技術は、説明するより使ってもらったほうが早い。サイエンスに学ぶ「体験から市場をつくる」方法

勝手に企業診断

どんなに優れた技術があっても、その価値がお客様に伝わらなければ売れない。

これは、技術力のある企業ほど抱えやすい悩みではないだろうか。

開発者からすれば、

「こんなに細かい泡が出る」

「こんなに汚れが落ちる」

「こんな高度な技術が入っている」

と説明したくなる。

しかし、顧客からすると、

「それで、私に何がいいの?」

で終わってしまう。

では、説明しても伝わりにくい技術を、どう売ればいいのか。

一つの答えが、

「まず、使ってもらう」

ことである。

体験して価値を実感してもらう。

その体験から生まれた困りごとや感想を拾う。

そこから新しい用途を見つける。

そして、その用途に合った商品を作る。

つまり、

技術 → 体験 → 顧客の声 → 用途発見 → 商品化

という循環である。

今回紹介するサイエンスは、ファインバブルという技術を、この循環によって大きな市場へ育ててきた企業である。

「小さな泡」が、大きな市場を作った

サイエンスは大阪の浴槽機器メーカーである。

同社を代表する技術が、微細な泡を発生させるファインバブルだ。

泡はサイズによって、

ミリバブル。

マイクロバブル。

ウルトラファインバブル。

などに分類される。

同社では、用途に合わせてマイクロバブルやウルトラファインバブルを活用する。

微細な泡によって皮脂などの汚れを浮かせ、強くこすらなくても洗いやすくする。

言葉にすると、それだけである。

しかし、この技術から生まれたシャワーヘッドは大ヒットした。

年間10万本でもヒットと言われる市場で、発売当初から大きく販売を伸ばし、累計販売数は175万本に達したという。

なぜ、これほどまでに広がったのか。

技術だけが理由ではない。

むしろ面白いのは、

「技術をどう伝えたか」

である。

最初は、説明しても分かってもらえなかった

ファインバブル開発のきっかけの一つは、家族の肌の悩みだった。

さらに造船業などの顧客から、

「機械の手が届かない狭い場所を洗いたい」

という相談もあった。

強くこすらずに洗える。

狭い場所にも届く。

石鹸をたくさん使わなくてもよい。

介護現場なら、身体を大きく動かさずに洗うこともできる。

開発側からすれば、

「これは絶対に価値がある」

と思う。

ところが、説明してもなかなか理解してもらえない。

ここで普通なら、

パンフレットを詳しくする。

営業トークを磨く。

機能をもっと細かく説明する。

という方向へ行きそうである。

サイエンスは違った。

たどり着いた答えは、

「説明するより、使ってもらったほうが早い」

だった。

100カ所以上の体験施設をつくった

現在、商品を体験できる場所は100カ所以上あるという。

これは単なるショールームではない。

私は、ここがこの会社の非常に重要な経営資産だと思う。

ファインバブルという技術は、文章だけで理解するより、

実際に使って、

「確かに違う」

と感じてもらったほうが圧倒的に早い。

つまり、商品を売る前に、

「価値を理解するハードル」を下げた。

この体験戦略が功を奏し、マンションへの導入なども進んでいった。

しかし、本当に面白いのはここからである。

体験施設は、商品を売る場所だけではなかった。

次の商品を見つける場所にもなった。

女性の一言から、次の商品が生まれた

商品利用者へアンケートを取ると、女性からある声が多く寄せられた。

「顔や髪にも使いたい」

この声が、ウルトラファインバブルを活用した商品開発のきっかけの一つになった。

さらに、

「浴槽設備そのものを導入するのは難しい」

という家庭でも使えるように、

シャワーヘッドを交換するだけ

という形の商品へ発展した。

ここが非常に重要である。

企業側だけで考えていたら、

「もっと高性能な浴槽設備を作ろう」

となっていたかもしれない。

しかし顧客の声を聞いたことで、

「顔に使いたい」

「髪に使いたい」

「もっと簡単に導入したい」

という新しい用途が見えた。

つまり、

技術から商品を考えたのではなく、顧客の使い方から商品を考え直した。

これが、大きな市場を生み出した。

同じ泡でも、用途が変われば商品が変わる

