町工場と聞くと、こんなイメージを持つ人も多いかもしれません。
「下請けで価格交渉力が弱い」「人手不足で設備投資が難しい」「利益率は低く体力勝負」──。
しかし、アルミの販売加工を手がける町工場「マテリアル」は、その“常識”から明確に外れた道を選び、実際に伸びています。
その原点は、社長が若い頃に見た、ある光景でした。
- 経営者の決意|材料を売る側から「価値を生む側」へ
- マテリアルの強み|設備×人材×仕組みで「真似できない領域」を作る
- 中小企業診断士としてのアドバイス
- まとめ|「加工屋」から「価値創造業」へ
経営者の決意|材料を売る側から「価値を生む側」へ
社長はもともとアルミの販売会社で材料を売っていました。訪問先で目にしたのは、材料が加工されて驚くほどの付加価値を生む瞬間。
「100円の材料が、加工されて10万円の商品になっている」。
価値を生んでいるのは素材ではない。加工技術であり、設計であり、知恵であり、経験だ。
その確信が、26歳での独立につながります。加工と販売を一体で行う会社を立ち上げ、「強い町工場」を目指しました。
ただ、現実は簡単ではありません。元の会社との仕入制約などもあり、苦しい局面を何度も経験します。
決定打になったのは、ある大口顧客からの理不尽な値引き要求でした。
「海外製品の方が安い。そっちと付き合う条件として値下げしろ」。
ここで社長は腹を決めます。
「安さで勝負する町工場にはならない。機械も人も生産性も、徹底的に磨く」。
マテリアルの強み|設備×人材×仕組みで「真似できない領域」を作る
マテリアルの強みは、単に機械が良い、技術が高い、という話だけではありません。
設備・人材・仕組みを掛け合わせ、総合力として“真似できない領域”を作っている点が本質です。
1) 同時5軸加工と最新鋭設備を20台以上
同時5軸加工により、複雑形状・高精度加工の対応範囲が広い。さらに最新鋭の設備を複数保有し、大手に近い投資水準を町工場規模で実現しています。
2) 機械を「使いこなす」人材がいる
設備があっても、使いこなせなければ付加価値は出ません。マテリアルは基礎教育・勉強会・資格取得の啓蒙など、組織としてスキルアップの仕組みを持ち、最新鋭設備を操れる人材を育てています。
3) ワンストップ体制で提案できる
設計→加工→検査→販売まで一気通貫。素材特性も理解しているため、「この用途ならこの加工方法が最適」といった提案ができ、単なる加工受託ではない価値を出せます。
4) 在庫と現場の見える化でスピード対応
400種類以上の材料在庫を持ち、注文から加工までのタイムロスを削減。生産工程の各所に監視カメラを設置し、トラブル時の対応も速い。結果として短納期が実現し、精密機器から人工衛星関連まで幅広い案件を担える実行力につながっています。
中小企業診断士としてのアドバイス
全体評価|町工場の理想形に近い。次の壁は「仕組み化」と「利益構造」
マテリアルは、技術力・ワンストップ性・人材育成力という、本来は大企業が持つ強みを30人規模で実現している稀有な存在です。下請け構造に甘んじず、「選ばれる理由」を明確にしながら売上を伸ばしてきた点は高く評価できます。
一方で、成長すればするほど、次の課題が必ず表面化します。
・高難易度案件の増加に伴い、属人化や負荷集中が起きやすい
・案件が多様化すると、儲かる仕事と儲からない仕事が混ざり、忙しいのに利益が残らない状態に戻る
・データを使った生産性改善(工数、歩留まり、リードタイム、段取りなど)が体系化されないと、改善が“点”で終わる
結論として、次のステージは「強みを守る」から「強みを仕組みにする」段階です。強みがある今だからこそ、仕組み化・データ化・案件構成の最適化を先にやるべきです。
1) 伝える|「難しい加工の相談窓口」というポジションを取る
まず必須なのは、技術を“伝わる形”に翻訳し、相談の入口を作ることです。営業色を強く出すより、「困りごと解決の窓口」になる発想が重要です。
発信軸は、社長の経歴ストーリー、会社の実績、難加工の対応範囲、短納期の理由、ワンストップで何が嬉しいのか、など。
加えて、下町ボブスレープロジェクトなど、語れる物語は強い資産です。技術だけでなく“信頼”を伝える材料になります。
2) 広げる|アフターサービス(サブスク)と設計参画(コンサル)は必須施策
アフターサービス(サブスク)
精密機器など、定期点検や継続的な改善が必要な顧客は必ず存在します。加工したら終わりではなく、「長く使える状態を守る」支援に踏み込むことで、継続収益が生まれます。
継続収益があると、人材育成・設備投資・品質保証のコストを安定的に回せるようになります。高難易度領域は特に、継続収益の有無が経営の安定度を左右します。
