「もっと商品を増やせば売れるはずだ」「できることは全部やったほうがリスク分散になる」。多くの会社が、無意識に“広げるクセ”を持っています。
ところが、100社以上の成長企業を追っていると、むしろ逆の現象が見えてきます。
上手くいく会社は「絞っている」。しかも、驚くほど大胆に。
ニッチに特化し、用途を限定し、ターゲットを狭くするほど、ブランドは強くなり、利益率は上がっていきます。
この記事では、実際の企業事例をもとに、「絞る」ことで飛躍した会社のパターンを整理していきます。
1. 「これしかやらない」と決めた瞬間、世界が変わった会社たち
ケンズカフェ東京:ガトーショコラ1種類だけ
スイーツ店なのに、商品はガトーショコラ1種のみ。にもかかわらず、その1種が圧倒的に磨き込まれているため、「ガトーショコラといえばケンズカフェ東京」というポジションを確立しました。
種類を増やすことより、たったひとつで市場トップを取るほうが、はるかに強い。そのことを体現している事例です。
クリオロ:チーズケーキに絞る戦略
クリオロも、多様なケーキを並べるのではなく、「幻のチーズケーキ」と呼ばれる看板商品に軸足を置くことで、全国からお取り寄せされるブランドへと成長しました。
2. 用途を絞ると「お客が急にこちらを向く」
木村石鹸:トイレタンク専用、製氷機専用…用途を極限まで絞る
木村石鹸は、「誰でも使える」商品をやめて、「困っている一部の人だけが熱狂する商品」に振り切った会社です。
- トイレタンク専用洗浄剤
- 製氷機専用洗浄剤
- くせ毛やまとまらない髪の人向けシャンプー
用途を明確に絞り込むことで、ターゲットの悩みにピンポイントに刺さる商品となり、結果的に口コミとリピートが増えていきました。
渡辺金属工業:バケツの「用途」に絞る
渡辺金属工業の「OBAKETSU」は、ただのバケツではありません。インテリアとしても成立する見せるバケツ、収納やゴミ箱など、シーンを絞って提案することで、安価な汎用品とは違う世界観を築いています。
3. 誰もやりたがらない市場に「絞る」
筑水キャニコム:大手が参入しない機械だけをやる
筑水キャニコムは、トラクターや運搬車など、大手が嫌がるニッチな農業・林業機械に特化してきました。結果として、世界中の「痒いところ」に手が届くメーカーとして指名される存在に。
大手が参入しない市場は、競争相手が少ない分、価格競争にも巻き込まれにくいのがポイントです。
ニッコー:鮭三枚おろし・ホタテ皮むきなどに特化する食品機械メーカー
ニッコーは、鮭の三枚おろし機やホタテの皮むき機といった、食品加工の「面倒で難しい工程」に特化。ニッチな領域ですが、国内外800社以上の取引先を持つ企業へと成長しています。
4. エリアを絞る:車で1時間以内の顧客だけを見る勇気
スズキ機工:あえて商圏を広げない
スズキ機工は、車で1時間以内の顧客に特化し、地域の食品工場を中心に深く入り込んでいます。
遠くの見込み客を追いかけるのではなく、近くの顧客に対して徹底的に寄り添い、保守や改善提案を繰り返す。その結果、高いリピート率と紹介が生まれ、安定した基盤を築いています。
5. 商品を減らしたら、むしろ売れた
イケヒココーポレーション:8,000品目から4,800品目へ
いぐさ製品メーカーのイケヒココーポレーションは、商品の増やしすぎで在庫と管理コストに苦しんでいました。
そこで、8,000品目あった商品を4,800品目まで削減。売れ筋と戦略商品に絞り込みました。
その結果、在庫は適正化され、顧客への説明もしやすくなり、むしろ売上と利益が伸びるという逆転現象が起こりました。
6. 客層を絞ると「濃いファン」が生まれる
ヤマグチ:上得意客だけに集中する家電店
パナソニック専門店ヤマグチは、近隣の顧客3万人のうち、継続的に購入してくれる約1万人にターゲットを絞りました。
送迎、花の水やり、家具の移動、ペットの餌やりなど、名刺の裏に書き切れないほどの裏サービスで、信頼関係を構築。「家の鍵を預ける」レベルの関係性を築いています。
広く薄くではなく、狭く深く。絞ることで生まれた成功例です。
アックスヤマザキ:子どもと高齢者に特化したミシン
ミシンメーカーのアックスヤマザキは、「子どものはじめてのミシン」や「高齢者にもやさしいミシン」といったターゲット特化商品に注力しています。
結果、SNSやメディアで大きく取り上げられ、「ミシン=難しそう」というイメージを崩す存在になりました。
キャンプ&キャビンズ:子どもに特化したキャンプ場
那須高原のキャンプ&キャビンズは、「子どもが主役」をコンセプトに、ファミリー層にターゲットを絞ったキャンプ場です。大人向けの“おしゃれキャンプ”とは明確に違うポジションを取り、リピーターを増やしています。
7. 企画だけに絞るという選択肢
永楽屋・大川ガラス工業・ハマヤ:企画特化型のビジネスモデル
手ぬぐいの永楽屋、ガラス瓶の大川ガラス工業、手芸卸のハマヤなどは、「企画に絞る」という戦略を取っています。
製造は協力会社に任せ、自社は企画・デザイン・ブランドづくりに集中。こうすることで、在庫リスクを抑えながら、高付加価値の商品展開が可能になっています。
8. 結論:「選ぶこと」は、捨てることではなく伸ばすこと
ここまで見てきたように、「絞る」ことには明確な効果があります。
- 価値が伝わりやすくなる
- 口コミが生まれやすくなる
- 価格競争から抜け出せる
- ブランドが際立つ
- 採用や人材定着にも良い影響が出る
何でもできる会社より、「これならあの会社だよね」と言われる会社のほうが、長い目で見て強くなっていきます。
全部やるのは、不安の裏返し。これだけをやる、と決めるのは、覚悟と自信の表れです。
次に強くなるのは、あなたの会社が「何を捨て、何に絞るか」を決めたときかもしれません。


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