価格競争から脱却した町工場|深中メッキ工業が“選ばれるメッキ会社”になれた理由

勝手に企業診断

1953年創業、従業員9人。深中メッキ加工は、いわゆる「町工場」と呼ばれる規模のメッキ加工会社です。

しかしこの会社は、「難しいメッキなら深中に頼め」と言われる存在であり、総理大臣が視察に訪れるほどの技術力を持つ企業でもあります。

その背景には、経営者の覚悟と、「常識」「慣習」「現場感覚」に真正面から向き合い続けた経営判断がありました。


就任時、会社はすでに“詰んでいた”

社長が就任した当時、会社の状況は極めて厳しいものでした。

借入金はすでに膨らんでおり、さらに父が保証人になっていた別会社が倒産。その影響で、借金は年商の数倍にまで膨れ上がっていました。

そこに追い打ちをかけるように、バブル崩壊。市場環境も最悪で、出口はまったく見えません。

社長の頭をよぎっていたのは、「社員に給料が払えなくなるかもしれない」という恐怖でした。

それでも、会社を畳むという選択肢はありませんでした。社員の生活を守りたい。職場を失わせたくない。その思いだけが、社長を踏みとどまらせていたのです。


「不良が出るのは当たり前」という現場の常識

転機となったのは、取引先からの一言でした。

「お宅のメッキ、不良が多くて困る」

社長はすぐに現場に問いかけます。

「なぜ不良が出るのか?」

返ってきた答えは、衝撃的でした。

「メッキで不良が出るのは当たり前です」

理由は誰も説明できない。ただ、そういうものだと“思い込んで”いた。

ここに、深中メッキ加工が抱えていた本質的な問題がありました。


感覚ではなく、データで向き合う決断

社長は、研究機関に調査を依頼し、不良の原因を徹底的に分析しました。

その結果、明らかになった真因は「洗浄不足」でした。

社長は、この結果をデータとして現場に示します。

すると、空気が変わりました。

感覚や経験ではなく、数値と根拠で説明された事実は、現場に強い納得感をもたらしました。

その日から、現場の行動が変わり、不良率は大幅に低下。品質は安定し、結果として売上拡大にもつながっていったのです。


「世界で一番給料の高い中小企業」を目指す理由

深中メッキ加工の経営理念は、極めて明確です。

業績によらず、毎年給料を上げる。

一般的な中小企業経営の常識から見れば、極めて大胆で、リスクの高い方針に映るでしょう。

しかし社長はこう考えています。社員の生活が安定しなければ、良い仕事はできない。

だからこそ、残業削減を含む働き方改革にも踏み込み、あえて手作業にこだわる職人技を残した。

機械化では出せない品質を追求することで、1000分の1ミリ単位で厚みを均一に保つ機能メッキ技術を確立しました。


中小企業診断士としてのアドバイス(今後の伸びしろ)

① 成長の本質は「強みの発見」と「徹底した絞り込み」

この会社の成長の鍵は、強みを見つけ、常識にとらわれず、得意分野への絞り込み戦略を徹底した点にあります。

具体的には、現場改善の成果を「不良率」「高付加価値案件比率」「一人当たり付加価値」という3指標で確認することです。

特に、難易度の高い案件に絞り込むことで、「付加価値を上げ」「不良率を下げ」「一人当たり利益の向上」につなげることができました。

この「量を追わず、難易度を上げる」戦略は、人手不足・設備制約のある町工場にとって極めて合理的です。

② 今後は「チャネルを広げる」+「継続性のある収益設計」

今後は、この戦略をベースに「チャネルを広げる」「将来を見据えた継続性のある収益モデルを構築する」という2点を同時に考える必要があります。

③ 伝える:技術・数値・ストーリーを可視化する

SNSやWebを使い、「1000分の1ミリの厚み加工技術」「他社メッキとの数値比較」「ビフォーアフターの視覚的比較」を定量データで説明・発信します。

加えて、「社長の経歴とストーリー」「総理大臣視察という実績」「あえて手作業にこだわる思想」も発信すべきです。

さらに、高校生向け工場見学などを通じて、技術への興味喚起と採用強化にもつなげたいところです。

④ 広げる:加工業から「未然防止型サービス」へ

単なるメッキ加工ではなく、「難易度の高い受注前の技術診断」「前処理、洗浄、電気量条件の事前確認」「不良発生時の原因分析支援」といった「失敗を防ぐための技術支援」をコンサル型・サブスク型サービスとして展開する余地があります。

特に「医療分野」「精密加工分野」「食品機械分野」といった品質要求の高い領域に絞り、「小型部品」「小ロット多品種」「高付加価値」のメッキ加工・試作開発に集中するのが望ましいです。

また、水回り業界や工場向けに「通常洗浄では落ちない汚れの洗浄サービス」「前処理〜後処理まで含めた品質保証付きサービス」も検討に値します。

⑤ コラボ:自社商品開発という次の選択肢

インテリアメーカーやアクセサリーメーカーとのコラボにより、自社ブランド商品を開発する可能性もあります。

これは短期収益ではなく、技術力の認知拡大・ブランディングとしての意味合いが大きいです。

⑥ 組織改革:手作業こそ標準化する

属人化を極力排除するため、「手作業工程の動画マニュアル化」「判断ポイントの言語化」を進めます。

「職人技=ブラックボックス」にしないことが、継続性のある強みにつながります。

⑦ IT化:人を置き換えない半自動化

「電気量や形状から加工時間を予測」「条件別不良率のデータ蓄積」「段取り時間/品種別分析」などを行い、工程改善につなげます。

すべてを自動化するのではなく、「判断を支援するIT」という位置づけが適切です。

⑧ 海外:攻めないが、乗れる準備をする

海外展開は、「直接進出はせず」「海外メーカーや商社から相談が来た時に対応できる体制」を整えておきます。

メイドインジャパンの技術力を、必要とされるタイミングで提供できればよい、という考え方です。

⑨ 取り組みの優先順位(診断士としての結論)

1. まずは「伝える」で認知度を上げる

2. 並行して組織改革で属人化を抑制

3. 引き合い増加後に「広げる」戦略を展開

4. 安定段階でIT化を深化

5. 余力が出た段階でコラボ・海外を検討

この順番で進めることで、「不良率低下」「一人当たり付加価値向上」「高付加価値案件の安定受注」が実現できると考えます。

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