企画・設計からの参画(コンサル)
加工の手前に入るほど、価格交渉力が上がります。加工しやすい設計、失敗しにくい設計、品質を出しやすい条件設定など、「作る前から価値を出す」領域です。
結果として、手戻り削減・リードタイム短縮・不良削減にもつながり、顧客側の開発効率も上がります。加工受託から“開発パートナー”へ近づく施策です。
アルミ端材の販売(ロス削減)
端材販売は利益額よりも思想が重要です。廃棄ロスを減らし、試作ニーズ(小ロット)を拾える。ECなどを活用して小さく始めれば、ブランドの幅も広がります。必須ではないが、取り組む価値が高い施策です。
3) IT化|「やらない選択肢がない」領域を先に固める
マテリアルのIT化は、挑戦ではなく必須インフラです。ここが弱いまま高難易度案件を増やすのは危険です。まずやるべきは見える化です。
- 工程別加工時間の可視化(リードタイム短縮とムダ削減の起点)
- 歩留まり率・不良率の把握(品質と利益率の両方に直結)
- 案件別利益率の算出(儲かる仕事/儲からない仕事の判別)
- 赤字案件の明確化→値上げ交渉の根拠化(加工時間を示す)
- 在庫管理の高度化→材種別回転率の改善(資金効率の改善)
将来的に、過去データを使った概算見積や、IoTによる故障予兆なども視野に入りますが、順番を間違えないことが重要です。まずは「工程」「品質」「採算」「在庫」を固める。これが経営の土台になります。
4) 組織改革|標準化と半完成品で「リードタイム」と「属人性」を下げる
高難易度加工は属人化しやすい。そこで、材料の標準化や半完成品の考え方(共通化できるところは共通化する)を取り入れると、段取り・手戻り・検査負荷が下がります。
「全部を標準化する」ではなく、「標準化できる部分を先に標準化する」。これが現実的で効果が出やすいです。
5) 絞る|最重要施策は「汎用加工から高難易度領域へ」
最重要施策は明確です。汎用加工は価格競争に陥りやすい。高難易度領域に絞り、強みが発揮できる案件比率を高めるべきです。
想定ターゲットは、試作開発、精密機器、医療機器、EV、産業機械など。
ただし汎用加工を一気にゼロにすると売上が立たなくなるリスクがあるため、段階的に比率を下げるのが現実解です。高難易度の実績が溜まった時点で、ブランドとして発信し、指名案件を増やす方向へ移行します。
6) 自社商品・海外|③まで回ってからの将来構想
自社商品(たとえば下町ボブスレープロジェクトの文脈で語れる商品)や海外展開は魅力的ですが、①〜③(伝える・IT化・広げる/絞る)が機能してからで十分です。
海外は直販ではなく、商社経由・海外展開する国内企業との連携が安全です。まずは実績づくりと品質保証の枠組みを固めることが先です。
7) 取り組み優先順位(順番が命)
- 伝える+IT化(生産・在庫・利益の見える化)
- 広げる(アフターサービス/設計コンサル)
- 絞る(高難易度領域へ集中)
- ブランド化・自社商品
- 海外展開(商社・連携から)
④⑤は、③までが回ってからで遅くありません。順番を守るほど、失敗確率が下がり、強みが積み上がります。
8) KPI設計|最重要KPIは利益率。その背景も含めて整理
この会社は設備投資と人材育成に強みがあります。だからこそ「忙しさ」ではなく「利益」を最重要KPIに置くべきです。高難易度案件は、売上が伸びても、工数・段取り・検査負荷が増えれば利益が出ません。利益率を起点に、工程・品質・在庫・認知を連動させて管理する必要があります。
- 最重要:利益率(案件別利益率、高付加価値領域利益率、汎用領域利益率、サブスク利益率、コンサル利益率)
- 工程:工程別リードタイム、段取り時間、工程別工数の標準値と実績値の差
- 品質:不良率、手戻り率、検査工数
- 在庫:在庫回転率(材種別)、滞留在庫比率
- 認知・営業:高難易度案件の問い合わせ数、リピーター率、SNSフォロワー数
- 人材育成:資格取得率、勉強会開催数、育成進捗(スキルマップの更新率)
このKPI群を「利益率→工程・品質→在庫→認知→人材育成」という因果で見ていくことで、強みが維持・強化され、安定成長につながります。
まとめ|「加工屋」から「価値創造業」へ
マテリアルはすでに、一般的な町工場の延長線上にはいません。
次の成長の鍵は、強みをさらに尖らせる「絞り込み」と、その前提となる「見える化(IT化)」、そして継続収益を生む「アフターサービス/設計参画」です。
強みがある今こそ、仕組み化に踏み込む。ここが、伸び続ける町工場と、忙しいだけの工場を分ける分岐点です。


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