金杉建設に学ぶ土木DX|談合体質を超えたICT戦略と中小企業診断士の打ち手

勝手に企業診断

土木建設業界と聞くと、談合、閉鎖的な人間関係、変化に慎重な業界体質——そんなイメージを持つ人は多いはずです。正直、DXとは最も縁遠い業界のひとつ。

しかし、そのど真ん中でICT活用によって売上を約1.7倍(2016年27億→2023年47億)に伸ばし、国から表彰まで受けた会社があります。それが、1950年創業の土木建設会社「金杉建設」です。


「業界の常識」と真正面から戦う覚悟

金杉建設の転機は、「談合体質からの脱却」という重たいテーマから始まっています。社長は早くから、次のような“業界構造の限界”を見抜いていました。

  • 人に依存する施工
  • 不透明な業界慣行
  • 勘と経験に頼る現場管理

これが業界そのものを衰退させる——そう判断し、社長はICT活用による現場改革を選びます。

ただ、最初から称賛されたわけではありません。むしろ真逆でした。同業他社からの嫌がらせは日常茶飯事。最悪のケースでは、自社の下請けに対し「事故を起こせ」と圧力がかかるという信じがたい事態まで起きています。

それでも社長は引かず、信念を貫きました。


2016年、追い風を“本気の投資”に変えた判断

2016年、国交省が「ICT導入企業を評価・加点する」方針を打ち出します。ここで金杉建設は、中途半端なICT導入ではなく、経営としての本気投資に踏み切りました。

  • ICT重機はレンタルではなく自社保有
  • 実績を積み上げることを最優先
  • ICT活用案件の受注時は社内表彰で高い奨励金を付与
  • 専門組織としてインフラDX推進室を設置

つまり「ICTは現場の負担」ではなく、「ICTは評価され、報われる武器」というメッセージを、制度で示したわけです。

この積み重ねが現場の意識を変え、若手のモチベーションを上げ、実績として外部に伝わり、ついには国交省インフラDX大賞の受賞につながります。

結果として、2016年の売上27億円が、2023年には47億円へ。DXが“掛け声”ではなく経営成果として結実しました。


金杉建設の強みは「ICT」ではない

ここで重要なのは、金杉建設の強みはICT機器そのものではない点です。本質は次の3つに集約されます。

  1. 業界の体質と正面から戦う経営者の覚悟
  2. ICTを「現場改革+評価制度」として組み込んだ設計力
  3. 早期導入で蓄積された、他社が真似しにくい実績と運用ノウハウ

ICTはあくまで手段。差別化の源泉は「どう使い、どう評価し、どう継続したか」にあります。


中小企業診断士としてのアドバイス

金杉建設はDX先行者として極めて良いポジションにいます。ただし、ここから先は「守りと進化」のフェーズです。優位性を持続させるために、私は次の順番を強く推します。

① 最優先:案件別・顧客別の“儲け方”を見える化する

売上が伸びても、案件ごとの採算顧客別の利益率ICT活用による生産性改善効果が見えていなければ、優位性は長続きしません。

まず取り組むべきは次の3点です。

  • 案件別原価・利益管理(赤字案件の早期検知)
  • クライアント別の利益構造(値決め・仕様の癖の把握)
  • 人別・重機別の生産性可視化(どこで詰まるか、どこが強みか)

「ICTを使った案件ほど、どれだけ利益が残るのか」を数字で語れる状態を作ること。これが次の成長の土台です。

② 絞る:高付加価値領域に意図的に集中する

すべての土木工事をやる必要はありません。

  • 人では対応が難しい
  • ICT活用の効果が大きい
  • 技術提案型で上流から入れる

こうした案件に意図的に絞ることで、利益率・生産性・社員の誇りを同時に高められます。

また、定期点検・改修・維持管理といったアフターサービスは、土木業界ではまだ手薄な“準ストック型ビジネス”。ここは確実に育てたい領域です。

③ 広げる(中期):同業他社を「敵」から「パートナー」へ

次の一手は戦略的です。自社だけで案件を抱え込むのではなく、ICT活用ノウハウの提供やICT機器レンタル、施工支援を通じて同業他社をパートナー化します。

  • 大規模案件への対応力向上
  • リスク分散
  • 業界内での影響力拡大

かつて嫌がらせを受けた業界だからこそ、「巻き込む側」に回る価値があります。

④ 広げる(長期):防災DX企業としてのブランド確立

最終的に目指したい姿は明確です。「防災DX企業」

  • ハザードマップ整備
  • 水位・雨量のIT監視
  • 危険箇所の可視化
  • 被害予測シミュレーション

自治体と連携し、単なる施工会社ではなく地域の安全をデータと技術で守る企業としてポジションを確立できれば、価格競争とは無縁の領域に入れます。


KPI設計(DXを“続く経営”にする)

最後にKPIです。DXは導入して終わりではなく、数字で管理して磨き続けることで武器になります。

KGI①:生産性

  • 一人当たり粗利
  • 赤字案件率

KGI②:収益性

  • 売上(案件別・クライアント別)
  • 利益率(案件別・顧客別・アフターサービス別・上流参画案件別)

まとめ

金杉建設は、「業界が変わらない」のではなく、「変える覚悟を持つ経営者が少ない」ことを証明した会社です。信念 × ICT × 組織設計。この3点が噛み合ったとき、土木業界でもDXは“儲かる戦略”になります。

そして、ここから先はDX企業から、防災DXブランド企業へ。次の成長ステージは、もう見えています。

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