牛たん専門店「ねぎし」。いまでは親切な接客と居心地の良さで知られる人気チェーンですが、その裏側には、従業員の集団離脱という大きな危機がありました。
今回は、ねぎしがどのようにして「人を使い捨てる組織」から「人の成長を大切にする組織」へと生まれ変わったのかを、中小企業診断士の視点も交えて整理します。
社員を「モノ」と同じように扱った結果、起きたこと
創業当初のねぎしは、多角化路線で店舗数を増やし、トレンドに合わせて次々と新業態を展開していました。売上は拡大していきましたが、その裏側で従業員は疲弊していきます。
当時の経営者は、人に対しても「商品と同じ、使い捨てでも良い」という考え方を持っていたと言います。その結果、ついに従業員の集団離脱が発生。店舗運営は回らなくなり、品質も低下し、企業としての信頼も揺らぎました。
この出来事をきっかけに、経営者は痛感します。「経営で一番大事なのは、人である」と。
親切な接客を仕組みで生み出す飲食店へ
ねぎしが見つけた勝ち筋は、とてもシンプルでした。
- 親切であたたかい接客こそ最大の付加価値である
そこで、徹底的に教育へ投資する方針へと転換します。接客は一部の「センスのある人」任せではなく、仕組みで再現するものと捉え直しました。
接客コンテストと「自分たちで決める目標」
ねぎしの特徴的な取り組みが、接客コンテストです。全国のスタッフが集まり、ねぎしらしい接客を競い合い、磨き合う場を設けています。ここで重要なのは、接客を「感覚」ではなく「再現性のある技術」として扱っていることです。
また、売上目標も本部からの一方的な押し付けではなく、店舗が自ら考えます。
- 店舗ごとに目標と施策を自分たちで立案
- 計画と実績を比較し、自分たちで振り返る
このプロセスを通じて、スタッフは「やらされている側」から「自分事として店を運営する側」へと意識が変化していきました。
その結果として、コロナ禍で多くの飲食店が売上を大きく落とす中、ねぎしは売上減が二割程度にとどまったと言われています。平時の仕組みづくりが、非常時の打たれ強さにつながった好例と言えます。
中小企業診断士としての視点 経営をもっと強くする打ち手
ここからは、中小企業診断士としての視点で、ねぎしの取り組みをさらに発展させるとしたら、どんな方向性が考えられるかを整理します。
1 利益構造を見える化し、現場の自律性を高める
接客力に加えて、今後さらに重要になるのは「数字への理解」です。特に飲食業では、次の指標が経営の生命線になります。
- 食材費と人件費を合わせた FL 比率
- メニュー別の粗利
- 店舗別の採算
メニューごと、店舗ごとに「どの料理が利益を生み、どの料理が利益を削っているのか」を可視化し、スタッフと共有することで、現場からの改善提案が出やすくなります。
さらに、接客マニュアルやロールプレイングを動画化すれば、教育の質とスピードをそろえやすくなり、店舗拡大時の弱点補強にもつながります。
2 ねぎしのこだわりを発信しブランド価値を高める
ねぎしの強さは、牛たんそのものだけではなく、見えない部分の積み重ねにもあります。
- 牛たんの仕入れルートや品質管理へのこだわり
- 従業員育成にかける考え方
- 150店規模で培った成功と失敗のノウハウ
これらを、コーポレートサイトや SNS で継続的に発信していくことで、「牛たんを食べるならねぎし」という指名買いにつながっていきます。
例えば、牛たんの栄養素や、おすすめの食べ方、シーン別の楽しみ方など「専門店ならではの情報発信」を行うと、ファンとの距離も一気に縮まります。
3 広げる 接客ノウハウや商品を新たな柱に育てる
ねぎしには、他社が簡単には真似できない資産があります。それが「接客プログラム」と「育成ノウハウ」です。これを生かして、次のような展開も考えられます。
- 自社 EC による冷凍牛たんやギフト商品の販売
- 高齢者向けへの弁当宅配サービス
- 他飲食店向けの接客研修プログラムやコンサルティング
- 常連客向けの会員制サービスやサブスクプラン
牛たん専門店という軸はぶらさずに、「接客」「教育」「おもてなし」を別事業として展開することで、収益の柱を増やすことができます。
4 絞る セントラルキッチンで接客に集中できる体制づくり
接客に強みがあるチェーンほど、調理工程を集中化していくメリットは大きくなります。セントラルキッチンを活用し、仕込みや下処理を集約することで、店舗では接客と仕上げ調理に集中できます。
これにより、次のような効果が期待できます。
- スタッフ一人あたりの負担軽減
- 料理品質の標準化
- 教育時間の短縮
ねぎしが目指す「人を大事にする経営」とも相性の良い方向性です。
5 海外展開 牛たん×接客×和食で勝てる市場
牛たんは、アジア圏を中心に海外でも人気が高まりつつあります。特に台湾やシンガポール、ベトナムなどは有望なマーケットです。
小型店舗モデルに、ねぎし式の接客と和食ブランドを掛け合わせることで、海外でも「ねぎしに行きたい」という指名需要をつくることができます。
まとめ 人を大切にする企業は、お客様からも大切にされる
ねぎしのストーリーは、飲食業に限らず、多くの中小企業に共通する学びを与えてくれます。
人を使い捨てる発想から、人の成長を軸にした経営へ。接客を属人的な「センス」から、再現性のある「仕組み」へ。
人を大切にする企業は、最終的にお客様からも大切にされる。そのことを、ねぎしの取り組みは教えてくれています。


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