建設業界、と聞くと何を思い浮かべるでしょうか。
- 長時間労働
- 職人依存
- 紙の図面
- 保守的で変わりにくい
そんな“よくある常識”を、静かに、でも確実に壊している会社があります。
山口県の配管製造会社、カワトTPC(1989年創業)。
この会社の面白さは、単に「樹脂配管がすごい」だけではありません。
技術、IT、組織づくりの3つが噛み合い、結果として“強い経営”になっている。ここが最大の学びです。
毎朝の掃除は、理念のスローガンではなく「経営の姿勢」だった
カワトTPCの社長は、毎朝掃除をするのが日課です。
見せるためでも、評価のためでもない。「会社は人が集まる場だから」という思想が、行動として表れているだけ。
山口県は男性が製紙大手に就職する傾向もあり、同社は3人に2人が女性という職場構成。
製造業では珍しいですが、だからこそ社長が強く意識しているのがこの問いです。
「親が、この会社に子どもを入れたいと思えるか」
建設業界で長時間労働が常態化し、家庭を犠牲にする働き方が多かった時代に、同社は働き方改革に踏み込み、労務環境の改善を進めてきました。
10年かけて認めさせた「樹脂製プレハブ配管」
カワトTPCの技術的な柱は、樹脂製のプレハブ配管システムです。
従来、マンションの給水管は金属が当たり前でした。
しかし金属には、錆びる・重い・施工が手間・経年劣化で漏れやすい、という課題があります。
同社の樹脂配管は、
- 漏れにくい
- 錆びない
- 軽い
- 耐久性とコストで優位
という合理性を持ちます。
ただし建設業界は保守的です。
認めてもらうまで10年かかった。ここがすごい。
「良いものを作れば売れる」ではなく、「良いことを理解してもらうまで粘る」。この粘りが、技術を“事業”に変えたのだと思います。
設計1時間半が10分に。AIで“設計の常識”も壊した
もう一つの強みが、設計業務のIT化です。
過去の設計図データを蓄積し、AIで類似事例をマッチング。
人がやるのは「ズレたところを補正する」だけ。
その結果、
- 設計時間:1時間半 → 10分以内
- コスト削減
- 人為ミスの削減
に繋がっています。
施工中の図面も紙ではなくタブレット。仕様書もデータ化し、誰が見ても同じ情報を共有できる。
これは単なる効率化ではなく、「属人化しない品質」の実装です。
部長も課長もいない。58人の社長がいる会社
カワトTPCには、部長・課長がいません。
5〜10人単位でグループを編成し、各グループに「社長」を置く。
決裁権や人事権まで与え、グループ運営を自律させる。
つまり、58人の社長がいる会社です。
責任と権限を現場に渡すことで、
- 自分で考える
- 助け合う
- 他責にしない
という文化が育つ。
理念ではなく、仕組みで“自律”を作っている点が本質だと感じます。
中小企業診断士としてのアドバイス
ここからは診断士としての視点で整理します。
カワトTPCの競争力は、次の三位一体で成立しています。
- 樹脂製プレハブ配管という技術的差別化
- AI・タブレット運用による圧倒的な生産性
- 58人社長の自律型組織による人材定着と現場力
今後はこの強みを「横に」「下に」「外に」広げ、事業基盤をさらに強固にする戦略が有効です。具体策は以下です。
1) 伝える(最優先:ブランド形成と採用・受注の強化)
まず最優先は「伝える」です。良い技術でも、伝わらなければ選ばれません。
発信は“ふわっと”ではなく、エビデンス型が刺さります。
- 金属配管 vs 樹脂配管の耐久性比較(腐食・漏水・メンテ頻度など)
- 施工工数の比較(人時)
- 工期短縮の実績(何日短縮できたか)
- ライフサイクルコスト比較(初期+維持+更新)
- 施工実績(どんな建物・どの規模・どの地域)
- 社長のストーリー(10年粘った理由、諦めなかった理由)
- 58人社長の活動事例(グループ運営の具体例、改善の成果)
- 社員の声(働き方改革で何が変わったか)
これをWeb・SNS・採用ページ・会社案内に統一して落とし込むことで、受注と採用の両方が強くなります。
2) 広げる(事業化:本業の強みを“サービス”に変える)
2-1) アフターサービスの事業化(マンション向け)
配管は「見えない不安」が価値になります。ここを収益化できます。
- 施工後の定期点検
- 更新提案(築年数・使用状況に応じた計画的提案)
- 配管状態のデータ管理(点検履歴、異常兆候の記録)
マンション管理会社・オーナー側の安心を売るモデルです。単発工事から、継続収益へ移行できます。
2-2) 上流〜下流の一貫サービス(付加価値アップ)
企画・設計段階から入り、施工〜品質保証まで一貫提供することで、価格競争から距離を取れます。
ただし本業の現場を圧迫しないために、専任グループを作り、責任分界点を明確にして進めることを勧めます。
2-3) IT仕組みの外販(サブスク化)
設計AIの仕組み・図面のタブレット運用・仕様書データ化は、同業者にも刺さります。
- 同業施工会社向けに「設計支援+図面運用」サブスク
- 導入研修(DXアカデミー)をセット化
- 組織運営(小集団)ノウハウのセミナー化
この外販は、本業と顧客が競合しにくい領域・地域に絞る設計が安全です。
3) IT化(深化:見積までAI活用)
現状の仕様書作成だけでなく、見積作成までAI活用を検討できます。
ただし“自動見積”ではなく、
- 類似案件からの概算自動算出
- 人が最終チェック・調整
という形が現実的です。標準部材・標準工程の整理(マスター整備)が前提になります。
4) 絞る(集中:ブランドの芯を太くする)
当面は「マンション工事向け配管」に特化し、ブランドを磨くのが得策です。
分散すると、強みが薄まります。
5) 川下(限定的:やるなら目的を明確に)
一般住宅向けの水回りリフォーム全般に手を出すのは勧めません。別世界のオペレーションになり、疲弊しやすいからです。
例外として、DIY上級者向けのプレハブ配管キットは「採用・ブランディング目的」で限定的に検討余地があります。
6) 海外(慎重:直接進出は避ける)
海外は、
- 商社経由
- OEM供給
- 日系顧客との連携
から始めるのが安全です。
代理店丸投げや製品単体輸出は、品質要求・施工品質・クレーム対応の観点でリスクが大きいので避けるべきです。
7) 優先順位(実行順)
- 伝える(エビデンス型発信で認知・採用・受注を強化)
- 一貫サービス/アフターサービスを別グループで事業化
- IT外販(同業者向けDXサブスク)
- 海外・一般消費者向けは将来テーマとして慎重に
8) 管理すべきKPI(定点観測)
- 営業利益率
- 事業別売上(施工/アフター/外販など)
- リピーター数・継続契約数
- 認知指標(問い合わせ数、SNSフォロワー、インプレッション)
- 施工人月単価
- IT化によるコスト削減率(設計時間短縮など)
まとめると、カワトTPCは「技術」「IT」「組織」を“別々に頑張る”のではなく、全部を一つの経営ストーリーにしている会社です。
だから強い。ここが最大の学びだと思います。


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