わたし(中小企業診断士)が書く「診断記事」。
この言葉を聞いて、企業紹介や成功事例、よくできた経営レポートを思い浮かべる人は多い。
だが、ここで一度はっきりさせておきたい。
診断記事は、会社を褒めるための文章ではない。
成功を美しくまとめるための文章でもない。
診断記事の目的は、ただ一つ。
経営者の意思と事業構造を、皆が共有できる「思考ドキュメント」に変換すること。
診断記事を書く前提条件
まず、前提を共有したい。
このスタンスに立てないなら、そもそも診断記事を書くべきではない。
- 正解を出そうとしない
- 未来を断定しない
- 施策を盛らない
- 経営者の代弁者にならない
診断記事とは何か。
「経営者の覚悟を、構造に翻訳した記録」
診断記事は「結論」を書くものではない
診断記事の価値は、
「この会社は◯◯をやるべきだ」
という結論にはない。
価値があるのは、
- なぜ、その選択肢が生まれたのか
- なぜ、別の選択肢を取らなかったのか
という判断の軌跡にある。
診断士は未来を予言する立場ではない。
意思決定の前段にある「思考の足場」を整える立場だ。
やってはいけない診断記事
以下に当てはまる記事は、率直に言って失格だ。
- 沿革が時系列で長々と続く
- 「強み・課題・施策」がテンプレ表現
- 理由もなくBtoC、海外、DXが出てくる
- KPIツリーが施策の箇条書きになっている
それは診断記事ではない。
ただの感想文だ。
診断記事の基本構造(型)
診断記事は、必ず次の5要素で構成する。
- 企業の外形情報
- 経営者の決意
- 事業・技術・構造の整理
- 環境変化との接続
- 診断士としての示唆
順番には意味がある。
この順序を崩すと、記事は一気に浅くなる。
各パートの実務的な書き方
① 企業の外形情報
目的は、会社を紹介することではない。
制約条件を読者と共有するために書く。
書くのはこれだけでいい。
- 業種
- 創業年
- 従業員規模
重要なのは、
「このサイズ感で、この意思決定をしている」
という前提を作ることだ。
② 経営者の決意
最重要パート。ここが弱い診断記事は、例外なく失敗している。
探すべきは、感動話ではない。
- 危機
- 違和感
- 覚悟
判断の起点を書く。
良い例
- 市場が縮小する中で、何を捨てたか
- 誰に反対され、何を選んだか
悪い例
- 社員を大切にしたい
- 地域に貢献したい
それは意思ではなく、願望だ。
③ 事業・技術・強みの構造整理
ここで「すごい」を書いてはいけない。
書くのは、なぜ成立しているのか。
- どの固定費を、何で回収しているか
- 強みは、技術か、構造か、関係性か
- 再現できない要素は何か
強みは単体では存在しない。
必ず前提条件とセットで書く。
④ 環境変化との接続
外部環境を書く目的は一つ。
経営者の決意が、合理的に見えるかどうか。
市場縮小、顧客変化、制度変化。全部はいらない。
この会社にだけ効いてくる変化を、1〜2点に絞る。
PEST分析は不要。一般論は思考停止だ。
⑤ 診断士としての示唆
ここで初めて、診断士の言葉を書く。
- 経営者の意思を否定しない
- 構造的に成立するかを整理する
「やるべき」ではなく、
「この前提が成立するなら、選択肢になる」と書く。
短期・中期・長期に分け、確度の違いを明示する。
KPIツリーの正しい使い方
KPIツリーは、結論ではない。
- 施策の正しさを証明するものでもない
- 将来を約束するものでもない
思考の因果関係を、後から検証可能にするための図だ。
正しい順序はこれだけ。
- 施策仮説
- 因果の整理
- KPIの仮置き
- 後で検証する前提の明示
KGIは最初に置かなくていい。結果指標は、最後に置く。
実例解説で本当に大事なこと
完成記事だけを見せても、人は育たない。
必ず書くべきは、裏側だ。
- なぜ、この切り口を選んだか
- 書かなかった施策案
- あえて曖昧に残した理由
思考の痕跡こそが、最大の価値になる。
診断士としてのスタンス(わたし流)
- 決断しない
- 責任を取らない
- だが、思考から逃げない
データは武器ではない。
経営者が自分で決めるための補助線だ。
分かった気にさせる資料ほど、危険なものはない。

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