「消臭力が高い」だけでは売れない。ハル・インダストリに学ぶ“用途発見型”の商品開発

勝手に企業診断

優れた技術を持っていても、顧客から見れば「数ある商品の一つ」にすぎない。

これは、技術力の高い企業ほど陥りやすい悩みではないだろうか。

企業側は、

「この技術はすごい」

「この性能は他社より高い」

と考える。

しかし顧客が知りたいのは、そこではない。

「それで、自分の困りごとはどう解決するのか。」

ここである。

今回紹介するハル・インダストリは、消臭技術そのものではなく、

「どんな臭いに困っている人がいるのか」

という用途から商品を考え直すことで成長してきた企業である。


消臭は、芳香でも脱臭でもない

ハル・インダストリは1983年創業の消臭剤メーカー。

従業員は56人。

杉、ヒノキ、マツなど約10種類の樹木から成分を抽出し、独自の消臭剤を開発している。

特徴は、臭いを別の香りで覆う「芳香」とも、単に吸着する「脱臭」とも違うこと。

樹木由来の成分を活かして、臭いそのものへアプローチする。

この技術が評価され、地元ではリピーターも多い。

雑誌の消臭剤ランキングでも3年連続1位。

売上も5億円から6億円へと伸びている。

ただし、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。


技術があっても、顧客には伝わらない

以前は業務用が売上の7割を占めていた。

例えば、水産加工場。

工場の周囲を住宅に囲まれており、臭いに悩んでいた。

そこで同社の消臭剤を設置。

効果を実感してもらったことで、そこからツナ缶メーカーなどへ顧客が広がっていった。

一方で、うまくいかない市場もあった。

ホテルへの営業である。

「臭いを消せます」

と提案しても、

ホテル側からすれば、

「うちのホテルは臭うと言いたいのか」

となってしまう。

ある時には、外国人宿泊客から商品を怪しい物体と誤解されたこともあった。

つまり、

機能としては優れていても、そのままでは価値が伝わらない。

ここに大きな壁があった。


追い打ちをかけた市場変化

さらに、外部環境が大きく変わる。

健康増進法によって、パチンコ店での喫煙が制限される。

喫煙臭対策として存在していた需要が、一気に減少した。

続いてコロナ禍。

法人需要はさらに落ち込む。

それまで安定していた業務用市場に依存していたことが、一気にリスクとして表面化した。

しかし、ここで思わぬところから流れが変わる。


転機は、SNSの何気ない口コミだった

あるユーザーがSNSへ投稿した。

熱帯魚を飼っている。

その臭いについて、家族から文句を言われていた。

しかしハル・インダストリの商品を使ったところ、

「妻から文句を言われなくなった」

という内容だった。

この投稿が広がった。

興味深いのは、そこに商品の専門的な説明がほとんどないことだ。

「消臭率○%」

「樹木由来成分○種類」

という話ではない。

顧客が反応したのは、

「熱帯魚の臭いで家族に怒られなくなる」

という具体的な生活シーンだった。

技術ではなく、用途が伝わったのである。


「消臭剤」ではなく「困りごとの解決策」

この出来事は、商品の見せ方を大きく変えるヒントになった。

例えば、

「高性能消臭剤」

というだけでは、誰のための商品か分からない。

しかし、

ペット臭対策。

洗濯物の生乾き臭。

トイレ。

車内。

タバコ臭。

水産加工場。

と分ければ、一気に自分ごとになる。

顧客が欲しいのは「消臭剤」ではない。

自分が困っている臭いがなくなること。

商品を見る起点を、

機能

から

用途

へ変える。

ここがハル・インダストリの大きな転換点だったと考える。


洗濯物の臭いから、新商品が生まれた

SNSやECを通じて顧客の声が集まるようになると、

「洗濯物の臭いが気になる」

という声が多いことも分かった。

そこで洗濯用途の商品を開発。

つまり、

顧客の声 → 用途発見 → 商品開発

という流れが生まれた。

これによって売上構成も変化する。

以前は、

業務用7割、個人用3割。

現在は逆転し、

個人用7割、業務用3割。

市場環境に合わせて、会社の売り方そのものが変わったのである。


構造はどう変わったのか

ハル・インダストリの変化を整理すると、非常に分かりやすい。

チャネル

業務用中心
→ 個人向け中心

法人依存から、消費者との直接接点を持つ構造へ変化した。

商品開発

自社発想中心
→ 顧客の声から用途を発見して開発

SNSやECが、単なる販売チャネルではなく商品開発の入り口になった。

認知

「消臭」が分かりにくい
→ 具体的な利用シーンで理解される

技術用語を伝えるのではなく、

「どんな悩みが解決できるか」

を伝えるようになった。


ハル・インダストリの本当の強み

私は、この会社の強みは4つあると考える。

第一は、もちろん針葉樹由来の消臭技術。

第二は、雑誌ランキング3年連続1位というブランド認知。

