宅配クリーニングを主軸に展開してきた東田クリーニング。一見すると成長が期待できるビジネスのように見えますが、実際のスタートは厳しいものでした。
なぜなら、競合が多く、価格競争も激しく、さらにクリーニング市場自体が右肩下がり。「良いサービスを作れば売れる」はずが、全く売れなかったのです。
会社としては「無駄を省く」「効率化する」という王道の改善策を試みました。しかし、結果は出ませんでした。どこまで効率化しても“他社と同じサービス”のままだったからです。
無駄を「やめる」のではなく、あえて「やる」
ここで東田クリーニングが選んだのは、真逆の戦略。「無駄なことを、あえてやる」=おせっかいサービスです。
- 毛玉取り
- 修理
- シミ抜き
これらを専門スタッフが無料で行います。普通なら追加料金を取りたいところですが、東田クリーニングは「お客様にとって一番うれしい体験とは何か?」を優先しました。
この“期待を超える一手間”が大きな信頼となり、口コミでファンが増加。結果、会員25万人、年間110万件の注文を生む大ヒットサービスに進化しました。逆転の発想ですね。
お客様の声を「仕組み」にする
東田クリーニングは、感覚でやっているわけではありません。しっかりとアンケートを取り、顧客満足度を数値化しています。
- どこに価値を感じているか
- どこが不満なのか
- もっとこうしてほしい
この声を分析し、サービス向上につなげる“PDCA型のおせっかい”。この徹底具合が、他社との圧倒的な差を生み出しています。
診断士として感じたポイント
この事例は、中小企業にとって非常に示唆に富んでいます。多くの会社は「効率化すれば利益が出る」と考えます。しかし、東田クリーニングは「手間をかけることでファンを作る」という逆転発想を取りました。
重要なのは「ムダなコスト」ではなく、「価値を生むコスト」に投資すること。さらに、その価値を“体験”としてお客様に届ける仕組みを作ったことです。
私ならこう提案する
ITを活用した価値向上
- Webアプリで「シミの場所」を撮影し、共有
- AIによるシミ種類の自動判定(人件費の削減)
- 会員の衣服情報や好みをデータ化
- 「そろそろコートの季節ですね」といったレコメンド
おせっかいとITは非常に相性が良いと感じます。
川下への展開
- ホテルや旅館との提携(「(チャネルを)広げる」)
- ビジネス服専門の高付加価値プラン(「(ターゲットを)絞る」)
- 月5点まで洗い放題のサブスク
- 出張クリーニングサービス(VIP向け)(「(商品・サービスメニューを)広げる」)
伝える力の強化
- SNSで「衣服の寿命を伸ばす方法」など専門性ある情報を発信
- おせっかい=“衣服の主治医”というブランドづくり
コラボ
- 百貨店でのクリーニング部門の運営
- リユースショップとの提携
- アパレルブランドと共同で「長持ちする服」を企画
まとめ
東田クリーニングの成功は、「効率」ではなく「愛情」でした。「お客様にとって何が一番喜ばれるか」を徹底的に考え、手間を惜しまず、期待を超える行動を続けた結果です。
一見すると非効率。しかし、その非効率に見える行動こそが、他社が真似できない圧倒的な武器になります。無駄の中にこそ、価値の源泉がある――この発想の転換が、停滞業界を突き破りました。


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