ファインバブル技術の面白いところは、用途が非常に広いことである。

家庭用シャワーだけではない。

介護。

医療。

防火服の洗浄。

災害時の移動式入浴設備。

そして現在では、宇宙空間で少量の水でも身体を洗える「宇宙シャワー」の開発にも挑戦している。

技術は同じでも、

「誰の、どんな困りごとを解決するか」

によって商品は変わる。

これは、以前分析したハル・インダストリにも通じる。

技術を「機能」で売るのではなく、

「用途」に翻訳する。

サイエンスは、その翻訳を「体験」を通じて行っている会社だと私は感じる。

万博の「未来人間洗濯機」も、巨大な体験装置なのかもしれない

大阪・関西万博に登場した「未来人間洗濯機」も象徴的である。

首から下ではマイクロバブル。

首から上ではウルトラファインバブル。

泡の特性を使い分け、人を洗うという未来の入浴体験を提示する。

一見すると、かなり派手な商品である。

しかし、この会社のこれまでを考えると筋が通っている。

ファインバブルについて長々と説明するより、

「こんなことまでできるのか」

と体験・想像してもらったほうが早い。

つまり、「未来人間洗濯機」も単なる話題づくりではなく、

技術の可能性そのものを体験させる巨大なショールーム

と捉えることもできる。

サイエンスの構造はどう変わったのか

この会社の変化を整理すると、成長の理由が見えやすい。

製品

一般的なシャワー

↓

微細な泡を発生させるファインバブル商品

単なる「水を出す道具」から、

こすらずに洗うという新しい価値

を持った商品へ変化した。

売り方

商品を説明する

↓

まず体験してもらう

説明型営業から、体験型営業へ変わった。

ターゲット

一般消費者・事業者

↓

肌に悩みのある人、女性、介護現場、医療現場、狭い場所を洗いたい事業者など

技術起点ではなく、困りごと起点で市場を細分化した。

顧客との関係

売って終わり

↓

体験、アンケート、交換、追加提案へ

顧客との接点そのものが、次の商品開発につながるようになった。

私が考える最大の強みは「ファインバブル技術」だけではない

もちろん、微細な泡を作る技術は大きな強みである。

しかし私は、それだけではないと思う。

むしろ重要なのは、

技術 → 体験 → 顧客の声 → 用途 → 商品

という循環を実際に回してきたことだ。

加えて、

自社で商品を開発し、

量産は協力会社と連携する。

つまり、自社の経営資源を開発へ集中しながら、需要増にも対応しやすい生産構造を持っている。

まとめると、

技術。

体験施設。

顧客の声。

用途開発。

外部を活用した量産体制。

この組み合わせこそ、サイエンス独自の「生態系」ではないかと思う。

次の課題は「偶然の気づき」を仕組みに変えること

一方で、さらに成長するための課題もある。

女性からの、

「顔や髪にも使いたい」

という声は、大きな商品につながった。

しかし、次のヒット商品も同じように偶然見つかるとは限らない。

100カ所以上の体験施設。

購入者アンケート。

営業現場。

介護施設。

医療施設。

マンション。

さまざまな場所に、顧客の声が存在する。

これを単なる「感想」で終わらせるのはもったいない。

顧客の声そのものを、次の商品を生み出すデータ資産にする。

ここに、まだ大きな可能性があると思う。

短期:「体験」をデータに変える

私なら、まず100カ所以上ある体験施設を活用する。

例えば利用者について、

年齢。

性別。

利用目的。

どんなことに困っているのか。

どこを洗いたいのか。

利用前に期待していたこと。

実際に体験して感じたこと。

「こんな使い方ができないか」という要望。

などを蓄積する。

そして顧客の声を、

「肌」

「髪」

「介護」

「医療」

「清掃」

「産業洗浄」

などの用途別に分類する。

ここへ、

売上。

粗利。

導入件数。

継続利用。

などを重ねる。

すると、

単に「声が多い用途」ではなく、

「ニーズが強く、事業としても有望な用途」

が見えてくる。

100カ所の体験施設は、販売拠点であると同時に、

巨大な顧客ニーズ収集網

にもなり得る。

すべてを「高収益領域に集中」させない

ただし、ここで注意したいことがある。

収益性を可視化したからといって、

