1956年創業の金属加工会社・佐藤製作所は、かつて“典型的な町工場の限界”に直面していました。高齢化、人手不足、10年連続赤字。誰もが「このままでは終わる」と感じる状況でした。
しかし今、この会社はまったく違う景色を見ています。従業員16名のうち半数以上が20代、取引先も5社から500社へと100倍に増加。さらに「勇気ある経営大賞」を受賞するほどの注目企業へ成長しました。
■ 崖っぷちの町工場を変えた、社長の覚悟
社長が就任した当時、工場には暗い空気が漂っていました。
- 高齢化が進み若手が来ない
- 入ってもすぐ辞める
- 10年連続赤字
- 退職者続出
- 「若い人は来ない」と役員の諦めムード
しかし社長は、ここで踏みとどまりました。
「若手が来ないんじゃない。来たくなる会社になっていないだけだ。」
昼は外部の勉強会、夜は工場。寝る間も惜しんで学びと改革を続け、会社の体質改善に乗り出しました。
■ 若手が集まりだす組織に──“風土づくり”から始めた改革
社長が行ったのは、高度な改革ではありません。地味で、しかし最も本質的な“文化の再構築”でした。
- 意見を言いやすい風土の整備
- 若手とベテランの気づきを共有する場づくり
- 社長が“ハブ役”となり橋渡し
- 学生への技術紹介(採用ブランディング)
その結果、若手から「ここで働きたい」という声が増え、今では20代が半数以上を占める会社に生まれ変わりました。
■ 世界レベルの技術──銀ロウ付けの希少性
同社の最大の武器が、高精度な銀ロウ付けという接合技術。衛星通信や精密医療機器に使われるほどの技術レベルで、対応できる会社は全国でもごくわずか。
さらに、同社は接合強度だけでなく「見た目の美しさ」にもこだわります。これは人の手と職人の感性が必要な領域で、競合優位性の源泉となっています。
そして、大手が嫌がる少量多品種の試作品にも柔軟に対応できることから、取引先は5社 → 500社へと急増しました。
■ 組織改革:若手が育ち、ベテランが活きる工場へ
技術だけでなく、組織にも変革が起きています。
- 若手は日報を提出、社長が毎日コメント
- ベテランから若手への技術継承をルール化
- コミュニケーションが増え、現場に活気
ベテランが誇りを取り戻し、若手が成長し、工場全体が「楽しんで挑戦する空気」に包まれています。
■ 診断士としての視点:ここから伸びる成長戦略
① 伝える力の強化(技術 × ストーリー × エビデンス)
- SNSで銀ロウ付けの仕組み・強みを見せる
- 他部材を使った接合方法(溶接・はんだ)との比較データを提示
- 技術ブログや製造工程の動画公開(動画は従業員の技術継承にも利用する)
② IT化による原価管理・工程管理の効率化
- 原価マスターの整備(工数、原価をパターン化)で見積り精度を向上+スピードアップ
- 在庫管理のIT化
- 工数・治具などの標準化
- 500社の取引先をCRMで分類し重点営業
③ 広げる(不の解消):接合の無料診断サービス
「接合で困っているメーカー」向けに、以下を入口にする戦略。
- 接合課題の無料診断
- 試作・設計段階でのアドバイス
- 接合技術に関する勉強会の実施
④ 若手主体の自社商品開発
- 医療・介護用品
- アウトドアギア
- 高耐久の小物パーツ
⑤ コラボによる地域連携
- 町工場同士の共同プロジェクト
- 地域×技術のブランディング
■ まとめ:町工場は“人が変わる”と生まれ変わる
佐藤製作所の再生は、「技術」よりも「組織づくり」が先にあったという点で象徴的です。
若手が挑戦し、ベテランが技術を伝え、社長が学び続ける。 その結果が、若手比率50%、取引先100倍、賞を獲得する町工場という形になって表れています。
町工場の未来は、決して暗くない。 むしろ「変われる余白」が最も大きい領域です。
佐藤製作所は、その希望を示す企業と言えるでしょう。


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