「売らない自転車屋」──米澤自転車店が選んだ“逆転の成長戦略”

勝手に企業診断

「売ったら終わり」。かつて、そんな言葉を浴びせられた町の自転車屋がある。1954年創業、従業員23人の米澤自転車店だ。

この言葉を聞いて多くの人は落ち込むかもしれない。だが、店主は違った。

だったら“直す”ことを徹底してやってみよう。

この決断こそが、米澤自転車店のターニングポイントだった。

経営者の決意:売るより“支える”ほうへ

当初、同店はどこにでもある販売中心の自転車屋だった。新車販売が伸び悩み、業績は右肩下がり。
「お前の店は売るだけの店だろ」と言われたことが、社長の心に火をつけた。

「誰もやりたがらない“修理”を、とことんやる」と決意。
雨の日も炎天下の日もお客様のもとへ駆けつけた。その誠実な対応が口コミを呼び、次第に評判が広がっていく。

今では新規来店客の8割が出張修理サービスをきっかけにしており、「町の便利屋さん」として地域の生活に欠かせない存在となっている。

強み:生活目線の自転車づくり

米澤自転車店の魅力は、単なる修理屋ではない点にある。「どうすれば、毎日の移動がもっと快適になるか」──この生活者視点が商品づくりに息づいている。

  • 前方が見えやすい横長LEDライト
  • カバンが安定して置ける幅広カゴ
  • 長距離でも疲れにくい柔らかサドル

細やかな工夫が詰まった自社ブランド自転車を、すでに40種類も展開している。
そして最大の強みは、やはり親切丁寧な出張修理。出張費は無料で、「困ったときにすぐ来てくれる」という安心感が、地域の信頼を支えている。

中小企業診断士としての提案:データと共創で“次の町のインフラ”へ

ここからは、私(中小企業診断士)の視点で見た今後の展開提案である。
米澤自転車店はすでに“修理屋”の枠を超えている。今後は地域のモビリティ支援業として進化できる。

  1. IT化:効率化 出張修理の最大の課題は、移動と時間の管理だ。位置情報×LINE×予約システム(LINEやGPS、カメラ機能)を組み合わせて、顧客が「今どこに来ているか」「どのくらいで到着するか」を可視化する。 修理履歴や顧客データ(家族構成・年齢層など)をデータベース化し、点検時期の自動通知や誕生日クーポンなど、販促施策にも活用できる。
  2. 広げる(収益の柱):法人・自治体とのサブスク契約 出張修理を法人向け定期点検サービスとして展開。マンション管理会社、介護施設、企業の福利厚生などに導入する。 さらに自治体や観光協会、高齢者施設と連携してレンタサイクル事業を展開し、地域活性化にも貢献する。
  3. 広げる(コラボ):生活用品とのセット提案 レインウェア、ヘルメット、反射材などを自転車とセット販売し、「安全・快適な通勤通学スタイル」を提案。反射材メーカーやスポーツ用品企業とのコラボも有望だ。
  4. 伝える:SNS×教育×体験イベント SNSでは、自社ブランド紹介だけでなく「パンク修理のコツ」「雨の日の安全対策」など、生活者目線の情報を発信親子向け・高齢者向けに安全教室や修理体験ワークショップを開催し、地域との絆を深める。

まとめ:「直す力」が信頼を生む時代へ

逆転の発想で、“自転車屋が嫌がる無料出張サービスにこだわった自転車屋”として生まれ変わった米澤自転車店。その原点は、「困っている人を助けたい」という小さな想いだった。

結果として、地域に根ざし、信頼でつながるビジネスモデルを築いた。モノを売る時代から、関係を直す時代へ。

今日もどこかで、米澤自転車店のスタッフがペダルをこいでいる。修理という仕事が、地域の安心を回しているのだ。

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