薄利多売をやめた瞬間、物置は「庭の主役」になった──フジ産業の逆転戦略

勝手に企業診断

物置と聞くと、「地味」「安い」「どれも同じ」というイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし、その常識をひっくり返した企業があります。

1975年創業、従業員約140人の物置メーカー、フジ産業。かつては大手メーカーの代理店にすぎなかった同社が、今では「庭に置きたくなる物置ブランド」を展開するメーカーへと変貌しています。


代理店ビジネスの限界から、自社ブランドメーカーへ

創業当初、フジ産業は大手物置メーカーの代理店としてスタートしました。しかし、そのビジネスモデルには深刻な課題がありました。

  • 代理店同士の値引き競争
  • ホームセンターからの強い値引き要請
  • 薄利多売で利益が残らない構造

「このままでは未来がない」。そう感じた社長は、大きな決断を下します。

お客様の庭に立つ「一番の物置」を目指そう。代理店ではなく、自社ブランドの物置メーカーとして勝負する。

この方針転換により、フジ産業はホームセンターとの取引を半分に減らし、代理店も絞り込み、自社ブランドに集中する戦略へ大きく舵を切りました。


フジ産業の強み:デザイン力と自社一貫体制

フジ産業の最大の強みは、社長のリーダーシップとデザイン力です。

従来の「四角くて地味な物置」から一歩踏み出し、

  • 三角屋根の物置
  • ウッド調の外観
  • 模様や質感にこだわったデザイン

といった、他社にはないデザイン性の高い物置を次々と開発してきました。

さらに、

  • 自社配送
  • 自社組み立て

を行う体制を持っているため、品質面でも安心感があります。結果として、現在の売上の約7割は自社ブランド商品が占めるまでになりました。

価格帯としては決して安くはありませんが、「デザイン性」と「耐久性」の両立により、お客様から高く評価されています。中には、フジ産業の物置のために庭づくりを考えるファンもいるほどです。


展示場とファンの存在

フジ産業には自社展示場があり、実物を見て触れることができる場を用意しています。カタログやネットの写真だけでは伝わりにくい質感や存在感を、実際の庭のイメージと重ねながら体験できることが、ファンづくりにつながっています。

また、SNSでは約27,000人のフォロワーがおり、自社ブランドの物置に共感する人たちが集まっています。物置というニッチな領域でこれだけのフォロワーを持つこと自体が、ブランド力の証と言えるでしょう。


診断士としての視点:フジ産業の「これからの伸びしろ」

ここからは、中小企業診断士としての提案です。フジ産業には、さらに成長できる余地がいくつもあります。

1.IT化による在庫・生産管理の高度化

おそらく松本物置さんの物置は、サイズや色、屋根の形状などバリエーションが多く、半完成品や部材の管理が複雑になりがちです。そのため、

  • 半完成品の在庫管理
  • 部材の共通化と標準化
  • 受注から生産(受注生産へのシフト)、組立・配送までの一気通貫の生産管理
  • 受注生産(MTO)へのシフト

といったIT化・システム化を進めることで、業務効率の向上やミス削減、リードタイム短縮が期待できます。


2.伝える力の強化:ファンとの接点づくり

すでにSNSで多くのフォロワーを持つフジ産業ですが、今後さらにブランド力を高める余地があります。例えば、次のような取り組みが考えられます(現時点では提案レベル)。

  • 収納アイデアや庭の活用方法の情報発信
  • ファン向けイベント(収納講座、庭づくりワークショップなど)の開催
  • 物置ユーザーとの共同企画やモニタープログラム

物置を単なる「収納箱」ではなく、「暮らしを楽しむための屋外空間の一部」として伝えていくことが、今後のブランドづくりの鍵になります。


3.広げる:屋外空間のトータルブランドへ

フジ産業の物置は、すでに庭の主役級の存在感を持っています。ここからさらに一歩進めるなら、「屋外空間のトータルブランド」を目指す方向性が考えられます。

  • 年次メンテナンスサービス(サブスク型)
  • 雪害・台風などの屋外保証サービス(損保との連携)
  • 物置と一緒に設置しやすいポストや宅配ボックス、ベンチ、テーブル、デッキチェアなどのガーデン家具
  • テラスやアウトドアキッチンとのセット提案(コラボしてもよい)

物置単体ではなく、「庭全体の価値をデザインする」視点を持つことで、客単価の向上とリピート購入の仕組み作りが可能になります。


4.海外展開:国ごとのニーズに合わせたブランドづくり

フジ産業は「MONOOKI」という名称で海外展開も視野に入れています。物置は、国や地域によって求められる条件が大きく異なります

  • 北米:大型で芝刈り機や工具を収納できるサイズ
  • 欧州:庭との調和を重視したデザイン性
  • 中東:高温環境に耐えられる仕様
  • 豪州:紫外線対策(UV仕様)

こうした違いを踏まえ、国ごとに最適化した物置ラインナップやブランド展開を行うことで、「世界の庭に最適な物置ブランド」としてのポジションを確立できる可能性があります。


5.組織改革:社長依存からの脱却

現在のフジ産業は、社長のデザイン力とリーダーシップに支えられている側面が大きいと考えられます。今後の持続的成長のためには、社長依存を和らげ、組織としてブランド力を維持・進化させる仕組みが重要です。

  • デザイン基準書の作成
  • 若手デザイナーや設計者の育成プログラム
  • 施工品質を担保する施工認定制度
  • ノウハウの動画化・マニュアル化による属人化解消

こうした取り組みによって、フジ産業の「らしさ」を組織全体で再現できるようになれば、ブランドとしての強さはさらに増していきます。


まとめ:物置ではなく、「庭の価値」を作る会社へ

フジ産業の歩みは、単なる物置メーカーの話ではありません。

代理店として薄利多売の世界にいた企業が、自社ブランドへの転換を決意し、デザインと品質で勝負することで、価格競争から抜け出していったストーリーです。

この事例が教えてくれるのは、

「モノそのものではなく、そのモノが支える暮らしの価値を提供できるかどうか」

という視点の重要性です。

物置を「庭の主役」に変えたフジ産業の挑戦は、今後も多くの中小企業にとってヒントになるはずです。

コメント