「儲からない。頭がおかしい」と言われた藁細工で、売上25倍――わらむに学ぶ衰退産業の再生

勝手に企業診断

「藁細工で会社をつくる」

そう言われたら、どう思うでしょうか。

成長市場でもない。

職人は減っている。

材料となる良質な稲藁の確保も簡単ではない。

ましてや今の暮らしで、

「藁細工を買いたい」

という人がどれくらいいるのか。

実際、創業するときには、

「藁細工なんて儲からない」

「衰退産業だ」

「頭がおかしい」

とまで言われたそうです。

ところが、その会社は創業後、売上を約25倍に伸ばします。

その会社が「わらむ」です。

私はこの会社を見て、

衰退産業とは、本当に需要がなくなった産業なのだろうか。

と考えさせられました。

もしかすると、

需要がなくなったのではなく、

昔の用途がなくなっただけ

なのかもしれません。

米俵を作れる人が、いなかった

わらむの始まりは、少し変わっています。

社長は若い頃、インドを旅行した際に体調を崩しました。

そのとき食べたご飯が、心の底からおいしかった。

力が湧いてくるように感じ、

「米に命を救われた」

と振り返っています。

その後、創業地である長野県飯島町で、米俵を担いで走る「米俵マラソン」で町おこしをしようとします。

ところが、問題が起きました。

米俵を作れる人がいない。

米はある。

藁もある。

でも、俵を作る技術を持つ人がいない。

そこで偶然知り合った米俵職人に弟子入りし、自ら技術を習得します。

無事に米俵マラソンは実現しました。

しかし、そこで別の問題に気づきます。

「この職人がいなくなったら、この技術もなくなるのではないか」

全国的にも藁細工職人は減っている。

技術を受け継ぐ人も少ない。

そこで勤めていた会社を辞め、2015年に藁細工の会社を立ち上げます。

儲かるから始めたのではなく、なくしたくないから始めた。

ここが、わらむの原点です。

ところが、伝統を守るだけでは会社は続かない

使命感だけでは、事業は続きません。

伝統を守るためにも、利益が必要です。

そこで、わらむが面白いのは、

昔の藁製品をそのまま作り続けるだけではなかったこと

です。

米俵だけではなく、

神社のしめ縄。

相撲の土俵。

「わらいずみ」という、おひつを保存する藁製のかご。

「レレレ」という、伝統的な意味を現代のインテリアに取り入れた商品。

藁という素材と技術は同じでも、用途を変えていきます。

現在では神社との取引も広がり、日本相撲協会から土俵づくりの依頼も受けています。

つまり、

伝統技術を守るために、伝統的な用途だけにこだわらなかった。

ここが重要だと思います。

「衰退産業」ではなく、「用途が古くなった産業」

昔、藁は生活の至るところにありました。

俵。

縄。

草履。

生活用品。

神事。

相撲。

しかし生活様式が変わり、多くの用途が失われました。

だから、

「藁細工産業が衰退した」

と考えたくなります。

でも、わらむの取り組みを見ると、別の見方ができます。

藁そのものの価値がなくなったわけではない。

自然素材。

日本文化。

手仕事。

縁起。

神事。

地域の物語。

こうした価値は、むしろ現代でも残っています。

だったら、

古くなった「用途」を現代に合わせて作り直せばいい。

つまり、

伝統 × 新用途

です。

これは藁細工に限らず、多くの伝統産業に使える考え方ではないでしょうか。

相撲協会から、突然オファーが来た

面白いのが、土俵づくりです。

米俵マラソンの取り組みが知られるようになり、その話が相撲関係者にも伝わります。

そして、

「土俵を作れないか」

という依頼につながりました。

最初から、

「相撲市場へ参入しよう」

とマーケティング戦略を立てていたわけではありません。

自分たちの技術を磨き、発信し続けていた結果、

顧客の側から新しい用途が持ち込まれた。

これは非常に興味深い。

新商品開発というと、

「会社が考えて市場へ出す」

と考えがちです。

しかし実際には、

顧客が、

「その技術、こんなことにも使えない?」

と用途を教えてくれることがあります。

つまり顧客との接点そのものが、

新用途を発見するセンサー

になるのです。

わらむが作っているのは、商品だけではない

ここまでなら、

「藁細工の用途開発に成功した会社」

です。

しかし、わらむの本当に面白いところは、その先にあります。

需要が増えても、作る人がいなければ売れません。

そこで「藁道場」という職人育成の仕組みをつくっています。

さらに、商品を作るには良質な稲藁が必要です。

そこで協力農家とのネットワークも広げています。

つまり、

売る商品をつくる。

だけではない。

作る職人も育てる。

材料を供給する農家も増やす。

ここまでやっている。

一般的な会社なら、

「市場がないから撤退する」

「職人がいないから作れない」

「材料がないから増産できない」

となりそうなところです。

わらむは逆です。

なければ、つくる。

需要もつくる。

供給もつくる。

会社を育てているというより、藁細工産業そのものを作り直そうとしている。

私は、ここがこの会社の本質だと思います。

耕作放棄地まで、事業の一部になる

さらに面白いのが、農業とのつながりです。

良質な稲藁の需要が増えれば、農家にとって藁そのものが収益源になります。

耕作放棄地を再び田んぼとして活用できれば、

農業。

地域。

伝統産業。

の再生にもつながります。

つまり、

藁細工が売れる
→
良質な藁が必要になる
→
農家に収益が生まれる
→
