「もう新卒は採らないほうがいい」。
そう言われた会社が、今では世界の工場で使われるセンサー技術を生み出している。
精密機械用センサーの専門メーカー、メトロール株式会社。1976年創業、社員110人。
平均年齢65歳からの再スタートは、まるで再起動の物語だ。
経営者の決意:スパルタの会社に、希望の風を吹かせる
社長が就任した当初、メトロールの平均年齢は65歳。
長年勤め上げた職人たちが支える、典型的なベテラン集団だった。
しかしその一方で、新卒が続かない。8人入社して3年後に残るのは1人。
原因はベテランによる“スパルタ教育”だった。
「俺たちの時代はこうだった」「見て覚えろ」
そんな言葉が飛び交う職場に、若手は居場所を見いだせなかった。
数年間、新卒採用を見送るという苦渋の決断を下した社長。
しかし「このままでは技術が途絶える」という危機感から、再び採用を再開する。
80歳と20歳の共創──奇跡のセンサー誕生
採用を再開して数年後、ある奇跡が起きる。
入社2年目の若手社員と、80歳代のベテラン技術者がコンビを組み、新型センサーの開発に成功したのだ。
若手が「この機構をもっと小型化できませんか?」と提案すると、
ベテランが「昔ならこんな部品を使った」と過去のノウハウを語るなどあったのだろうか。
ヒットし、国内外のメーカーから注文が舞い込んだ。
「技術は年齢ではなく、掛け合わせで生まれる」
この経験を通じ、社内には少しずつ“笑顔で議論する文化”が芽生えた。
今では、若手とシニアが同じ机で新しいアイデアを出し合う光景が日常になっている。
強み:0.1ミリの誤差も許さない、職人技術の結晶
メトロールの技術は、単なる「センサーづくり」ではない。
加工部品がどこまで正確に位置しているかを“空気の圧”で検出する技術を持つ。
このセンサーが工作機械の精度を支え、「不良品を出さない工場づくり」を陰で支えている。
さらに、温度・振動・接触を検知する多様なセンサーシリーズを展開し、製造現場の“見えない誤差”を数値化している。
中小企業診断士としての提案:人×データ×連携で「次の精度」を創る
ここからは、診断士の視点で見たメトロールの今後の成長戦略である。
同社の強みは「人に根ざした技術」。それをデータと共創で進化させることが鍵になる。
- 自社商品:IoTと連携した“スマートセンサー”へ 既存の位置決めセンサーにIoT機能を組み込み、稼働状態・故障余地・異常値をリアルタイムに可視化する。
製造現場のダッシュボード化を進めれば、「止まらない工場」の実現につながる。 - 技術承継:ベテランの技を“データで残す” 熟練者の加工ノウハウや測定値を動画・数値・設計図でアーカイブ化。
加工条件、失敗例、判断根拠を含めてデータベース化すれば、次世代の設計者が“技を再現”できる。
この取り組みには、人材育成助成金の活用も有効だ。 - 広げる(市場):センサーの舞台を拡張する 工作機械だけでなく、
・医療機器の精密位置検知
・産業ロボットの安全制御
・EV部品の温度モニタリング
など、成長市場での展開が期待できる。 - 伝える:技術と人を“見せる” SNSやウェブで、製品スペックだけでなく、若手×シニアの共同開発ストーリーを発信する。
「80歳と20歳のタッグ」こそ、最も強いブランディング素材だ。 さらに、若手設計者向けセミナーや学生向け技術講座を開けば、人材確保と社会貢献の両立ができる。 - コラボ:外と組んで、内を磨く 大学や高専、スタートアップとの共同研究で、タッチ+加速度+温度+振動など複合センサーを開発。
その成果をSNSや展示会で発信することで、企業ブランドの深化につながる。
まとめ:技術は、年齢を超える
メトロールの挑戦は、単なる技術開発ではない。
人の限界を信じず、世代をつなぐ経営そのものだ。
「80歳と20歳が並んで、同じ未来を見ている。」
その光景こそ、日本のものづくりが進むべき道だ。
熟練と若手、技術とデータ、人と人──その融合が、次の“精度”を生む。


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