世界シェア6割の化粧筆ブランド・白鳳堂──熊野から世界へ羽ばたいた「筆づくり」の逆転物語

勝手に企業診断

広島県・熊野町。江戸時代から「筆の里」として知られるこの地で、世界中のプロメイクから支持される化粧筆メーカーがあります。

それが、1974年創業の化粧筆メーカー・白鳳堂です。

■ 国内で相手にされず、海外に活路を見いだしたスタート

創業当初、白鳳堂はまず日本国内に売り込みをかけました。しかし、商社経由でない中小メーカーという理由もあり、全く相手にされませんでした。

そこで経営者は発想を切り替えます。

「国内がダメなら、世界の化粧品メーカーに直接提案しよう」

海外の化粧品会社に自ら売り込みをかけ、OEM供給のチャンスを獲得。少しずつ採用が広がり、白鳳堂の名前は、国内ではなく先に海外で評価されていきました。

■ 3割が不良品。それでも「いいものを作るには当たり前」

品質にこだわる一方で、立ちはだかったのが歩留まりの悪さです。ある時期は、なんと全生産量の3割が不良品という状況でした。

しかし経営者は、これを単なるロスとは捉えませんでした。

「いいものを作ろうと思えば、このくらいの厳しさは当たり前」

土日もほとんど休まず、職人と共に改良を重ね続ける日々。

■ コロナで生産量4分の1、退職半数。それでも続けた「心のメイク」

コロナ禍で外出機会が一気に減り、メイク需要は激減。白鳳堂の化粧筆の生産本数も一時は4分の1にまで落ち込み、退職者も半数に及びました。

それでも白鳳堂は、化粧の意味をもう一度見つめ直します。

「メイクは誰かのためではなく、自分の心を整える行為でもある」

リモートワーク中でもメイクを続ける人たちから、「あなたの筆のおかげで、心の顔を保てています」「画面越しでも自分らしくいられる」といった声が寄せられ、白鳳堂は“心を支える道具”としての役割を再確認しました。「心の顔になれてありがとう」と言われることが喜び。

■ 白鳳堂の強み:熊野の伝統 × 特許技術 × 手仕事

白鳳堂の化粧筆が世界中に愛される理由は、単に歴史があるからではありません。

  • 世界シェア6割を誇る
  • ふわっとして肌に優しく、粉がなめらかにのる使用感
  • 一本一本を手作業と道具を組み合わせて作る職人技
  • 大量生産と高品質を両立する特許技術
  • 筆づくりの伝統が根づく熊野の技術基盤

その結果、現在では世界シェア6割とも言われる化粧筆メーカーに成長しています。

■ 逆転の発想:男性用化粧筆やニッチ用途への「絞り込み」

白鳳堂は、化粧=女性という固定観念にも縛られていません。近年では男性用化粧筆にも着目し、メンズ向けのアイテムも展開しています。

また、「アイラインをぼかす専用筆」のような、用途に特化したアイテム開発も実施。全方位ではなく、あえて“シーンを絞る”ことでブランドの存在感を高めています。

■ 診断士としての視点:これからの白鳳堂に期待したいポイント

1. OEM軸に加えて、自社ブランドの育成を強化する

これまでの成長はOEM供給が大きな支えでしたが、今後は白鳳堂ブランドそのものを育てるフェーズにあります。自社ブランド比率を高めるほど、利益率とブランド力は高まりやすくなります。

2. 伝える力の強化:ストーリーと体験でファンを増やす

  • 熊野の「筆の街」としてのストーリー発信
  • 筆づくりの工程や素材の違いを紹介するコンテンツ
  • 他社製品との違いを、肌当たりや発色などで比較して見せる
  • メンズメイクの使い方、シーン別の簡単メイク提案

例えば、「男性向け5分メイクレクチャー」や「オンラインで学べる筆の使い方講座」など、教育と体験を組み合わせたコンテンツは、メンズ市場拡大にも有効です。

3. 体験価値の提供:ワークショップや工場見学

  • 自分だけの化粧筆を作るワークショップ(持ち手選びや名入れなど)
  • 工場見学ツアーで職人技に触れてもらう機会づくり
  • ファンコミュニティを作り、製品アイデアや声を継続的に収集

「商品を売る」だけでなく、「体験を通じてブランドの世界観を伝える」ことが、ファン化とリピートの鍵になります。

4. 広げる:会員向けサブスクやセット提案

  • 年1回のメンテナンス・クリーニングサービス
  • 破損・毛抜けの補修サービスを含めた会員制度
  • 化粧品とのコラボによるスターターキット(特にメンズ向け)
  • 持ち手デザインや名入れをしたギフト向け限定シリーズ

単発購入ではなく、長く付き合ってもらう仕組みづくりがポイントです。

5. コラボ:プロメイクやアーティストとの連携

  • 有名メイクアップアーティストとのコラボシリーズ
  • イラストレーターやデザイナーとのアート性の高い限定筆
  • 伝統工芸と組み合わせた「見せる化粧筆」

機能だけでなく、「所有する喜び」を感じてもらうプロダクト設計が、海外市場でも強みになります。

6. 絞る:シーン別・ターゲット別のラインアップ

  • 医療・介護現場向けのやさしい肌当たりシリーズ
  • シニア向け、手元が見えにくくても使いやすい筆
  • アウトドア・スポーツ後の身だしなみ用アイテム

「誰に」「どんな場面で使ってほしいか」を明確にした商品開発は、ブランドストーリーとも整合しやすくなります。

7. 組織とIT:技術継承と品質管理の仕組み化

  • 職人技を動画やマニュアル(目視基準書)で見える化
  • 将来的な画像検査の導入など、検品の一部IT化
  • 工程ごとの基準値をデータで管理し、品質の安定性を高める

熊野発の技術を次世代に引き継ぐためにも、「暗黙知の形式知化」は避けて通れないテーマです。

■ まとめ:白鳳堂は「筆を売る会社」ではなく、「心を整える道具を届ける会社」

白鳳堂の歩みを振り返ると、単なる化粧筆メーカーという枠には収まりません。

国内で相手にされず、海外に活路を求めた決断。3割不良を受け入れてでも品質にこだわった姿勢。コロナ禍で「心のメイク」という価値を再確認した経験。

白鳳堂は、筆を通じて「自分らしさを取り戻す時間」を提供している企業だと言えます。

中小企業診断士の視点から見ても、

  • ブランドの物語性
  • 技術と伝統の融合
  • 体験・教育・コミュニティを重視するスタイル

こうした要素は、これからのものづくり企業が学ぶべきポイントが多く詰まっています。

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