田んぼが維持される
→
職人の仕事が増える
→伝統技術が残る

という循環です。

社会課題の解決と経済活動がつながっています。

「伝統を守りましょう」

だけでは持続しない。

儲かるからこそ、伝統が残る。

これがソーシャルビジネスとして非常に重要なところだと思います。

この会社の強みは「藁細工技術」だけではない

わらむの強みを「優れた藁細工技術」とだけ捉えると、本質を見誤ります。

私なら、少なくとも四つに分けます。

一つ目は、もちろん藁細工の技術。

二つ目は、職人とのネットワークと育成の仕組み。

三つ目は、良質な稲藁を供給する農家との関係。

そして四つ目が、

藁の文化的価値を、新しい用途へ変換する力

です。

この四つが組み合わさるから、他社が簡単に真似できない。

特に、

農家→素材→職人→商品→顧客

までつながっていることが強い。

商品単体ではなく、

一つの生態系が競争力になっている

と見ることもできます。

次は「何でも作る」ではなく、「勝てる用途」を見つけたい

ここからは、私なら今後をどう考えるかです。

用途が増えるのは良いことですが、何でも作ればいいわけではありません。

商品数が増えれば、

製造。

在庫。

営業。

職人教育。

材料調達。

も複雑になります。

そこでまず、

商品別。

顧客別。

用途別。

に採算性を見たい。

例えば、

神社向け。

相撲向け。

個人向けインテリア。

飲食店向け。

宿泊施設向け。

それぞれについて、

売上だけではなく、

粗利、製作時間、必要な職人技能、継続性

まで見る。

そして、

「わらむの技術が強く、顧客ニーズも強く、利益も残る用途」

を重点領域として選ぶ。

100の用途を作るより、圧倒的に強い3つの用途を作る。

そんな考え方が必要だと思います。

体験イベントは「宣伝」だけではもったいない

藁細工の認知を高めるために、体験イベントを開くのも面白い。

特に、

日本文化に興味を持つ国内客。

訪日外国人。

若い世代。

との接点になります。

ただ、イベントを単なるPRで終わらせるのはもったいない。

参加者に、

「藁細工をどこで使いたいですか?」

「どの商品が欲しいですか?」

「自宅、店舗、ホテルなら、どんな使い方をしたいですか?」

と聞く。

すると、

体験イベントそのものが新用途を探す市場調査

になります。

さらに、

誰が。

何に興味を持ち。

どんな用途を考え。

いくらなら買いたいのか。

まで蓄積すれば、次の商品開発につながります。

神社や相撲協会は「売った後」が重要

もう一つ重要なのが既存顧客です。

神社や相撲関係など、すでに築いた顧客との関係は大きな資産です。

一度納品して終わりではなく、

交換。

補修。

定期的な作り替え。

新しい用途。

関連施設への紹介。

など、長期的な関係をつくれる可能性があります。

特に伝統文化の世界では、価格だけで取引先を簡単に変えるとは限りません。

技術への信頼。

品質。

文化への理解。

人間関係。

が重要になる。

だからこそ、

「売上を増やす」より、「信頼される領域を深くする」

ほうが、安定収益につながる可能性があります。

海外展開より先に、「外国人が何に価値を感じるか」を知る

長期では海外市場も考えられます。

日本文化。

神道。

相撲。

自然素材。

職人技。

こうしたものに関心を持つ海外顧客はいるでしょう。

ただ、

「日本文化だから海外で売れる」

と考えるのは少し危険です。

まず国内のインバウンド客との接点を使って、

何に興味を持つのか。

神聖性なのか。

デザインなのか。

自然素材なのか。

職人技なのか。

ストーリーなのか。

を知る。

そして実際に購入された用途から、小さく海外販売を試す。

海外へ行く前に、海外顧客を国内で知る。

この順番のほうが、わらむには合っているように思います。

伝統産業を守る一番の方法は、「昔のまま守らない」こと

わらむを見ていて、最も考えさせられたのはここです。

伝統を守るというと、

昔と同じものを。

昔と同じ方法で。

昔と同じ用途に。

作り続けることだと思いがちです。

でも、それでは需要がなくなれば産業も消えてしまいます。

わらむがやっているのは逆です。

技術は守る。
用途は変える。

さらに、

職人がいなければ育てる。

材料が足りなければ農家を増やす。

顧客がいなければ新しい用途を探す。

つまり、

守るべきものと、変えるべきものを分けている。

ここに衰退産業を再生するヒントがあるように思います。

衰退産業とは、「未来がない産業」ではない

創業当初、

「儲からない」

「衰退産業だ」

「頭がおかしい」

と言われた藁細工。

しかし現在、わらむには年間30万個を超える引き合いがあるといいます。

なぜでしょう。

藁細工の市場が突然昔に戻ったわけではありません。

現代に必要とされる新しい用途をつくったからです。

そして需要だけではなく、

職人。

農家。

素材。

まで同時につくり直している。

だから私は、わらむを単なる「伝統工芸を守る会社」とは見ません。

目指しているのは、その先です。

衰退しかけた藁産業そのものを、もう一度「稼げる産業」として組み直すこと。

伝統を未来へ残すために、

昔のまま残そうとしない。

伝統 × 新用途 × 職人育成 × 農業

によって、新しい経済の循環をつくる。

「衰退産業」と呼ばれる世界にも、まだ誰も気づいていない市場がある。

わらむの挑戦を見ていると、そんなことを感じます。

コメント

にほんブログ村 経営ブログへ
にほんブログ村