KPIツリーを回していると、必ずぶつかる壁があります。
- 先行KPIは追っている
- 行動KPIも定義して、現場は動いている
- それでも、先行KPIがなかなか良くならない
この状態です。
このとき現場でよく起きる反応はこうです。
- 「じゃあ、行動をもっと増やそう」
- 「対象を広げよう」
- 「回数を倍にしよう」
しかし、ここで強く言いたい。
行動KPIが効かないときにやるべきことは、行動を増やすことではありません。
やるべきなのは、次の2つです。
- その行動が効く「条件」を見直す
- 効かなかったときの「撤退ライン」を決め直す
行動KPIが効かない典型ケース
例えば、こんなケースを考えます。
先行KPI
KM単価を上げたい
そのために定義した行動KPI
赤字車両5台に特定し、荷主交渉を実施
現場は動いた。交渉もした。
それでも、KM単価は改善しない。
さて、どうするか。
ここで「交渉対象を10台に増やそう」は、ほぼ失敗します。
理由は単純で、「この行動が、どんな条件のときに効くのか」を何も整理していないからです。
次の一手に使うスキルは「統計+生成AI」
この局面で使えるのが、統計と生成AIの組み合わせだと考えています。
わたしなら、次の手順を踏みます。
0.前提|数値と非数値を、ちゃんとデータとして持つ
まず前提です。以下の2種類のデータを、同じ土俵に載せます。
- 運行実績、収益実績などの数値データ
- 営業日報、交渉メモ、メール履歴、問い合わせ内容などの非数値データ
ここで重要なのは、非数値データも「事実として記録されていること」です。
記憶や印象は使いません。
① 生成AIで変数を“網羅的に”出す(探索)
最初にやるのは、仮説を絞ることではありません。
可能性を広げることです。
例えば、こんな問いを投げます。
過去の便単価交渉データにおいて、交渉後の便単価変化と一緒に変動した項目を重要度順に列挙せよ
すると、例えばこんな変数が出てきます。
- 距離
- 便数
- 売上構成比
- 荷主別売上順位
- スポット比率
- 再配車回数
- 遅延回数
- 問い合わせ件数
- 契約年数
人の頭だけでは出にくい切り口も含めて、一旦すべて出します。
この段階の生成AIの役割は、探索です。
② 統計で「効きそうな条件」をふるいにかける(スクリーニング)
次にやるのが統計です。
①で出した変数のうち、数値化できるものだけを使い、目的変数を「KM単価」として重回帰分析を行います。
ここでやりたいのは、これだけ。
- どの条件が、数字的に効いていそうか
- どの条件は、ほぼ関係なさそうか
きれいなモデルを作る必要はありません。むしろ現実は、
- サンプルが少ない
- 交互作用が多い
- ノイズが多い
のが当たり前です。
この段階は、スクリーニングに徹するのが実務解です。
③ 統計結果を、生成AIで“業務の言葉”に翻訳する(非数値と突き合わせる)
ここからが肝です。
統計結果だけでは現場は動きません。
交渉の成否には、
- 荷主の意思
- 関係性
- 代替可能性
といった非数値要素が強く効くからです。
だから、重回帰の結果をそのまま信じません。
代わりに、その結果を生成AIに渡し、非数値データと突き合わせて解釈させます。
ここでのポイントは1つ。生成AIには必ず制約をかけます。
- 入力したデータに含まれる情報のみを使う
- 一般論や推測は用いない
- 非数値データは、事実として記録されているもののみ考慮する
これをやらないと、
「関係性が弱かったのでは」「信頼不足だったのでは」
と推測が混ざります。
生成AIができること(正しい使い方)
例えば、こんな形で「業務の言葉」に翻訳できます。
- 便数が多いほど、交渉後の単価が維持・改善しやすい
- 売上構成比が高い荷主ほど、改善率が高い
- スポット比率が高いと、単価は悪化しやすい
さらに、改善ケースと悪化ケースを比較させると、条件の組み合わせが見えてきます。
改善パターン
- 便数:多い
- 売上構成比:高い
- 専属:あり
悪化パターン
- 便数:少ない
- スポット比率:高い
- 混載
行動KPIは「条件付き」に進化させる
ここまで来ると、次の一手は明確です。
もともとの行動KPIが、
赤字車両5台に特定し、荷主交渉
だったなら、こう変えます。
- 月15便未満 × 売上構成比下位30%の荷主:交渉対象から外す
- 月15便以上 × 売上構成比上位の荷主:優先交渉対象とする
つまり、行動を増やすのではなく、効く条件を付け足す。
同時に、撤退ラインも決めます。
- ◯ヶ月やって先行KPIが動かなければ撤退
- その場合は別の打ち手に切り替える
まとめ
行動KPIが効かないときにやることは、こう整理できます。
- ① 生成AI:変数の網羅的抽出(探索)
- ② 統計:数値変数の効き方の確認(スクリーニング)
- ③ 生成AI:数値結果の意味解釈/非数値データとの突き合わせ/パターン・境界の言語化
この①〜③の目的は、「正解の行動KPI」を出すことではありません。
行動KPIに条件と撤退ラインを与え、次の意思決定をしやすくすることです。
最後に判断するのは人です。
ただし、統計と生成AIを正しく使えば、その判断はかなり楽になります。

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