第三は、地元を中心としたファンの存在。

そして最も重要なのが、

顧客の声から新しい用途を発見し、商品へ変えられること。

ここである。

技術そのものは競合に追いつかれる可能性がある。

しかし、

顧客の困りごとを継続的に拾い、

用途へ分類し、

試作品を作り、

市場へ出し、

反応を見ながら改善する。

このサイクルを会社として持てれば、それ自体が競争優位になる。


一方、今の成功はまだ「偶然」に近い

ただし、課題もある。

熱帯魚の口コミ。

洗濯物の臭いへの声。

これらは非常に良い成功事例である。

しかし、

次のヒット商品も偶然SNSで見つかることを期待してよいのか。

ここが課題になる。

必要なのは、

「口コミを見る」

ではなく、

顧客の声を商品開発へ変える一連の仕組み

である。


短期:「臭いの困りごとDB」を作る

私なら短期では、まず顧客情報を整理する。

例えば、

年齢。

家族構成。

職業。

購入商品。

利用場所。

困っていた臭い。

購入理由。

使用後の感想。

改善要望。

これらをECやSNSから収集する。

そして、

「臭いの困りごとDB」

として分類する。

例えば、

ペット。

洗濯物。

トイレ。

車。

飲食。

介護。

工場。

ホテル。

といった用途別に整理する。

さらに、

売上。

粗利。

リピート率。

問い合わせ件数。

まで紐付ける。

すると、

「声が多い用途」

だけではなく、

「困っている人が多く、なおかつ利益も残る用途」

が見える。

ここに経営資源を集中させる。


中期:「用途別ブランド」へ育てる

次に、需要の強い用途へ商品を絞る。

例えば、

「ペット用消臭剤」

だけでもまだ広い。

犬。

猫。

熱帯魚。

小動物。

それぞれ臭いの発生源も、利用場所も違う。

顧客の声から、

どんな場面で困っているのか。

どの程度の頻度で使うのか。

どのサイズが使いやすいのか。

まで掘り下げる。

そして、新商品はSNSのファンに先行利用してもらう。

感想を集める。

改良する。

その後、本格販売する。

つまり、

顧客の声 → 用途分析 → 試作 → テスト → 改良 → 商品化

という開発プロセスを標準化する。

これができれば、ヒット商品が偶然ではなくなる。


LTVは「使い切る商品」という特徴を活かす

ハル・インダストリには、LTVを伸ばしやすい特徴もある。

消臭剤は消耗品である。

つまり、効果を感じてもらえれば、継続購入につながりやすい。

ただし、

「とりあえずサブスク」

では弱い。

重要なのは、

用途ごとの交換・補充タイミングを把握すること。

例えば、

ペット用途なら何週間。

車内なら何カ月。

洗濯用途なら何回。

利用シーンごとに消費速度は違う。

その周期に合わせ、

補充時期を案内する。

関連商品を提案する。

これなら無理のないLTV向上につながる。


長期:「消臭剤メーカー」から「臭いの困りごと解決ブランド」へ

長期では、単純に商品数を増やすだけではなく、

「この臭いならハル・インダストリ」

と想起されるブランドを目指す。

そして、個人市場で培った用途別ブランドを、再び法人へ展開する。

例えば、

ペット用途であればペットホテルや動物病院。

タバコ臭ならタクシーや中古車販売。

生ゴミ臭なら飲食店。

水産臭なら食品加工場。

個人で実績のある用途を、そのまま業務用へ拡張する。

これなら現在の強みから地続きである。

さらに海外展開を考える場合も、いきなり世界へ売るのではない。

既存顧客の海外工場。

国内で取引のある企業の海外拠点。

すでに国内で成功している用途。

ここから小さく始める方が現実的である。


「技術」を売るより、「困っている瞬間」を見つける

ハル・インダストリを分析して、改めて感じることがある。

企業は、

「自社にはこんな技術があります」

と言いたくなる。

しかし、顧客は必ずしも技術を探しているわけではない。

探しているのは、

「今、自分が困っていることを解決してくれるもの」

である。

「樹木由来の高性能消臭剤」

よりも、

「熱帯魚の臭いで家族に文句を言われなくなる」

の方が圧倒的に伝わる。

「高い消臭性能」

より、

「部屋干しした洗濯物の臭いを減らしたい」

の方が顧客にとって具体的だ。

つまり、

商品開発の出発点を、技術から困りごとへ変える。

そして、その困りごとを、

顧客接点から集める。

分類する。

利益と紐付ける。

商品へ変える。

この循環を作る。

それこそが、ハル・インダストリが次の成長へ進むための最大の鍵ではないかと思う。

技術は重要である。

しかし、技術だけでは売れない。

技術 × 用途 × 顧客の困りごと。

この3つが結びついたとき、初めて顧客にとって意味のある商品になる。

ハル・インダストリは、そのことを非常に分かりやすく教えてくれる企業だと思う。

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