「医療に貢献したい」──その理想だけを胸に、18年間赤字を続けた研究者がいた。
会社の名はメビオール。医療用フィルムを研究していた小さな開発会社だ。
資金は尽き、医療分野での事業化は壁にぶつかる。それでも、彼らは諦めなかった。
「人を元気にするのは、薬だけじゃない。食べものでもできる」
その会長からの一言が、会社の運命を変えた。
医療から農業へ──“人を救う”手段を変えただけ
メビオールの創業者は、もともと医療分野の研究者。臓器や細胞の培養に使う“フィルム”の研究を続けていた。
だが、厚労省の認可を取るには膨大な時間と資金が必要だった。18年間赤字が続き、研究資金は底をつく。
それでも経営者は言う。
「私たちの技術は、人を元気にできる。ならば、医療でなくてもいい。」
そして彼は、医療から農業への転換を決意した。
「水と肥料を吸うフィルム」が、農業を変えた
転機はトマト栽培との出会いだった。
メビオールが開発したのは、水と肥料を吸収する特殊フィルム。このフィルムを使えば、土を使わずに植物を育てることができる。
根が直接水に触れないため病気に強く、節水効果も高い。しかも、フィルムが栄養を均等に吸収させることで、甘くておいしいトマトを一様に作ることができる。
「土も経験もいらない。誰でも始められる農業。」
それは、まさに“フィルムで作る未来の畑”だった。
世界が驚いた──120カ国で特許を取得
この“フィルム栽培技術”は、今では120カ国で特許を取得。
アジアや中東など水資源が限られる地域でも導入が進み、「砂漠でトマトを作る」ことすら可能になった。
メビオールの小さな技術が、“水と食”という地球規模の課題を救う鍵になりつつある。
「私たちは、農業の形を再定義したい。」
この言葉の裏には、18年間赤字でも諦めなかった研究者の信念がある。
社会課題を解く、未来志向の農業
メビオールの技術が解決しているのは、単なる生産効率ではない。
- 水資源の枯渇
- 農業人口の減少
- 土壌汚染
- 食の安全
これらの課題を、技術で根本から変えようとしている。「医療の延長線上に、農業がある」──それがメビオールの発想だ。
中小企業診断士としての視点:農業×テクノロジーが描く“第3の産業革命”
私が中小企業診断士の立場で見て特筆すべきは、この企業が「技術 → 社会課題解決 → 収益化」という流れを明確に描けている点だ。
1. 伝える:技術の“社会的意味”を発信する
- SNSやウェブで、フィルム技術が「水と食を救う技術」であることを発信。
- 単なる商品説明ではなく、「誰でも農業を始められる仕組み」として訴求。
- 農業未経験者向けに、動画や体験談で栽培ノウハウを共有。
2. 広げる:新規農業者向けパッケージ展開
フィルム+栽培ノウハウ+測定器をセットにした農業スターターキットを販売。
新規就農者や都市農園向けに、コンサル+機材提供の仕組みを構築。
3. IT化:スマート農業の基盤へ
フィルム栽培にIoTセンサーを組み合わせ、水分量や肥料濃度を自動制御。
スマホでリアルタイム管理できる「農業の見える化」を実現。
4. 広げる(収益の柱):ライセンス・ロイヤリティモデル
フィルム製造を他社に委託し、技術ライセンス提供によるロイヤリティ収益を確立。
農業資材メーカーや海外企業との提携を進め、スケール拡大を狙う。
5. 補助金の活用
「ものづくり補助金」や「スマート農業実証プロジェクト」などの国策補助金を活用し、研究型から社会実装型への転換を加速。
「薬で人を救う」から「食で人を救う」へ
メビオールが歩んだ道のりは、“研究の延長ではなく、使命の延長”だ。
「薬で人を救えないなら、食で人を救えばいい。」
赤字18年の苦闘の末に咲いた一つのトマトは、技術が社会を変えることを静かに証明している。


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