58人の社長がいる配管会社。カワトTPCの“プレハブ配管×AI設計×自律組織”が強すぎた

勝手に企業診断

建設業界、と聞くと何を思い浮かべるでしょうか。

  • 長時間労働
  • 職人依存
  • 紙の図面
  • 保守的で変わりにくい

そんな“よくある常識”を、静かに、でも確実に壊している会社があります。

山口県の配管製造会社、カワトTPC(1989年創業)。

この会社の面白さは、単に「樹脂配管がすごい」だけではありません。

技術、IT、組織づくりの3つが噛み合い、結果として“強い経営”になっている。ここが最大の学びです。


毎朝の掃除は、理念のスローガンではなく「経営の姿勢」だった

カワトTPCの社長は、毎朝掃除をするのが日課です。

見せるためでも、評価のためでもない。「会社は人が集まる場だから」という思想が、行動として表れているだけ。

山口県は男性が製紙大手に就職する傾向もあり、同社は3人に2人が女性という職場構成。

製造業では珍しいですが、だからこそ社長が強く意識しているのがこの問いです。

「親が、この会社に子どもを入れたいと思えるか」

建設業界で長時間労働が常態化し、家庭を犠牲にする働き方が多かった時代に、同社は働き方改革に踏み込み、労務環境の改善を進めてきました。


10年かけて認めさせた「樹脂製プレハブ配管」

カワトTPCの技術的な柱は、樹脂製のプレハブ配管システムです。

従来、マンションの給水管は金属が当たり前でした。

しかし金属には、錆びる・重い・施工が手間・経年劣化で漏れやすい、という課題があります。

同社の樹脂配管は、

  • 漏れにくい
  • 錆びない
  • 軽い
  • 耐久性とコストで優位

という合理性を持ちます。

ただし建設業界は保守的です。

認めてもらうまで10年かかった。ここがすごい。

「良いものを作れば売れる」ではなく、「良いことを理解してもらうまで粘る」。この粘りが、技術を“事業”に変えたのだと思います。


設計1時間半が10分に。AIで“設計の常識”も壊した

もう一つの強みが、設計業務のIT化です。

過去の設計図データを蓄積し、AIで類似事例をマッチング。

人がやるのは「ズレたところを補正する」だけ。

その結果、

  • 設計時間:1時間半 → 10分以内
  • コスト削減
  • 人為ミスの削減

に繋がっています。

施工中の図面も紙ではなくタブレット。仕様書もデータ化し、誰が見ても同じ情報を共有できる。

これは単なる効率化ではなく、「属人化しない品質」の実装です。


部長も課長もいない。58人の社長がいる会社

カワトTPCには、部長・課長がいません。

5〜10人単位でグループを編成し、各グループに「社長」を置く。

決裁権や人事権まで与え、グループ運営を自律させる。

つまり、58人の社長がいる会社です。

責任と権限を現場に渡すことで、

  • 自分で考える
  • 助け合う
  • 他責にしない

という文化が育つ。

理念ではなく、仕組みで“自律”を作っている点が本質だと感じます。


中小企業診断士としてのアドバイス

ここからは診断士としての視点で整理します。

カワトTPCの競争力は、次の三位一体で成立しています。

  1. 樹脂製プレハブ配管という技術的差別化
  2. AI・タブレット運用による圧倒的な生産性
  3. 58人社長の自律型組織による人材定着と現場力

今後はこの強みを「横に」「下に」「外に」広げ、事業基盤をさらに強固にする戦略が有効です。具体策は以下です。

1) 伝える(最優先:ブランド形成と採用・受注の強化)

まず最優先は「伝える」です。良い技術でも、伝わらなければ選ばれません。

発信は“ふわっと”ではなく、エビデンス型が刺さります。

  • 金属配管 vs 樹脂配管の耐久性比較(腐食・漏水・メンテ頻度など)
  • 施工工数の比較(人時)
  • 工期短縮の実績(何日短縮できたか)
  • ライフサイクルコスト比較(初期+維持+更新)
  • 施工実績(どんな建物・どの規模・どの地域)
  • 社長のストーリー(10年粘った理由、諦めなかった理由)
  • 58人社長の活動事例(グループ運営の具体例、改善の成果)
  • 社員の声(働き方改革で何が変わったか)

これをWeb・SNS・採用ページ・会社案内に統一して落とし込むことで、受注と採用の両方が強くなります。

2) 広げる(事業化:本業の強みを“サービス”に変える)

2-1) アフターサービスの事業化(マンション向け)

配管は「見えない不安」が価値になります。ここを収益化できます。

  • 施工後の定期点検
  • 更新提案(築年数・使用状況に応じた計画的提案)
  • 配管状態のデータ管理(点検履歴、異常兆候の記録)

マンション管理会社・オーナー側の安心を売るモデルです。単発工事から、継続収益へ移行できます。

2-2) 上流〜下流の一貫サービス(付加価値アップ)

企画・設計段階から入り、施工〜品質保証まで一貫提供することで、価格競争から距離を取れます。

ただし本業の現場を圧迫しないために、専任グループを作り、責任分界点を明確にして進めることを勧めます。

2-3) IT仕組みの外販(サブスク化)

設計AIの仕組み・図面のタブレット運用・仕様書データ化は、同業者にも刺さります。

  • 同業施工会社向けに「設計支援+図面運用」サブスク
  • 導入研修(DXアカデミー)をセット化
  • 組織運営(小集団)ノウハウのセミナー化

この外販は、本業と顧客が競合しにくい領域・地域に絞る設計が安全です。

3) IT化(深化:見積までAI活用)

現状の仕様書作成だけでなく、見積作成までAI活用を検討できます。

ただし“自動見積”ではなく、

  • 類似案件からの概算自動算出
  • 人が最終チェック・調整

という形が現実的です。標準部材・標準工程の整理(マスター整備)が前提になります。

4) 絞る(集中:ブランドの芯を太くする)

当面は「マンション工事向け配管」に特化し、ブランドを磨くのが得策です。

分散すると、強みが薄まります。

5) 川下(限定的:やるなら目的を明確に)

一般住宅向けの水回りリフォーム全般に手を出すのは勧めません。別世界のオペレーションになり、疲弊しやすいからです。

例外として、DIY上級者向けのプレハブ配管キットは「採用・ブランディング目的」で限定的に検討余地があります。

6) 海外(慎重:直接進出は避ける)

海外は、

  • 商社経由
  • OEM供給
  • 日系顧客との連携

から始めるのが安全です。

代理店丸投げや製品単体輸出は、品質要求・施工品質・クレーム対応の観点でリスクが大きいので避けるべきです。

7) 優先順位(実行順)

  1. 伝える(エビデンス型発信で認知・採用・受注を強化)
  2. 一貫サービス/アフターサービスを別グループで事業化
  3. IT外販(同業者向けDXサブスク)
  4. 海外・一般消費者向けは将来テーマとして慎重に

8) 管理すべきKPI(定点観測)

  • 営業利益率
  • 事業別売上(施工/アフター/外販など)
  • リピーター数・継続契約数
  • 認知指標(問い合わせ数、SNSフォロワー、インプレッション)
  • 施工人月単価
  • IT化によるコスト削減率(設計時間短縮など)

まとめると、カワトTPCは「技術」「IT」「組織」を“別々に頑張る”のではなく、全部を一つの経営ストーリーにしている会社です。

だから強い。ここが最大の学びだと思います。

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