熊本地震で20億被害→60億投資で復活:免震の金剛が価格競争を抜けた理由(金剛)

勝手に企業診断

金剛|収納棚メーカー(1947年創業・300人)

デジタル化の進行、活字離れ、書類の電子化。収納棚市場は、長期的に見れば確実に縮小しています。

そんな環境の中で金剛は長く、「言われた通りにやっていれば給料がもらえる、楽な会社」と社内外から見られていました。しかし社長は、その“楽さ”に強い危機感を持っていました。世の中の変化に対して鈍感になっていないか。このままでは、いざという時に会社は立ち行かないのではないか。

その矢先に起きたのが熊本地震。工場は激しい揺れに襲われ、被害額は約20億円。事業継続すら危ぶまれる状況に陥ります。

ただ、その中で社長は一つの光景を目にします。被災直後にもかかわらず、自然と会社に集まってくる社員たち。「会社を守りたい」という思いは確かに共有されている。ならば、ここで生まれ変わろう。危機だからこそ、ファーストペンギンになる。

社長はそう決断し、60億円の投資を行い新工場を建設。結果として生産能力は30%アップし、空いた工数は「お客様の現場に行く時間」に振り向けられました。金剛は「作る会社」から「現場と向き合う会社」へ、ここで大きく舵を切ります。


強み:「免震の金剛」と呼ばれる技術と覚悟

金剛の最大の強みは、震災から“人と資産を守る”免震構造の収納棚です。

  • 地震の揺れを受け流す免震構造
  • 免震機能に関する複数の特許を保有(特許を持たない他社は模倣しづらい)
  • 自動化された生産ラインによる高精度加工(誤差0.5mm以内)
  • 生産状況をリモートで把握できる工場DX
  • ものづくり日本大賞の受賞という外部評価

安全性は、安さでは選ばれない。この前提に立つことで、金剛は価格競争から距離を取れています。


組織改革:震災が解いたセクショナリズム

熊本地震を機に、社内の空気も変わりました。部署間の壁が薄れ、「会社を守る」という共通目的のもとで、社員が一丸となる風土が生まれた

そして、自動化で生み出した余力を、顧客の現場に向ける。単なる棚売りではなく、課題解決型へ。ここに金剛の“再生の骨格”があります。


診断士としてのアドバイス

総評:災害を契機に「守りの会社」から「価値を創る会社」へ

金剛は、熊本地震という未曾有の災害をきっかけに、免震という技術的強みを明確化し、生産を自動化し、空いた工数を顧客価値創出に振り向け、組織と風土を変え、社会の変化に適応する企業へと進化しました。これは単なる設備投資ではなく、経営の思想転換そのものです。

収納棚メーカーは本来、少量多品種で生産効率が悪化しやすい、在庫管理が難しい、価格競争に陥りやすいという構造課題を抱える業界です。だからこそ今後は「免震の金剛」という強みをさらに尖らせ、新たなチャネル創出、サービス化による利益率向上、生産・在庫効率の改善を同時に進め、持続的な事業基盤の強化を図るべきです。

① 伝える:技術を“体感できる価値”として届ける

  • 経営者の決断と震災からの再生ストーリー
  • 免震棚と通常棚の地震時比較(動画・シミュレーション)
  • 復旧時間・被害差のビフォーアフター
  • 社員の想いやDXの取り組み
  • 取引実績・導入事例

特に重要なのは「安全は体感しないと伝わらない」という前提に立つことです。加えて高校・高専向け工場見学は、技術継承・採用強化・ブランディングを同時に進められる三位一体施策として有効です。

② 広げる:「棚を売る」から「空間を守る」へ

今後は製品販売に加え、課題解決型サービスへ踏み込むべきです。

  • 工場・倉庫のレイアウト設計支援
  • 動線改善・省スペース提案
  • 収納効率最大化のコンサルティング

さらに、レール歪み・荷重超過・経年劣化を点検する定期アフターサービスを提供し、ストック型収益を構築する。VRシミュレーションで作成したデータを設計データとして顧客に提供すれば、顧客側の設計工数削減という新たな価値も生まれます。

③ 絞る:「免震が必要な業界」に集中する

すべてを狙わず、免震価値が“必須”な業界に絞ることが合理的です。

  • 医療
  • 介護
  • 食品
  • 物流
  • 重要文書保管施設

実績が蓄積された段階で、医療向け・介護向け・物流向けなど用途別ブランド化を進めると、訴求がさらに強くなります。

④ IT化:生産・営業・設計を“数字で回す”

IT化の目的は単なる効率化ではなく、意思決定の質向上です。

  • 生産ラインの稼働データ
  • 不良率・リードタイム
  • 案件別原価・利益率

を可視化しPDCAを回す。営業面では「必要条件を入力すれば概算見積が出る仕組み」や「標準案件と高付加価値案件の切り分け」により、営業の再現性を高めます。

⑤ 海外展開:慎重に、だが準備は今から

地震対策ニーズの高い地域(東南アジアなど)は有望ですが、直販は避け、OEM・海外事業者連携から始める。品質とブランドを守る進め方が必須です。

⑥ 社会課題解決(BCP):本業の延長線としての公共連携

免震技術はBCP対策そのものです。自治体との連携、防災拠点・公共施設への提案、補助金活用は、突飛な新規事業ではなく、金剛の強みが最も活きる社会貢献領域だと考えます。

KPI設計:「価格競争に戻らないための指標」

  • 生産効率:不良率/生産リードタイム
  • 収益性:高付加価値案件比率/コンサル案件比率/アフターサービス比率
  • 成長性:新規チャネル数/リピーター数
  • 在庫効率:在庫回転率
  • 認知度:SNSフォロワー数/問い合わせ数

戦略の優先順位

  1. 伝える(認知と共感をつくる)
  2. アフターサービス+相談型提案(利益率向上)
  3. 絞る+IT化(強みの尖鋭化)
  4. 用途別ブランド化+BCP対応
  5. 海外展開

※一般消費者向け直販・安価大量生産は「やらない」。高付加価値を必要とする法人に集中する方が、金剛の勝ち筋を守れます。

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