大正元年創業。従業員15名。
東京・新宿に店を構える老舗和菓子店「新正堂」。
一見すると、よくある“伝統ある和菓子屋”に見えるかもしれません。
しかしこの会社は、和菓子業界に強烈なインパクトを与える商品を生み出しました。
その名も――「切腹最中」。
お詫びの菓子として話題を呼び、
法人需要ではあの虎屋を上回るほどの実績を残した、異色のヒット商品です。
婿養子として社長に。違和感から始まった挑戦
現社長は、忠臣蔵の熱狂的なファン。
歴史好きが高じて、和菓子の世界に飛び込みました。
婿養子として社長に就任した当初、
職人の世界、和菓子の慣習、昔ながらのやり方――すべてが未知の領域。
しかし、現場を見続ける中で、ある強烈な違和感を覚えます。
「あんこは年々おいしくなっているのに、なぜ売れないのか?」
原材料、炊き方、技術。
品質は確実に向上している。それなのに売上は伸びない。
この違和感こそが、新正堂の転機でした。
変えなければ、続かない
社長は決断します。
「変えなければ、この店は続かない」
そこから新商品開発に挑戦しますが、結果は惨敗。
作っても作っても売れない。
それでも諦めなかった理由はシンプルです。
「このままでは、何も変わらない」
そして、和菓子業界の“常識”に真正面から挑む商品が生まれます。
常識を壊した「たたまない最中」
最中は、皮とあんこを別々にし、食べる直前に合わせる。
これは和菓子業界では当たり前の常識でした。
しかし新正堂は、あえてその常識を壊します。
最中を――
たたまない。
忠臣蔵の世界観と結びつけ、
生まれた商品が「切腹最中」。
従業員からは猛反発がありました。
「縁起が悪い」「和菓子屋がやることじゃない」
それでも社長は引きません。
結果は――
大ヒット。
お詫び需要、法人需要、話題性。
「謝罪の場面で使える和菓子」という新しい市場を切り拓きました。
中小企業診断士としての視点①:課題は「作り手視点」だった
新正堂の本質的な課題は、品質ではありません。
生産者視点でしか価値を語れていなかったことです。
- 良い素材を使っている
- 手間をかけている
- 伝統製法を守っている
これらはすべて作り手の論理。
消費者が「買う理由」にはなっていませんでした。
切腹最中は、消費者の利用シーンから価値を再定義した商品です。
「お詫びの場で、失礼にならないどころか話題になる」
この一点に価値を集中させたことが、ヒットの要因です。
中小企業診断士としての視点②:伝えるべきは「あんこの価値」
今後、新正堂がさらに伸びるためには、
あんこの価値を生活者目線で翻訳することが重要です。
例えば――
- 仕事や勉強に集中したいとき
- 疲労回復したいとき
- スポーツ前後の栄養補給
- 家族団らんの時間
これらのシーンごとに、
管理栄養士監修で「あんこ摂取ガイド」を作るのは非常に有効です。
また、洋菓子との比較で
- 脂質が低い
- 食物繊維が多い
- 血糖値の上昇が緩やか
といった点を数字で示すことで、和菓子の価値はより伝わります。
中小企業診断士としての視点③:収益基盤を強くする
ヒット商品が生まれた後に重要なのは、
持続的に儲かる仕組みを作ることです。
① 法人向け需要の強化
医療・介護事業者向けに、
- 小分け
- 低脂質
- やわらか食
などを意識した商品展開は現実的です。
② サブスクは「製造都合」で設計する
ファン向けの季節限定セットや年4回配送など、
製造負荷を抑えた設計が重要です。
③ IT化による現場改善
特に以下は優先度が高いです。
- 歩留まり・ロスの見える化
- 段取り替え時間の削減
- レシピの部分標準化
熟練者の勘に頼っていた工程も、
データ化・パターン化で属人化を防ぐことができます。
新正堂が目指すべきは「部分標準化」です。
・素材準備
・包装・表示・出荷
→ 規格化・標準化
一方で、
・仕上げ
・最終判断
は職人の感覚を残す。
特にあんこの炊き上げについては、
糖分・水分・温度・湿度をデータ化し、
重回帰分析などで「炊き上げ時間の目安」を提示する仕組みも考えられます。
完全自動化ではなく、職人を支えるITです。
伝統を守るとは、変えないことではない
新正堂の事例が教えてくれるのは、
伝統を守るとは、変えないことではない。
変える覚悟を持つことだ。
切腹最中は、奇をてらった商品ではありません。
消費者視点で和菓子の価値を再定義した、極めて論理的な一手です。
伝統産業にこそ、
まだまだ伸びしろはあります。
その鍵は――
「誰のための価値か」を問い直すこと。
新正堂は、それを見事に体現した企業と言えるでしょう。
最後に、優先順位は明確です。
1. 伝える(SNS・ストーリー発信)
2. 生産工程の見える化
3. 切腹最中の購買データ分析
4. 法人需要への集中
5. その先に、海外展開
この順番を間違えなければ、新正堂はさらに強くなります。


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