KPIツリーを運用していると、必ずぶつかる壁があります。
行動KPIは動いているのに、先行KPIが動かない。
この状態が続くと、現場は疲れ、会議は「件数報告」になり、KPIツリーは静かに死にます。
でも、ここでやるべきことは「行動を増やす」ではありません。
私の結論はシンプルです。
足りないのは非数値データそのものではない。
非数値データをKPIツリーに接続する“判断要因層”である。
結論:KPIツリーは5層で考える
これまで「主要KPI → 先行KPI → 行動KPI」で語ることが多かったと思います。
ただ、実務で詰まるのは必ず先行と行動の間です。
私はKPIツリーを、次の5層で捉えると腹落ちしました。
主要KPI(経営レバー)
↓
先行KPI(因果状態)
↓
決定因子(判断要因)
↓
操作レバー(量・質・仕組み)
↓
行動KPI(具体回数・担当・頻度)
ポイントはここです。
- 決定因子(判断要因):先行KPIが「なぜその数値になるか」を説明する要素群(非数値を含む)
- 操作レバー(量・質・仕組み):行動を設計するための分解フレーム
- 行動KPI:実際に測る指標(実験として回す)
小売(営業)の例:受注率が動かない理由
先行KPI:受注率
定義:受注件数 ÷ 提案件数
では、この受注率は何で決まるのか?
ここが決定因子(判断要因)です。
- 価格競争力
- 納期対応力
- 顧客本気度
これは「受注する/しない」の判断要因です。
ここまでが因果の分解。
次に「どう動かすか」を分解する
例えば「価格競争力」を上げたい。
ここで初めて、操作レバー(量・質・仕組み)に落とします。
- 量:見積提示回数
- 質:競合対比資料精度、原価把握精度
- 仕組み:見積標準フォーマット化、値引きルール明確化
そして、これを数値で測る形にしたものが行動KPIです。
価格は決定因子。量・質・仕組みは行動設計フレーム。行動KPIは測定指標。
ここを混ぜるとKPIは壊れます。
食品卸の例:粗利率を動かすための因果を揃える
主要KPI:粗利率
先行KPI:リピート率
リピート率 定義:当月再注文顧客数 ÷ 前月購入顧客数
第1段階:決定因子(なぜリピートするか)
- 価格競争力
- 品揃え適合度(SKU適合)
- 納品安定性(欠品率)
- 担当営業の接触頻度
ここまでが「因果の分解」。
第2段階:操作レバー(どう動かすか)
例えば「欠品率」を改善したい。
- 量:発注見直し回数、安全在庫設定SKU数
- 質:需要予測精度、在庫差異率
- 仕組み:自動発注設定比率、在庫アラート活用率
この操作レバーを「実際に測る」指標が行動KPIです。
非数値データの位置づけ:そのままでは使えない
ここが今回の核です。
前提:
- 行動KPI:提案件数 ↑
- 先行KPI:受注率 → 横ばい
つまり「量は増えているのに、率が上がらない」。
このとき多くの現場は「もっと提案しよう」と言います。
違います。
問題は、決定因子(判断要因)が変わっていないこと。
商談メモ、失注理由、会話ログ。
これら非数値データは、そのままだとKPIツリーに接続できません。
必ず「決定因子カテゴリ」にマッピングして初めて、構造データになります。
- 価格
- 納期
- 信頼
- 顧客本気度
- 競合状況
いま何が起きているか(構造で説明する)
主要KPI:粗利(または売上)
↓
先行KPI:受注率
↓
決定因子:価格・納期・信頼・競合状況
↓
行動KPI:提案件数、事前ヒアリング回数 など
行動KPI(量)は回している。
しかし判断要因が改善していない。
だから受注率が動かない。
つまり、疑うべきは「行動量」ではなく、
判断要因(決定因子)を変えられているかです。
生成AIの役割:決定因子層の再特定
ここでの生成AIの使いどころは「施策の答え出し」ではありません。
役割は一つ。
先行KPIの下にある“決定因子(判断要因)”を再発見・再定義すること。
実務の流れはこうなります。
- 行動KPIが増えた
- 先行KPIが動かない
- 非数値ログを分類し、決定因子を再整理する
- 真の因果(効く要因)を特定する
- 行動KPIを「継続・条件変更・撤退」の三択で更新する
具体例:失注理由が「価格」ではなかった
もしAIの整理で、失注理由の60%が「価格」ではなく「予算未確定」だったなら。
価格交渉回数を増やすのは無意味になります。
必要なのは例えばこういうKPIです。
- 決裁者同席率
- 予算確定前案件除外率
- 案件ランクA比率
決定因子が変われば、行動KPIも変わる。
これが、行動KPIを「評価」ではなく「判断」に戻すコツです。
まとめ
今回の結論をもう一度まとめます。
主要KPI(経営が変えたい結果)
↓
先行KPI(因果として効く状態)
↓
決定因子(判断要因:なぜそうなるか/非数値含む)
↓
操作レバー(量・質・仕組み)
↓
行動KPI(実験として回す指標)
KPIツリーが止まるのは、
行動を疑っているのに、判断要因を疑っていないときです。
非数値データは、単なるメモではありません。
決定因子にマッピングした瞬間、KPIツリーの一部になります。
ここまで揃えると、KPIツリーは一段深くなります。
そして「データドリブン」は、ようやく現場の言葉で回り始めます。


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