職人技×データで挑む老舗ブラシメーカーの進化―「御用聞きにはなるな」と語る経営者の覚悟―

勝手に企業診断

1935年創業、従業員158名。
老舗ブラシメーカー・コーワは、戦後の高度成長期を支えた工業用ブラシの製造で知られる企業です。
しかし、かつては下請け中心の体質から抜け出せず、利益率の低い構造に苦しんでいました。

経営者の決意:多角化から原点回帰へ

現社長が就任した当初、会社は飲食業や温泉施設など、さまざまな事業に手を広げていました。
しかし、多角化の結果、バランスシートは悪化し、負債が膨らむという厳しい現実に直面します。

社長は「もう一度、ブラシの力で勝負する」と決断
方針を明確にし、得意分野に経営資源を集中させました。

強み:特許技術と“提案力”

コーワの最大の武器は、独自のブラシ技術と提案力。
全国で2,000社を超える取引先を持ち、洗車機・コインランドリーなど、多様な業界で採用されています。

特徴的なのは、営業スタイル。
「こんなの作ってみたけど、使ってもらえませんか?」と自ら提案していく姿勢。
社長の口ぐせは「御用聞きにはなるな」。
ただの受注生産ではなく、技術をベースに新しい用途を生み出す企業文化が根づいています。

自社ブランド:「ブラシ屋が作るほうき」

長年のブラシ技術を生かし、一般家庭向けに開発したのが「ブラシ屋が作るほうき」。
業務用掃除機は“壊れないこと”を優先するため吸引力が弱い。
その“当たり前の不満”に着目し、職人の技術で解決しました。

診断士としての視点:川下展開とデータ活用

今後の成長には、BtoBだけでなくBtoCへの展開が鍵になります。
具体的には以下の方向性が考えられます。

① 川下への展開(Web販売強化)

自社ECやSNSで販売するだけでなく、
「プロの厨房が使うブラシを家庭でも」など、使用シーンを伝える発信が効果的です。
家庭用エアコン清掃や掃除機メンテナンスなど、“プロ技術の一般化”をテーマにした情報発信(「プロが教えるエアコン・掃除機の簡単メンテナンス法」など)がブランド価値を高めます。

② 不の解消 × IT化(データ活用)

  • 納品時期・使用環境を考慮した“交換時期提案”
  • 用途・材質・使用頻度を加味した“最適ブラシ診断〜提案”
  • IoTセンサーによる摩耗度検知で清掃タイミングを自動提案

こうしたデータドリブンな仕組みが、取引先の維持・拡大につながります。

③ 自社商品の深化(用途特化)

ユーザーの「困りごと」を軸に、以下のような専用製品を企画できます。

  • アウトドア専用掃除機
  • お墓掃除用ほうき
  • 高齢者向け“軽い力で掃ける”ほうき
  • 食品工場・クリーンルーム用掃除機
  • 高所を掃除できる“回転ブラシ付きドローン”

④ ビジネスの広がり(コラボ・サブスク化)

  • 替えブラシ+デバイスの定期交換セット販売(サブスクモデル)
  • ロボットメーカーとの共同開発(清掃ロボット)
  • 素材メーカーとの連携したサステナブルな新商品開発(特殊繊維の開発)
  • デザイナーと組んだ“見せるブラシ”シリーズ

「掃除=面倒」から「掃除=スタイル」へと変える提案が期待できます。

おわりに

コーワの挑戦は、単なる老舗再生ではありません。
職人技にデータと発信力を掛け合わせ、“ブラシの可能性”を再定義する取り組みです。

中小製造業の未来は、「技術 × 企画 × データ活用」の三位一体にある。
その先駆けとなる企業の一つが、まさにこのコーワです。

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