技術を知らない社長は、最初「厄介者」だった。鍛造会社・ミヤジマが“心の偏差値”で再生した理由

勝手に企業診断

1929年創業。ミヤジマは、シャフトを中心とした鍛造製品を手がける老舗の鍛造会社です。

しかし今でこそ安定した経営を続けるこの会社も、かつては深刻な危機に直面していました。

「技術を知らない人間に、何ができるんだ」

きっかけは、父親からの一本の頼みでした。

営業や事務処理に追われていた兄を支えるため、現社長が会社経営に関わることになります。ところが、現場の反応は冷ややかなものでした。

「技術を知らない人間に、何ができるんだ」
「仕事を戻されても、こんなの出来るか」

職人の世界。変化を望まない空気の中で、社長は「厄介者」扱いされます。

そんな中で追い打ちをかけたのがリーマンショックでした。売上は半減。仕事は激減し、会社の先行きは見えなくなります。

危機の中で変わったのは「仕事への向き合い方」

仕事がなくなる。その状況に直面したとき、社員の意識が少しずつ変わっていきます。

「仕事があることは、当たり前じゃない」
「お客様を、もっと大切にしなければ」

この変化を一時的なものにしてはいけない。そう考えた社長は、ある取り組みを始めました。

それが「ミヤジマイズム」と呼ばれる社是の共有です。

毎朝の朝礼で、ミヤジマの魂とも言えるミヤジマイズムを読み合わせる。単なるスローガンではなく、「仕事にどう向き合うのか」「人としてどうあるべきか」を言葉にして共有する。

社長はこれを「心の偏差値を上げる」と表現します。

ミヤジマの本当の強みは「金型を作らない鍛造」

ミヤジマの技術的な最大の特徴は、専用金型を作らないシャフト製造技術です。

一般的な鍛造会社では、製品ごとに専用金型を作ります。その結果、初期コストが高い、納期が長い、小ロットには向かない、といった制約が生まれます。

一方ミヤジマは、金型の組み合わせでシャフトを作る技術を確立。これにより、短納期・低コスト・小ロット対応を同時に実現しています。

この強みは、日々の改善活動によって磨かれてきました。

月56項目。改善は「特別なこと」ではない

ミヤジマでは月次で改善会議を行っています。

作業のムダ、段取り、品質、動線。現場で気づいたことを持ち寄り、共有する。その数、月に56項目にも及ぶことがあります。

派手な改革ではありません。しかし「コツコツ改善を続けること」に、社長も従業員も価値を見出しています。


中小企業診断士としての考察とアドバイス

総評:ミヤジマは「組織力」で勝つ会社

ミヤジマは、ミヤジマイズムという会社のバイブル、日々の改善を回し続ける組織力、短納期・低コスト・小ロットという明確な強みを組み合わせることで、安定した事業運営を実現している会社です。

特に重要なのは、「改善が一部の人の仕事ではなく、組織の習慣になっている」という点です。この組織力を土台に、次の成長ステージを設計することが重要だと考えます。

絞る:高付加価値×小ロットに特化する

今後は、強みをさらに尖らせるべきです。具体的には、小ロット・難易度が高い・短納期が求められるシャフト製造に特化する。

想定チャネルは、医療機器、精密機器、EV、産業機械です。金型を作らない鍛造技術が最も活きる領域を狙います。

広げる:鍛造+αで「サービス化」する

単なる鍛造請負に留まらず、鍛造+αを提供します。

  • シャフトの企画・設計段階からの参画
  • 鍛造 → 熱処理 → 穴あけ → 表面加工 → 品質保証まで一貫提供
  • 摩耗が激しいシャフトに対する定期検査・品質分析
  • 定期点検・メンテナンスを含めたサブスク型サービス

「作って終わり」ではなく、使われ続けるところまで責任を持つモデルです。

伝える:比較とストーリーで強みを可視化する

ミヤジマの強みは、伝えなければ伝わりません。

  • 他社鍛造との比較(納期・コスト・最小ロット・立上げスピードなど)
  • 短納期・小ロットの実績
  • 困りごと解決事例(なぜミヤジマで解決できたのか)
  • 社長のストーリー(冷ややかな現場から信頼を得たプロセス)

これらをWebやSNSで発信することが重要です。また、高校・高専向けの工場見学を行い、若手採用の入口を作ることも現実的です。

IT化・組織改革:改善を仕組みに落とす

次の段階は、改善活動の「仕組み化」です。

  • 営業の分業化(新規開拓/既存深耕/見積対応/技術提案など)
  • リピーター向け定期訪問(発注前の相談を増やす)
  • 原価マスター・工程マスターを整備した簡易見積もり
  • 段取り替えや作業の動画マニュアル化
  • 金型パターン数を増やし標準化(組み合わせの体系化)

KPIとしては、稼働率、1時間あたり粗利、不良率、段取り時間を継続的にウォッチします。改善会議が強い会社だからこそ、数字と紐づけると改善の精度が一段上がります

海外:焦らず、連携から始める

海外については、商社経由、OEM、海外事業者との連携から始めるのが現実的です。直接進出は避けるべきです。小ロット・短納期・高難度は評価されますが、契約・品質保証・物流・回収の難易度が跳ね上がるため、「勝てる形」で入るべきです。

自社商品:将来構想として位置づける

介護分野など社会課題解決型の製品開発は、国や自治体との連携、補助金活用、従業員の誇りづくりという点で意味があります。ただし現時点では、将来構想レベルに留めるのが適切です。

優先順位の整理(重要)

  1. 低粗利案件の見極め
  2. 生産性改善とリピーター獲得
  3. 強みを伝える活動
  4. 高付加価値チャネル拡大(鍛造+α)
  5. その先に海外・自社商品

逆にやってはいけないのは、いきなり海外進出やBtoC商品開発です。ミヤジマは「尖った強み」がある会社なので、強みが最大化する市場に集中してから、次の一手を打つのが堅い戦略です。

この会社は「心の偏差値」×「改善文化」×「技術の尖り」という、非常に強い土台を持っています。次は「どう広げるか」ではなく、「どこに集中するか」が成否を分けると考えます。

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