「儲からない用途は全部やめる」

ではない。

新しい用途は、最初から利益が出るとは限らない。

そこで私は、

収益事業・育成事業・探索事業

の3つに分けて管理するのがよいと思う。

すでに収益を生んでいる事業は、粗利や生産性を高める。

将来性が見えてきた事業は、導入件数や採用件数を追いながら育てる。

宇宙シャワーのような未知の領域は、小さな実験を繰り返す。

この会社の強さは、用途を広げ続けてきたことでもある。

だから、

深化だけではなく、探索を止めないこと

が重要になる。

中期:用途ごとに「刺さる商品」へ変える

短期で需要の大きな用途が見えてきたら、次は商品を用途ごとに磨く。

例えば医療と介護では、同じファインバブル技術でも必要とされるものは違うはずだ。

浴槽の形。

噴出口の位置。

泡の強さ。

操作性。

設置スペース。

清掃方法。

こうした設計情報を蓄積する。

そして共通部分は標準化し、

基本設計80%+個別対応20%

のようなセミオーダー型へ近づける。

これなら顧客ごとの違いを残しながら、設計工数を減らせる。

さらに、

「介護施設向け」

「医療施設向け」

「災害対応向け」

と、顧客が自分ごととして理解できる営業資料や体験メニューを整備する。

ここでも中心に置くのは、広告ではない。

すでに100カ所以上ある「体験」という最強のアセット

である。

長期:オーダーメイドを増やすのではなく、「高収益な個別対応」を可能にする

長期では、医療や介護など、高い専門性が求められる用途で個別対応を深める余地がある。

ただし、単純にオーダーメイド案件を増やすだけでは危ない。

個別設計が増えれば、

受注が増えるほど設計者が忙しくなり、

利益率が下がる可能性があるからだ。

そこで中期までに蓄積した、

設計パターン。

過去案件。

用途。

仕様。

導入実績。

を再利用する。

その上で、本当に個別対応が必要な部分だけを設計する。

つまり、

「全部オーダーメイド」ではなく、「標準化を土台にした高付加価値な個別対応」

である。

そうすれば、設計工数を抑えながら差別化も維持できる。

そして空いた開発・設計力を、次の育成事業や探索事業へ振り向ける。

ここまでできれば、

収益事業で稼ぐ。

↓

そこで生まれた余力を新用途へ投資する。

↓

新用途を育成する。

↓

次の収益事業へ変える。

という循環が生まれる。

売った後の接点も、次の需要を見つける場所になる

さらに、シャワーヘッドやノズルなどの交換・メンテナンスも、単なるアフターサービスとして考えない。

交換時期の案内。

利用状況の確認。

困りごとの収集。

施設増設の予定。

新しい用途。

こうした情報を拾える接点にする。

特に法人では、一度導入した設備が、

施設増築。

新拠点。

設備更新。

新しい利用者ニーズ。

へ広がる可能性がある。

つまり、

売った後も「次の困りごと」を探す。

サイエンスらしいLTVの伸ばし方は、単なる定期購入ではなく、ここにあると思う。

技術の価値は、顧客が使った瞬間に完成する

サイエンスを分析して感じるのは、

技術だけでは、まだ商品は完成していない

ということである。

どれほど優れた技術でも、

顧客が価値を理解し、

実際に使い、

「これは自分の困りごとを解決してくれる」

と思って初めて商品になる。

だから、

説明する。

より、

体験してもらう。

そして体験してもらったら、そこで終わらない。

「何が良かったですか」

「他にどこで使いたいですか」

「何に困っていますか」

と聞く。

その答えから、次の商品を作る。

サイエンスの成長を一つの式にすると、

技術
× 体験
× 顧客の声
× 用途開発

になるのではないだろうか。

技術を磨くことはもちろん重要だ。

しかし、それだけでは市場は広がらない。

体験によって技術を顧客価値へ変え、顧客の声によって次の市場を見つける。

そして、その声をデータとして蓄積できれば、商品開発は偶然から仕組みへ変わっていく。

サイエンスは、

「良い技術をどう売るか」ではなく、「良い技術から、どう次々と用途を生み出すか」

を考えるうえで、とても面白い企業だと思う。

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