1927年創業、従業員15人の老舗手芸卸・ハマヤ。
いまや、手芸卸事業と他社向けDXコンサル事業で売上を二分するユニークな企業ですが、その出発点は決してスマートなDX成功ストーリーではありませんでした。
■ 20万アイテムの在庫カオス。そこからすべてが始まった
かつてのハマヤは、約20万点もの商品を取り扱う一方で、在庫は雑然と積みあがり、過剰在庫の状態が常態化していました。
- どこに何があるのか、ベテランしかわからない
- 欠品だと思って発注したら、実は倉庫の奥から見つかる
- 在庫を持っているのに売れない、動かない
このままでは持たない。そう判断した経営者は、思い切ってITを導入し、DXに舵を切ります。
■ DX導入で現場は大反発。「仕事を奪うのか」
しかし、現場の反応は冷ややかでした。
新システム導入の話を聞いた従業員からは、
「自分の仕事を取るつもりなのか」
という強い反発の声が上がります。
経営者としては、単純作業を減らし、空いた時間を「商品の価値を伝える仕事」に使ってほしいという意図がありましたが、そのメッセージは現場に届いていませんでした。
この経験から社長は、
「DXは痛みを伴う。だからこそ、丁寧なコミュニケーションが不可欠だ」
と痛感し、現場と向き合うスタイルへ大きく舵を切ります。
■ 年間5,760時間削減。DXの痛みが「武器」に変わる
試行錯誤の末、ハマヤのDXは形になっていきます。
- 在庫やロケーションの一元管理
- 発注・入出荷・棚卸しの標準化
- 作業時間やコストの見える化
結果として、年間5,760時間もの業務削減・効率化を実現。過剰在庫や探し物時間といった「見えないムダ」を大きく減らすことに成功しました。
この成功体験が、ハマヤを次のステージに押し上げます。
「DXの痛みと失敗も含めて、同じように悩む企業の役に立てるのではないか」
そう考えた経営者は、自社の経験を体系化。いまや手芸卸としての顔に加え、他社のDXを支援するコンサル事業でも売上を立てるまでに成長しています。
■ ハマヤの強み:現場発DXと20万アイテムの知識
ハマヤの強みは、単に「システムを入れた会社」ではなく、現場の痛みを知っていることにあります。
- 20万点の手芸関連商品の取り扱い経験
- 倉庫や棚配置、ロケーション管理のノウハウ
- アナログ現場の抵抗を乗り越えたDX導入経験
- 自社で開発・運用している独自システム
机上の空論ではなく、「本当に現場で使えるDX」を語れること。これが、ハマヤならではの差別化要因になっています。
■ 地味だけど頼れる自社商品「アシアト」
ハマヤは卸やDXだけでなく、自社商品の開発にも取り組んでいます。
代表的なのが、アシアトと呼ばれる陶器製の糸玉ホルダー。毛糸や糸が転がったり絡まったりするのを防ぐ小さな道具ですが、
- 編み物中のストレスが減る
- 糸玉がコロコロ転がらない
- 小物なのに「一度使うと戻れない」
と、手芸ユーザーの「あるあるな不満」に刺さるアイデア商品です。
■ 中小企業診断士の視点:ここからの伸びしろ
1.絞る:用途とターゲットを明確にする
20万点を単品販売するだけでは、手間もコストもかかり過ぎます。そこで有効なのが、用途別のパッケージ化です。
- 初心者向け刺繍スターターキット
- シニア向けリハビリ手芸キット
- 親子向け夏休み工作キット
- 教室・カルチャースクール向け「先生用サンプル+生徒キット」セット
また、DXコンサル事業も「何でも屋」ではなく、手芸卸、雑貨店、学校教材・文具卸など、近しい業種に絞ることで、ハマヤの経験をひな形DXとしてパッケージ化しやすくなります。
2.広げる:教室・スクール市場への展開
手芸教室やカルチャースクール向けに、次のようなセット販売も考えられます。
- 先生用完成品サンプル
- 生徒人数分の材料キット
- 作り方レジュメや動画QRコード
これにより、「教材+卸+ノウハウ提供」という新たな収益モデルを構築できます。
3.伝える:DXと手芸の両面を発信する
DXノウハウは、個別コンサルだけでなく、ウェビナーやオンライン講座として提供することで、より多くの企業に届けることが可能です。
- アナログ作業に悩む中小企業向けDXセミナー
- 手芸初心者向けの簡単編み物講座
- 「20万アイテムをどう整理したか」という事例発信
また、手芸好きコミュニティーを育て、手芸ネタとDX裏話を混ぜて発信することで、“ハマヤらしさ”を持った情報発信ができます。
4.コラボ:ITベンダー・作家・インフルエンサーとの連携
地域のITベンダーとの協業や、人気ハンドメイド作家とのコラボ商品、商工会議所経由のDX講演など、コラボの余地は大きく広がっています。
5.自社商品:収納・整理の悩みに応えるブランド展開
手芸ユーザーは「収納と整理」に常に悩んでいます。
- 刺繍糸の収納ケース
- ビーズやパーツの仕分けケース
- 作業途中の作品専用収納ボックス
こうした「片付けのストレス」を解消する商品をシリーズ展開することで、ハマヤブランドを強く打ち出すことができます。
6.IT化のさらなる推進と「雛形DX」のテンプレ化
作業時間、売上、費用といったデータを継続的に蓄積し、意思決定に活用していくことが重要です。また、自社が行ったDXのプロセスをマニュアル化・標準化し、「雛型DX」として外部企業に提供することで、コンサル事業の生産性も高められます。
■ まとめ:DXの痛みを、そのまま価値に変えた会社
ハマヤのストーリーは、「DXはきれいごとではない」という現実を教えてくれます。
- 20万アイテムの在庫混乱
- 現場からの猛反発
- 丁寧な対話を通じて乗り越えた導入プロセス
その痛みを経験したからこそ、同じように悩む企業に寄り添えるDXコンサルへと進化できた。ハマヤは、まさに「自社の苦労を武器にした」中小企業の好例と言えるでしょう。
手芸卸でありながら、DXのリアルを語れる存在。ハマヤの挑戦は、これからも続いていきます。


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