も可能になります。
“人の勘”に頼っていた部分をデータで裏づけることで、さらに高精度な生産性改革が実現できるでしょう。
伝える:技術力を「見える化」する発信
松本興産の技術力は世界に通じます。だからこそ、発信方法を磨く価値があります。
SNSやホームページでは、加工精度や生産実績を数字やエビデンスで示すことで信頼性を高められます。
また、「工場見学(オープンファクトリー)」を開催し、地域の人々や学生にものづくりの現場を見てもらうことも、ブランディングに効果的です。
“見える技術”が企業の信用をつくる時代です。
広げる:自社開発アプリを外販へ
70本におよぶ自社開発アプリは、他社にとっても価値ある資産です。
今後はそれらをDX支援サービスとしてSaaS化(サブスクモデル)し、外販していくことが考えられます。
実際に現場で使われてきた“現場発のDX”は、他の製造業にも刺さります。
この経験を活かし、「製造業務向けDXコンサルサービス」もよいでしょう。
「自社の効率化」から「他社の改革支援」へ。DXの出口戦略が見えてくるでしょう。
コラボ:DXを地域に広げる仕組みづくり
松本興産のような実践企業が中心となり、地域の製造業と連携して「製造業DXコミュニティ」を立ち上げるのも有効です。
SNSを活用して、ノーコード開発の教育やワークショップを開催。
設計も含めた技術力が高いのであれば、「設計から加工までの一貫生産」を売りにすることで、地域全体の競争力が底上げされます。
おわりに
「自分が頑張らなくては」という思いを手放したことで、松本興産は“人が輝く会社”へと変わりました。
社員の個性を尊重し、現場の声を信じ、楽しみながら仕事に向き合う文化が根づいたのです。
そしてその延長線上に、技術力と人間力が融合した“次世代の製造業モデル”が見えてきています。
松本興産の歩みは、まさに“技術と人の調和”で未来を切り拓く物語です。


コメント