佐々木酒造|京都洛中唯一の酒蔵が選んだ「続く経営」戦略(ファン深掘り×属人化解消)

勝手に企業診断

京都・二条城のすぐそば。観光地のど真ん中に、ひっそりと、しかし確かな存在感で立ち続ける酒蔵がある。
1893年創業、130年超の歴史を持つ「佐々木酒造」だ。

ただし、ここに至る道のりは、決して“伝統に守られた安定経営”ではない。むしろ逆で、縮小する日本酒市場の中で「続くために、変えた」会社だ。


「忙しいのに、なぜ儲からないのか」――社長が直面した現実

社長就任当初は売上約1億2,000万円。それが今は4億円超まで伸び、経営は安定している。
しかし、その成長の途中で社長は強烈な違和感にぶつかる。

日本酒市場はシュリンク。周囲にあった作り問屋は次々と廃業。
それでも売上を取りにいかなければ会社は続かない。社長は一人で東京へ営業に出向き、利益率が低くても売上を確保することに奔走した。

だが、ある段階で気づく。

「忙しい。売上もある。なのに儲からない。これは“続く経営”ではない」

ここで、経営の軸が変わった。会社を大きくするのが目的ではない。
「続けること」こそ目的になった。


佐々木酒造の強みは「酒」だけではない

佐々木酒造の強みは、単なる酒質や商品力ではなく、「文脈」そのものにある。

  • 京都洛中に残る唯一の酒蔵という歴史的背景(他社が真似できない)
  • 品評会で高評価を得るほどの長年の酒造技術(杜氏の存在)
  • Web発信・展示会を通じた直接のファン接点
  • 京都の飲食関連会社との強い関係性

代表銘柄「聚楽第」は、京都由来の酒として、料理を引き立てると評判。
さらに、地域企業とのコラボで酒粕菓子・食パン・リキュールなど、日本酒以外の商品展開も実施している。

ここが重要で、低利益になりやすい“卸依存”構造を、直販・ファン接点・周辺商品で補強して、利益の安定化を図ってきた。


酒蔵ツーリズムが「売る力」ではなく「育てる力」を作った

佐々木酒造は、酒蔵ツーリズムを実施し、参加実績は約5,000人規模。国内だけでなく、インバウンド旅行者との接点にもなっている。

ツーリズムの価値は、単にその場で売ることではない。
「歴史を知る → 酒造りを見る → 人の想いに触れる」この体験が、ファンを育て、リピート・口コミにつながる。

さらに、従業員にとっても「自分たちの仕事が誰に届いているか」を実感でき、モチベーションの源泉にもなっている。


診断士としてのアドバイス

1. 業界構造を前提に“勝ち筋”を再確認する

日本酒の酒蔵は、構造的に以下の課題を抱えやすい。

  • 属人化(杜氏依存が強い)
  • 人件費比率が高い
  • ロス率が出やすい(固定費型)
  • 卸依存だと価格決定権が弱く、利益率が低くなりやすい

佐々木酒造は、直販・ファンづくり・コラボ商品でこの構造を部分的に乗り越えてきた。
ただし、安定的な事業運営を進めるには、属人的になっている生産と、社長頼みになりがちな営業の組織基盤を整えることが避けて通れない。

2. 「生産」と「営業」の属人化解消は、順番が重要

生産側は、いきなりIT導入で解決しようとしないことがポイント。まずは工程分解と可視化から始める。

  • 杜氏工程を分解し、数値化できるもの(発酵温度・日数・米質など)は可視化する
  • 一方で、どうしても感覚に頼る工程は無理に数値化せず手作業のまま残す
  • まずは「感覚を数値で補助する」段階から始め、PDCAで改善する

営業側も同様で、属人化を前提に「誰がやっても一定成果が出る」設計に寄せる。

  • 利益率の高い領域を、データで見極める
  • 意図的に高利益領域へ集中し、忙しいのに儲からない構造を再発させない

3. 本質戦略は「新規拡大」ではなく「ファン深掘り」

ここが佐々木酒造の戦略の肝で、安易に新規顧客数を伸ばすよりも、自社を分かってくれるファンを育成し、期待を裏切らない深掘りを継続することが価格競争から脱却する道になる。

4. 具体施策(伝える/組織改革/広げる)

伝える

  • 京都洛中に残る唯一の酒蔵という価値を、言葉だけでなく物語として発信
  • 社長の就任からの経緯、酒蔵への思い、技術力(品評会評価など)の実績を発信
  • 酒蔵見学イベントを採用拡大にもつなぐ
  • 会員制の入り口を作り、新酒試飲会などファン限定イベントで交流を深める

組織改革

  • 営業・生産の属人化解消のため、まず工程分解とマニュアル化
  • できた工程からOJTで育成開始
  • 生産は「数値化できる部分から可視化」→「改善」へ。強引なIT導入はしない
  • 営業は利益率の高い領域をデータで見極め、意図的に集中する

広げる(短期)

  • 既に海外ファンが存在するため、海外向け自社サイト(海外ファンのみログイン)で販売
  • 酒蔵ツーリズム参加インバウンド客へ、その場で“次の購入導線”を設計

広げる(中期)

生産者目線ではなく消費者目線で、用途別・利用シーン別に価値を再定義する。

  • 魚料理向け
  • 新たな船出向け
  • 大切な人との出会い向け
  • 家族との大切な時間向け
  • 一人のご褒美時間向け

広げる(長期)

  • ファン向けサブスク(季節便、仕込み・熟成レポートなど)
  • 繁忙期・閑散期の平準化による、固定費型ビジネスの安定化

5. 戦略の取り組み順(飛ばさない)

  1. 伝える(ファン接点の強化)
  2. 営業・生産の基盤整備(属人化解消)
  3. 広げる(短期:海外ファン深掘り)
  4. 広げる(中期:用途別提案)
  5. 広げる(長期:サブスク)

6. KPI設計(KGIは利益率×標準化率)

KGIは「利益率」と「標準化率」に置く。理由は、酒蔵の構造課題(低利益・属人化)を戦略の中心で解くため。

  • 利益率:商品別(酒・菓子・食パン等)、取引先別/ファン別、用途別
  • 標準化率:工程分解率(生産・営業)、標準手順作成率、技術マップ充足度
  • LTV:会員数、リピート率、サブスク数
  • 認知度:ツーリズム参加数、問い合わせ数

まとめ:佐々木酒造が示す「続く酒蔵」の勝ち方

佐々木酒造は、歴史を“誇る”だけではなく、分かってもらう努力を積み重ねてきた酒蔵だ。

大きくなることが目的ではない。続けることが目的。
そのために、ファンを育て、利益率を守り、属人化を解き、強みを深掘る。
この設計ができている会社は、縮小市場でも強い。

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