企業分析の型ができた。でも、その型が邪魔をする瞬間もある

基本設定

企業分析を続けていると、少しずつ自分なりの「型」ができてくる。

その会社は何者なのか。

どう変わってきたのか。

何が強みなのか。

どこに成長のボトルネックがあるのか。

どのKPIを動かせば利益につながるのか。

以前より、こうしたことはかなり整理して考えられるようになってきた。

最近では、

「この会社は何を売っているのか」ではなく、「何者から何者へ変わったのか」

を見ることも増えた。

例えば、サイエンス。

単なるファインバブル技術の会社ではない。

顧客の困りごとに合わせて技術の用途を設計し、新しい市場を作る会社へ変わってきた。

ハル・インダストリもそうだ。

単なる消臭剤メーカーではなく、

BtoC中心からへBtoBに広がることで、消費者のリアルな困りごとを直接拾い、商品開発へつなげる会社へ変化した。

こうした「構造の変化」を見ることは、かなり自分の分析の軸になってきた。

ただ最近、もう一つ分かったことがある。

型を持つようになると、今度はその型に引っ張られる。

これは結構怖い。

分析が上達すると、「正しそうな答え」が早く出る

企業をたくさん見ていると、

「これはあのパターンだな」

と早く判断できるようになる。

例えば、

個別対応が多い。

設計をパターン化する。

セミオーダー化する。

属人化している。

標準化する。

単発売切り。

LTVを高める。

市場が限られている。

海外展開する。

どれも間違いではない。

実際、過去の企業では有効だった。

問題は、

有効だった型を、別の会社にもそのまま当てはめたくなること

である。

サイエンスに「セミオーダー化」は本当に必要だったのか

サイエンスを分析したとき、私は中長期戦略として、

設計データを蓄積し、

パターン化し、

セミオーダー化する。

という案を考えた。

これまで製造業を分析する中では、かなり使える考え方だった。

個別設計を減らす。

設計工数を抑える。

過去の案件を再利用する。

生産性が上がる。

理屈としてはきれいである。

しかし、よく考えるとサイエンスの大きな強みは、

標準化した商品を大量市場へ広げたこと

でもある。

シャワーヘッドは累計175万本。

ここで本当に、

「もっと個別対応できる会社へ」

進むべきなのか。

もしかすると逆である。

むしろ、

勝てる用途を見つけ、標準商品として徹底的に市場を取る

ほうが、この会社らしいかもしれない。

ここで私は、

「セミオーダー化」という手段を、

いつの間にか目的のように扱っていた。

「使えるフレーム」と「使うべきフレーム」は違う

これは企業分析を続けるうえで、かなり重要な気づきだった。

フレームワークは便利である。

ただ、

使えるから使う

ではダメなのだと思う。

必要なのは、

「この会社に本当に必要なのか」

である。

例えばセミオーダー化。

個別設計負荷が利益を圧迫している会社なら有効である。

しかし、標準品を大量販売できる会社なら、

わざわざ複雑性を増やす必要はない。

サブスクも同じ。

海外展開も同じ。

コミュニティも同じ。

AIも同じ。

良い施策だから提案するのではない。

その会社の勝ち筋を強くするから提案する。

順番を間違えないことが大切である。

長期戦略になると、なぜか遠くへ行きたくなる

もう一つ、自分の癖として見えてきたのが、

長期戦略を考えると、急に話を大きくしたくなることだ。

海外。

宇宙。

新市場。

新規事業。

プラットフォーム。

長期なのだから大きく考えなければ、という気持ちになる。

サイエンスでも、

介護。

医療。

災害。

宇宙。

と、用途をどんどん広げて考えた。

ハル・インダストリでも、

国内でブランドを作ったら次は海外へ。

と考えた。

しかし、従業員50人前後の企業に、

「あれもこれも」

は現実的ではない。

人も資金も時間も有限である。

「広げる」より、「一つを深く掘る」

最近は、長期戦略の考え方を少し変えたほうがよいと思っている。

横へ広げる前に、

一つの用途を深く掘る。

例えばハル・インダストリ。

「海外展開」より先に、

仮にペット臭が強い用途だったなら、

家庭のペット飼育者向け。

ペットホテル。

動物病院。

大型施設。

定期補充。

自動消臭。

まで同じ「ペット臭」という課題で掘っていく。

これなら、

商品が変わっても、

顧客の困りごとは同じである。

営業ノウハウ。

事例。

顧客データ。

商品開発ノウハウ。

が蓄積される。

サイエンスなら、

「介護入浴」

という一つの用途を、

家庭。

介護施設。

入浴設備。

保守。

ノズル交換。

系列施設展開。

まで掘る。

こうすれば、

用途そのものが事業になる。

単なる商品販売より、はるかに強い。

長期戦略は「水平展開」より「垂直深耕」

この考え方は、自分の中ではかなりしっくりきている。

今までは、

商品Aが売れた。

商品B。

海外。

別市場。

と横へ広げることが多かった。

これからは、

一つの困りごとを、どこまで深く解決できるか

を見る。

製品販売。

導入支援。

設計。

教育。

保守。

交換。

