中国産わかめの流入。価格競争。産地偽装。そして、海そのものの変化。水産業の現場に近いほど「この先は厳しい」と肌で感じてきたはずです。鳴門でわかめ養殖・加工を営む「うずしお食品」も、例外ではありませんでした。
売上が3分の1に落ちた日から、10年以上の我慢
1977年創業。鳴門の海で、肉厚で香りの強いわかめを育ててきた同社は、1990年代後半に大きな転機を迎えます。1997年、売上は1992年比で3分の1に急落。中国産の大量流入で価格が崩れ、さらに他社による中国産の鳴門産偽装が追い打ちをかけました。「真面目にやっているほど損をする」——市場にそんな空気が漂った時期です。
それでも踏みとどまり、10年以上、耐え続けた。この「耐える力」こそが後の強みになります。なぜなら、事業の芯(品質と信頼)を折らなかった会社だけが、その後の市場変化で再浮上できるからです。
パッケージ化への挑戦と、1か月で起きたクレーム
ある日、取引先から「パッケージ詰めでやってみないか?」と声がかかります。それまでの業務は、茹でて塩を混ぜ、業務用として出荷するところまで。最終製品に近づくのは初めての挑戦でした。
結果は厳しいものでした。1か月で7〜8件のクレーム。原因は品質管理の甘さで、海老などの異物混入。ここで社長は腹をくくります。「このままでは海外展開どころか国内でも生き残れない」。
品質管理を「コスト」ではなく「未来への投資」に変えた決断
同社は食品安全マネジメントシステムを取得。小規模企業にとって、手間もコストも重い選択です。しかしこの決断が、単なる「おいしい」から「語れる品質」へと会社を押し上げます。
- 異物混入を防ぐ工程設計
- トレーサビリティの確保
- 安全性を説明できる体制
海外展開を語るなら、まず「品質を説明できること」が入口になります。ここを押さえたのは極めて大きい。
もう一つの現実——鳴門の海が痩せていく
鳴門わかめの生産量は、2011年と比べ2021年は60%に減少。海の栄養状態が変わってきている可能性があり、「何もせず海が死んでいくのは耐えられない」と社長は考えます。ここから同社の発想は「食品会社」の枠を超えていきます。
産業廃棄物だった「根」と「茎」が価値に変わった瞬間
わかめ加工で出る根や茎は、従来は産業廃棄物でした。同社は発酵の専門家と組み、「わかめの力」を開発。これが地域の農業・畜産に効き始めます。
- 豚の腸内環境が改善し、肉の糖度が上がる(臭みやアクが少なくなる)
- すだち栽培で収穫量・重量が増える
わかめは食材であり、資源であり、地域循環のハブになれる。ここが同社の「逆転の発想」です。
うずしお食品の強みは「技術」だけではない
同社の強みは、単発の技術ではなく、思想と行動を積み上げた結果としての参入障壁です。
- 鳴門わかめという素材力(肉厚、食感、香り)
- 廃棄物を価値に変える発酵・加工の設計力(わかめの力)
- 食品安全マネジメントに裏打ちされた加工品質
- 農業・畜産と10年以上培った信頼関係(短期間では模倣不能)
中小企業診断士としてのアドバイス
1. この会社が縮小市場で伸びた理由(結論)
国内わかめ市場は縮小し、中国産は安い。量や価格では勝てません。にもかかわらず同社が伸びた理由は、市場の土俵を変えたからです。
- 価格競争から降りた
- 高付加価値領域に集中した
- わかめを「食材」から「循環資源」へ昇華させた
結果として「誰に、どんな価値で、いくらで売るか」が明確になり、勝ち筋ができています。
2. 今後の最大課題は「量の制約」と「価格の説明力(伝える✕コラボ)」
生産量の制約は今後も強まる可能性があります。これはリスクである一方、戦略次第で最大の武器になります。ポイントは2つです。
- 高価格帯でも納得される「説明力(エビデンス+体験)」
- 量が限られても利益が出る「構造(利益率重視の設計)」
つまり「売上(数量)を追うのではなく、価値の密度を上げる」方向に振り切るべきです。
3. 戦略(短期・中期・長期)
短期:価値を伝えきる(最優先)
- 鳴門わかめと中国産の差を、食感・香り・栄養で「数値+官能評価」で可視化する
- 肉厚わかめの「食べ方」「使い方」「加工の工夫」を料理提案として発信する(買う理由を作る)
- 食品安全マネジメントの考え方を、消費者にも法人にも伝わる言葉に翻訳する(安心の見える化)
- 「わかめの力」の成果を、農畜産側の実績(糖度、収量、臭み低下等)として事例化する
- 工場見学・現場見学を採用導線にする(高齢化・技能継承への先手)
短期の肝は「価値の翻訳」です。良いものを作っても、伝わらなければ価格競争に引きずり込まれます。
中期:用途別ブランド化と法人拡大(安売りしない)
- 用途別にシリーズ化(ギフト用/飲食店用/自家消費用/健康志向用など)し、売り方を変える
- 価値が分かる法人に絞る(健康食品、介護、こだわり飲食、ハイエンド小売など)
- 自治体連携で「環境配慮型・循環型」の社会的証明を取りに行く(補助事業・モデル事業も含む)
- 共同開発を「定番商品」へ落とし込み、年次で育てる(単発で終わらせない)
長期:海外は「直販」ではなく「技術とブランド」で広げる
- いきなり海外直販はしない(物流・在庫・CS・規制対応で利益が溶けやすい)
- 商社・海外展開する日系企業経由で「高付加価値」需要に乗せる
- 商品だけでなく、加工・品質管理・循環設計のノウハウ提供(技術指導/レシピ提供/品質監査)を収益化する
海外は「量を売る」ではなく、「価値を輸出する」発想が合います。特に同社は品質と循環のストーリーが強いので、価格競争に巻き込まれないルート設計が必須です。
4. KPI設計(なぜそのKPIなのかまで)
KGIは「利益率」と「ブランド価値」。理由は、量が制約される中で生き残るには、数量拡大よりも単価と粗利構造、そしてスイッチされないブランドが重要だからです。
KGI:利益率
- 高付加価値別売上(ブランド別/用途別/取引先別)
- 原価指標:ロス率、歩留まり率、不良率(品質と収益が直結するため)
- 海外売上比率(ただし直販ではなく、粗利が残る形の比率で見る)
KGI:ブランド価値
- 認知:SNS発信数、Web発信数、メディア露出、問い合わせ数
- 体験:工場見学数、イベント参加数(体験は納得単価を押し上げる)
- 継続:リピート購入率(ファン化の最短指標)
特に最初に置くべき最重要KPIは「高付加価値売上比率」と「リピート率」です。量の制約があるからこそ、誰に売っているか(構成)と、スイッチされないか(継続)を見ないと、努力が売上に反映されません。
まとめ:わかめは「食材」ではなく、地域循環のエンジンになれる
うずしお食品の強みは、鳴門わかめという素材力だけではありません。廃棄物を価値に変え、農畜水産をつなぎ、品質を語れる形に整えたこと。その積み重ねが、縮小市場でも勝てる理由です。
次の勝負どころは、「高価格帯の納得」をエビデンスと体験で作り、用途別ブランドで売上構成を設計し、海外は直販ではなく価値輸出で伸ばすこと。量の制約が強まる時代だからこそ、価値の密度で勝ちに行く戦略が効きます。

コメント