データ分析。

追加提案。

こうして一つの顧客課題を縦に掘る。

これなら、

単なる商品メーカーから、

課題解決のソリューション会社

へ進める可能性がある。

しかも、現在の強みから地続きである。

KPIも「結果」ではなく「流れ」を見る

KPIについても、まだ癖がある。

例えば、

LTV上位顧客売上額。

高粗利商品数。

若手単独工程完了率。

こうした数字を置くことがある。

ただ、これらは必ずしも現場が直接動かせるわけではない。

例えば、

「若手単独工程完了率が上がった」

からといって、

利益が上がるとは限らない。

売れない商品を大量に作れば、生産性は上がっても利益は出ない。

つまり、

因果が少し遠い。

KPIは「この数字が動いたら、次は本当に動くか」で見る

最近はKPIを考えるとき、

一つずつ矢印を疑う必要があると思っている。

例えば、

若手単独工程完了率

一人当たり付加価値

ではなく、

若手単独工程完了率

一人当たりの商品改善・開発件数

採用商品数

高収益商品の売上

一人当たり付加価値

くらいまで分解する。

すると、

どこで止まっているのかが分かる。

単独で作れる。

でも商品化されない。

商品化される。

でも売れない。

売れる。

でも粗利が低い。

こうした違いが見える。

KPIは数字を並べることではなく、事業の因果を可視化すること

なのだと思う。

「持っている数」より「動いている流れ」

KPIにはもう一つ意識したいことがある。

名詞を減らすことである。

商品数。

顧客数。

DB登録数。

標準化率。

もちろん必要な指標ではある。

しかし、それだけでは、

「今日、何をすればいいのか」

が見えにくい。

そこで、

体験→商談転換率。

顧客の声→試作化率。

試作→商品化率。

商品化→初回購入率。

初回購入→リピート率。

といった、

流れを示す数字

を見る。

企業活動は静止画ではない。

毎日、

顧客が来る。

話を聞く。

提案する。

試作する。

売る。

改善する。

その動きがどこで詰まっているかを見るほうが、KPIとしては使いやすい。

創業者の「勘」を、会社の仕組みに変える

一方で、自分の分析で今後さらに伸ばせそうだと思うテーマもある。

それが、

顧客の声から用途を見つける仕組み

である。

成長企業を見ていると、優れた経営者は非常に感度が高い。

何気ない顧客の一言から、

「あれ、これ売れるんじゃないか」

と気づく。

しかし、この「野生の勘」を創業者だけに依存すると、会社の能力にはならない。

そこで、

顧客の声を収集する。

用途別に分類する。

購買データと照合する。

有望用途を選ぶ。

小さく試す。

販売結果を見て投資判断する。

という仕組みに変える。

例えばハル・インダストリなら、

誰が。

どんな臭いに困っていて。

どこで使い。

どの商品を買い。

どれくらいリピートし。

どの程度利益が出ているか。

まで結びつける。

すると、

声が多いだけの用途と、

本当に投資すべき用途を区別できる。

これはかなり強い経営資産になると思う。

「100の用途」ではなく、「勝てる3つ」を選ぶ

用途開発も、数を増やせばいいわけではない。

100種類の商品を作れば、SKUが増える。

在庫が増える。

営業説明が複雑になる。

生産も複雑になる。

現場が疲弊する。

だから必要なのは、

市場規模 × 収益性 × 技術優位性

で評価することだと思う。

そして、

「この3用途では絶対に勝つ」

という領域を決める。

あとは、その用途の中を深く掘る。

これは自分の企業分析に、今まで少し足りなかった視点かもしれない。

型を持つことと、型に縛られることは違う

企業分析を始めたころは、

「どう考えればいいか分からない」

ことが多かった。

今は、

ある程度の型ができた。

構造の変遷。

強み。

課題。

勝ち筋。

短期・中期・長期。

KPIツリー。

この型は、かなり役に立っている。

ただ次の段階では、

型を使うだけでは足りない。

「今回は、この型を使わないほうがいいのではないか」

と疑う必要がある。

セミオーダー化が本当に必要か。

LTVを伸ばす必要が本当にあるか。

海外へ行く必要があるか。

商品を増やす必要があるか。

標準化したほうが本当に儲かるのか。

その会社ごとに、一度立ち止まる。

企業分析の次のテーマは「深さ」かもしれない

最近の自分の課題を一言でまとめると、

「広げるより、深く掘る」

なのかもしれない。

戦略も。

用途も。

KPIも。

顧客関係も。

新しいものを追加するのではなく、

今ある強みを、

どこまで深く使えるのかを見る。

そして、

「なぜこの施策なのか」

「なぜこのKPIなのか」

「なぜこの市場なのか」

を一段ずつ確認する。

企業の可能性を物語として描く。

それをKPIで数字へ落とす。

ここまでは少しずつできるようになってきた。

次は、

その物語が本当に地続きなのかを、冷静に疑うこと。

型を覚えた次は、型を疑う。

企業分析も、また一段面白くなってきた。

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